2008年01月07日
「日本有病者歯科医療学会」理事長・医学博士・日本歯科大学教授
白川 正順
内科系の疾患を持つ患者さんのための歯科治療
-日本有病者歯科医療学会の取り組み-
1.超高齢社会における歯科医療
わが国は世界第1位の長寿国となり、先ごろ発表の総務省統計局調査では、65歳以上の高齢者人口は2,744万人(21.5%)と膨張の一途をたどっています。高齢になると高血圧や心臓病、糖尿病などの内科系疾患にかかる(以下、有病者)頻度が高くなります。従って、高齢患者のほとんどが内科系疾患を持っていると考えてもよろしいでしょう。
さて、歯科治療は痛い、怖いというイメージを誰もが持っています。実はこの恐怖心は血圧が上がることに関係します。「白衣高血圧症」はよく知られていますが、歯科治療の恐怖心はこれに輪をかけます。ましてや、高血圧、心臓病(狭心症や心筋梗塞など)あるいは脳血管障害の患者さんの歯科治療はリスクを伴いますから、どの歯科医もかなり神経を使います。
これら有病者に対する歯科治療の対応法や全身的、局所的な影響などについて、まさに「日本有病者歯科医療学会」は歯科臨床学を基盤とする研究や教育活動を展開しています。
2.有病者のための、より安全なインプラント治療
ファーストフードやインスタント族は別として、現代人にとって「食」とは、科学を基盤とした食生活だけでなく「美学」と「楽」を調和させたゆとりの食文化時代を形づくっています。しかし歯がなければ、全くはなしになりません。
一般に歯の喪失と年齢は比例しますから、食文化を楽しもうとする頃、肝心の歯がなくなります。最近では失った歯を一気に取り戻そうと、インプラント治療の需要が高まっています。というのは、インプラントは生来の歯のような自然感と、何でもかめる機能性など、完成度の高い人工臓器としての評価を得ているからです。インプラント治療は歯のない人たちが対象になります。この人たちは圧倒的に高齢者に多いわけです。この治療は、手術が必携ですので高齢者や有病者についてはこれに見合った全身的な配慮が必要になります。
先に触れましたが、歯科受診で血圧が約20~30㎜Hgくらいは上がる方がいますが、これは緊張による心因反応(ドキドキ)のためです。また実際に手術が始まり、経過のなかで痛みや不安を自覚すると脈拍が速くなり、血圧も高くなります。このようなことが起こっても、健康な方は影響を受けませんが、高齢者や有病者では思わぬトラブルが起こったとしても不思議はありません。
そのため、高齢者や有病者のインプラントの手術は、脈拍計や血圧計、心電計などを整えた全身管理下でバイタルサイン(脈拍、血圧、体温、呼吸数など)をチェックしながら治療することがより安全となります。また、止血や感染防止などの局所管理にも配慮されなければなりません。
以上の点から、高齢者や有病者の方で、インプラント治療や歯科治療を希望される場合、全身的にも局所的にも対応が万全な施設を選ばれることをお勧めします。最近では大病院でなくても、設備の整った歯科クリニックが増えています。
一般に、歯科医療と全身とは無関係と考えがちですが、口腔機能と嚥下(えんげ)や呼吸機能、かみ合わせと脊椎との関係、また口腔粘膜の疾患と全身疾患とのかかわりなど、関係が深いことについてもこの機会に知っていただければ幸いです。

