2009年03月02日
「わたしと薬」 (兵庫県・40歳 女性)
パチン。足の爪を切ったとき、する音。このなんでもない音が何年かぶりに聞けた時、どんなに嬉しかったことだろう。
「先生、この間爪を切ったら何年かぶりにパチンって言ったんですよ!!」
そう診察室で報告したら、先生と看護師さんは大爆笑だった。
「もう何人もの患者さんが完治するのを見てきたけど、そんな感想は初めて聞いた。」そう言って下さった上、
「その独特の表現力は何かに使ったらどうや?表現者になれよ。音楽でも絵画でも、文章でもええぞ。」とアドバイスを下さった。でも本当に嬉しかったのだ。素直な私の心の声だったのだ。
私の爪は菌に冒されて、分厚くなってしまっていた。爪切りで切るとぼろぼろと粉のようにむなしく落ちる足の爪。菌に冒されているといっても、痛いわけでも痒いわけでもないが、夏など油断すると皮膚に出てきて悪さをする。その菌をたたく唯一の方法は大嫌いな内服薬を飲むこと。それはどうしても嫌だった。
爪を菌にやられて10年以上経つ。何人のお医者さんにかかっただろう。内服薬は嫌だというとそろってみんな面倒くさそうに診察をした。そのことがとても悔しかった。いちばん面倒くさいのはお医者さんではなく、私だったからだ。それに、納得しないで服用するのも嫌だったのだ。ようやくいい先生に当たったと思ったら、菌の種類を間違えておられた。一週間で大量に飲む飲み方で服用したが、親指の爪だけ治ら
なかった。おかしいなと思いつつ、そのまま放置していた。そしてそのまま数年が過ぎたある日、今の先生に出会った。先生はきちんと診察して下さり、菌の種類が前の先生の飲み方では退治できない菌だと言って下さり、私の中の謎は解明した。そして「頑張って治そうな。」と励ましてくださったので、私は大嫌いな内服薬にもう一度挑戦することにした。とはいえ、半年もの間、毎日毎日この薬を飲むのは本当につらかった。一日一回だったから、余計に忘れそうになるのだ。しかし、飲み忘れると効果が薄れるのはいやで、一生懸命続けた。肝臓の数値も幸い影響はなく、最後まで飲み続けることができた。4ヶ月経ったころがいちばんしんどかった。しかし先生が、「ここで辞めたら今までの苦労がすべて水の泡になるぞ。頑張れ。」と励まして下さった。もともと薬が嫌いなのに、半年もの間飲むのは本当に辛かった。それに加えて、この薬の値段の高いことといったらなかった。
月に一度4週間分を処方してもらうだけで、一万円近くもするのだ。ジェネリックがないからとのことだったが、会社を休職している身で、月に一万円の薬代というのも本当に辛かった。でも、ただ休職している時間を過ごすなら、前向きに菌を退治する気持ちで立ち向かってやると意気込みを持って頑張った。
薬が大好きな人には、考えられないことかもしれないが、理由はないがなんとなく嫌いな私にとって、本当に飲むことが挑戦だった。でも、飲み終わった今、頑張って飲んで治して本当に良かったと思っている。
身体の中に菌がいて、何かにつけて悪さをするという状態から開放されたのだ。
今年の夏からは、足先がよく見えるサンダルを履いて、その爪には綺麗なぺティギュアをするつもりだ。夏がやってくるのが楽しみで仕方がない。
こんなふうに思えたのも、副作用のない薬が開発されたおかげなのだと、やっと思うことができた。薬は、飲み方を誤らず、その病気に対抗してやるぞという思いで望めばいい結果が得られるものなのだと、今更ながらに学習した。
皮膚科の先生と、イトラコナゾールに心から感謝したい。
そして私は今年、久しぶりに本当の夏を迎えられるような気がしている。

