2007年12月13日
歯科医師:「日本口腔ケア学会」理事 阪口英夫
誤嚥性肺炎と口腔ケア
寝たきりや障害をもつお年寄りが亡くなる原因の第1位は肺炎であると言われています。肺炎と聞くと空気中にある細菌を吸い込んで起こる病気のような気がしますが、お年寄りがかかる肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と呼ばれるもので、空気中の細菌が肺に入ることによって起こるのではなく、口の中に常時いる細菌(口腔常在菌)が肺に入ることによって起こるのです。
誤嚥(ごえん)とは、簡単にいうと飲み込みに失敗するということですが、飲み込んだ唾液や食べ物が食道へ流れ込まずに気管という肺につながり息をする穴に流れ込むことを意味します。健康な方だと咽る(むせる)という形で強い咳が出ますが、反射能力の低下したお年寄りなどでは咳などがでないことも多く見られます。
食べ物を飲み込むという嚥下動作の能力は、年齢と共に低下し、さらに脳血管障害などの病気になると食べられる食べ物の種類に制限を設けなくてはいけない場合も出てくることがあります。飲み込みの動作が悪くなってくる上に、反射の能力も低下するわけですから、お年寄りで寝たきりの状態にある人などでは、誤嚥の機会が増加するわけです。特に誤嚥が起こっても、咳などの反射が出ないことを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)と呼びます。これが肺炎の最大原因であるといわれ、寝たきりのお年寄りなどでは、寝ている間などに誤嚥をして、咳などが出ないために誤嚥に気づかれず、肺炎に移行するというケースが後を絶ちません。
誤嚥される細菌は口の中に常時存在するものです。少量ならば、それほど悪さをしませんが、大量に入るとたちまち肺炎を起こすこともしばしばあります。寝たきりのお年寄りでは体の不自由から歯磨きが怠りがちになるだけでなく、加齢による唾液分泌の減少、咀嚼(そしゃく)運動の減退などによる口腔自浄作用(こうくうじじょうさよう)の低下から口の中が若い人より汚れやすくなるので、大量の細菌を口の中に貯めているケースも少なくありません。
口の中にある大量の細菌を寝ている間に誤嚥してしまうのですから、肺炎が起こってしまうのもうなずけます。なんとお年寄りの死亡原因第1位はこの肺炎であり、その80%以上が誤嚥性肺炎であるとの研究結果も出ています。
この誤嚥性肺炎を予防する方法はいくつかありますが、もっとも効果的な方法として注目されているのが口腔ケアです。口腔ケアとは普通の歯磨きと同様に口の中をきれいにすることを意味しますが、最近では、寝たきりのお年寄りに合わせた口腔ケアの方法が数多く開発され、さらにはそれに合わせた用品や薬品の開発もされるようになりました。それにより口の中の細菌数を減らして誤嚥性肺炎予防を行うだけでなく、口の機能を活発に高めて、誤嚥を減らすための口腔ケア方法なども開発がすすんでいます。
年をとっても元気でいたい、寝たきりになっても楽しく暮らしたいというのは誰もがもつ願いです。口腔ケアを行うことによって誤嚥性肺炎を予防し、1日でも長く、元気に楽しく暮らせるようになるといいですね。


