感染への注意が求められるジカ熱(ジカウイルス感染症)

 
 
東京医科大学病院 国際診療部・渡航者医療センター 准教授
水野 泰孝 医師

    
 
 中南米を中心に多数の報告があるジカ熱(ジカウイルス感染症)は、デング熱やチクングニア熱などと同様に、蚊を媒介して広がる感染症です。その原因であるジカウイルスは1947年にウガンダのジカ森林に生息するアカゲザルから発見されたウイルスです。またヒトの場合も1968年にナイジェリアで確認されるなどアフリカで報告されていました。近年では2007年にミクロネシア連邦のヤップ島、2008年に仏領ポリネシア、2014年にチリのイースター島で流行が確認されるなど感染の範囲が徐々に拡大。2015年には南米のブラジルやコロンビアなどで流行し、日本を含めた東南アジアでも感染者が報告されています。
 
 ジカ熱の主な感染経路は蚊の吸血です。しかしその他にも胎内感染、輸血や性行為による感染が確認されています。感染した場合の主な症状は、軽度の発熱(38度未満が多い)、掻痒感を伴う斑状丘疹、頭痛、関節炎、筋肉痛、結膜充血などで、数日から数週間持続します。他の蚊媒介感染症であるデング熱やチクングニア熱と症状は似ていますが、入院を必要としたり、重症化するケースは多くはありません。しかし、仏領ポリネシアの流行では急性の末梢神経障害であるギランバレー症候群との合併が報告されています。また2015年のブラジルでの流行の際は、妊婦への感染による小頭症(胎児の頭部が小さくなる先天性疾患)や、その他の神経障害との関連性が疑われています。こうした事態をうけて、WHOは2016年2月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言することとなりました。(同11月に解除)蚊によって媒介される感染症に対する危機感は、今や国際的に高まっているといえるでしょう。
 
 ジカ熱はデング熱と比較し、白血球や血小板の減少などの特異的な所見が乏しく、検査の中心は遺伝子検査法を用いた、血液や尿中からのウイルスRNAの検出です。ジカ熱のおよそ8割は、感染しつつも症状があらわれない不顕性感染だといわれています。そのため臨床での診断が時に困難となります。ジカ熱に対する特異的な治療法はなく、その治療は対症療法となります。またワクチンもないため、防蚊対策などでの感染防止が重要でしょう。
 
 母子感染による小頭症との関連性や、性行為による感染が確認されているため、ジカ熱が流行している場所からの帰国者への対応には、慎重を要します。日本ではWHOの暫定ガイダンスをもとに、流行地から帰国した場合は症状の有無にかかわらず、最低6カ月は性行為の際にコンドームを使用するか性行為を控えること、妊娠の計画を延期することなどを推奨しています。また日本にも生息するヒトスジシマ蚊はジカウイルスにも感受性があることが確認されています。そこで蚊が生息する時期には、帰国者の防蚊対策に加え、媒介蚊の駆除対策も重要な課題といえるでしょう。