2009年03月23日

「わたしと薬」 田村 靖彦 (奈良県・56歳)

 三十代の後半に十二指腸潰瘍を患った私は、治った後も再発予防のために、医師に処方された薬を飲んでいました。
 それでも年に一・二度は十二指腸の辺りに痛みを感じることがあったのです。
 五十歳を迎えた年のことです。いつものように医院に行くと、あの潰瘍が出来た時からの付き合いとなった医師が、このように話しました。
「胃や十二指腸の潰瘍の原因のひとつにヘリコバクターピロリ菌、通称ピロリ菌と言われているのですが、この菌が関係していると言われています。一度ピロリ菌があなたの体にいるかどうか検査してみましょうか」
 こうして検体を採った私は、医院へ持って行きました。不衛生な時代に育った私たちの世代の多くは、ピロリ菌に感染していると言われています。
 ですから私もその中に、多分入っているだろうと思っていました。一週間後、私の予感は当たっていました。検査結果を見た医師も、やはりという表情で私に言いました。
「検査結果は陽性でした。でも心配しなくてもいいですよ。今ではピロリ菌を除菌する良い薬がありますから」
「本当にその薬は効くのですか」
「ええ、除菌成功率九十パーセント以上ですから、ほとんどの人に効きます。この薬でピロリ菌を除菌すれば、もう予防のために薬を飲み続けなくて済みます。この薬を処方しましょうか」
「ええ、お願いします」
 こうして医師からピロリ菌を除菌する薬の用法や用量の説明を受けたのです。
 このピロリ菌除菌薬を飲み続けて一週間後、再び検体を採り医院へ向かいました。私の声を聞いた医師が受付まで出て来て、笑いながら言いました。
「また一週間後に検査の結果が分かりますから。大丈夫ですよ、もうあなたの体の中にピロリ菌は、除菌されていないはずですから」
「そうだと良いのですが」
 医師の言葉とは裏腹に、体の中に今でもピロリ菌がいるような気がして、私は半信半疑で答えました。
 その日から十日後、忙しい仕事の合間を見つけて医院を訪ねました。医師は何か期待でもするかのような顔で、私の検査結果を封筒から取り出しました。
「ほら、見て下さい。検査結果の項目はマイナスになっているでしょう。ピロリ菌除去に成功しました、おめでとう」
「ありがとうございます。もう私の体の中にピロリ菌がいなくなったのですね。ちょっとまだ信じられない気分です」
 こうしてピロリ菌の除去をした今、胃や十二指腸の痛みに患わされることもなく、健康な毎日を送っています。