2009年08月31日

「ぱりん」 原田和子(大阪府・40歳)

ぱりん
 私の薬は白くて丸い小さな錠剤。
 毎晩寝る前に一錠を割って、その半分だけをぬるま湯で飲む。
 夫のどっしりとした太い指に頑丈に付いている四角い親指の爪は、まるで中華包丁みたいにまっすぐに薬を割ってくれる。
「ありがとう」
 微笑みを交わし、二つになった小さな錠剤を落とさぬよう大事そうにそっと受け取る。
 吐く息で飛んでなくなりそうなほどの小さな白い薬。
 掌に乗せると、重さはなく、カサカサして少し温かく感じる。
 彼は手先が器用じゃないほうなのに、どこで覚えたか上手く割っている。


 夫が風邪で高熱を出した夜。
 彼の看病も、一日の仕事も全て終えて、私はひとり、寝る前にカッターナイフで薬を割る。
 ぱりん
「わあ、すごくきれいに割れたよ。カッターナイフの威力はすごい」
 私が喜んでいると、隣の和室で寝ていた夫が、布団の中から鼻声で小さく呟いた。
「俺は用済みか」
「そんなことないよ」
 その夜の薬は、カッターナイフで切った切り口が鋭利過ぎたのか、すこし喉に引っかかるような気がした。
 夫の熱は三晩続いた。

 夫の風邪が治った夜、私の薬をいつものようにプラスチックケースから取り出す。
 カッターナイフを使えば錠剤がうまく割れると分かったから、もう自分で割れと言われるのかな?
 そう思っていると、後ろから夫が声をかけた。
「貸してごらん」
 彼の大きな四角い爪が、いつものように薬を半分にしてくれた。
 ぱりん
 今度は何故か上手に割れない。
 四分の一程が小さくばらばらになって机の上に散らばった。
 「あれ?さぼったせいで下手になったかな?」
 焦る夫に笑って言った。
「これから毎日練習できるから」
 やっぱり私は、夫の爪で割ってくれる、角の尖っていない薬を飲みたい。