2007年12月13日
「日本眼科学会」認定眼科専門医・京都大学医学博士
遠谷眼科(兵庫県尼崎市)院長  遠谷 茂

信頼できる、質の高い医療を受けていただくために

「信頼とは何か」ということが、今ほど私達の心の中で大きく問われることは過去になかったと思います。耐震偽装、賞味・消費期限偽装、産地偽装、年金、薬害肝炎訴訟問題で起こった、提供された情報を信じることしかできない立場の人々の信頼を裏切るというようなことが、世の中で行われては決してならないと思います。

ここ数年、テレビ、雑誌、インターネット等を通じて「いい病院」や「いい医師」を探そうとする試みが頻繁に行われるようになっていますが、発信されている情報の中には、内容が偏っているものや、誇張されたもの等があるのも事実です。しかし、それがわかる人は非常に少ないのではないでしょうか。

私ならば「いい医師」とは「病気を的確に発見し、適切な治療を迅速に行える医師」と定義します。もちろん現在の医学では治療法がない難病もあるのですが、基本的に「医師は治してこそ医師」だと思います。ここでいう「治す」ということには、自分で治す以外に医師を紹介するということも含まれます。医師にはそれぞれ専門分野があるので、よりよい治療が行える別の医師や施設に患者さんの紹介を行うことも、医師の重要な能力のうちだと思います。

私の診察室では最近、初めて来られる患者さんの中に、どうしてこんな診断をされたのだろうと思うような人がしばしばみられます。全くその病気の兆候がないのに「あなたは手術をする時期にきています」と医師から告げられて驚き、それが本当かどうかを確かめるためにセカンドオピニオンを求めて来られた患者さんもありました。私はその患者さんに「手術の必要はありません」と答えましたが、なぜこのような事態が起こっているのか正直いってわかりません。手術には必ずリスクが伴いますから、不必要な手術はするべきではないのです。医師という肩書きは、大学卒業後国家試験に合格すれば誰でももらえるものです。しかし、医師としての本当の実力は、その医師が肩書きをもらった後にどれだけ努力するかにかかっています。テレビドラマの主人公のように、高い医療技術を持ち、患者さんとのコミュニケーション能力にも優れた医師が理想ではありますが、現実は違います。会話が多くて親しみやすいけれど診断能力はもうひとつという医師もいる一方、見かけは無愛想でも患者さんとの短い話で的確に診断ができる医師もいます。もし医師とのコミュニケーションで不安を感じたときは、周囲にいるスタッフに尋ねてみるのもひとつの方法です。ベテランのスタッフになると経験を積んでいますから、新人医師よりもいろいろと気がつく点が多いですし、患者さんの不安をうまく医師に伝えてくれることもあります。私の医院でも患者さんが「医者の前では不安と緊張で言いたいことの10分の1も言えなかった」と本音をスタッフにもらされて、それが私に伝えられることがよくあります。

最近のマスコミで気になることは、私には取材をうけた医師の考えとは離れたところで情報が歪められているように思えてならないのですが、「短時間で手術ができる」ということが強調されることです。確かに手術時間が短く、かつ技術のレベルも高いという医師は存在します。しかし、手術時間は短いけれども、技術は改善の余地ありという医師もいます。現在のように手術器械の性能が極めて高度になると、手術の技術も繊細で難しくなりますから、執刀医はいつも冷静かつ慎重でなければなりません。私の専門分野のひとつである白内障手術を例にあげていえば、手術翌日に患者さんの眼を顕微鏡で見れば、丁寧で質の高い99点の手術がされた眼か、70点の合格ラインぎりぎりの手術がされた眼か、すぐにわかります。100点の手術というものは存在しません。なぜなら、医師は今日の自分に満足することなく日々努力を重ね、自分の知識と技術を向上させて、患者さんの信頼に応え続けていくべきだと思うからです。ほとんどの患者さんにとって、手術は一生に一度のことです。大切なことは、手術の速さを競うことではなく、安全確実を目指し、無駄のない丁寧な手術を行うことだと思います。

最後に、患者さんの側にも積極的にご協力をお願いしたいことがあります。それは「医師と一緒に治療に参加する気持ちを持つ」ということです。人間誰でも自分の病気は軽いものだと思いたい気持ちがありますから、自己診断はとても危険です。いくつかの病院を転々とされた末に当院で手術をされた患者さんは、最初にかかった病院から当院に来られるまでに2年という月日が経過し、視力がほとんどない状態でした。もっと早くに手術をしていれば、視力がもう少し維持できたはずでした。もしかするとその患者さんは、自分の病気はひどい病気ではないと思い込もうとして、自分が望むような診断をする医師を探し続けていたのかも知れません。結果として手術の時期が遅れ、大変残念なことになりました。別の患者さんは「こんなに待たされてはイヤだ。どうせ診察はどこでも一緒だから帰る。近所の目医者に紹介状を書いてくれ」といわれました。治療をしないと失明につながる緑内障の人でしたが「説明は近所の医者からでいい」と主張されたので、ご希望どおりに紹介状を書きました。とても残念な気持ちになりました。病気によっては待ち時間がどれだけかかろうとも、その分野の専門医の診察を受けるかどうかで自分の生命さえ左右することがあります。ですから、たとえどんなに待っても診察は必ず受けて、医師と一緒に治療に参加していただきたいと思います。

以上、最近の事情から私見を述べさせていただきました。ひとりでも多くの人に、信頼できる、質の高い医療を受ける際の情報として役立てていただければ幸いです。