高度治療を実践する名医たち 高橋 淳 :横須賀共済病院

 
髙橋1
 
不整脈の根治を追及
カテーテルアブレーションで限界に挑戦する

 
数ある循環器疾患の中でも治療が難しいとされてきた不整脈。同分野における世界的な第一人者である高橋淳医師は特に心房細動のカテーテル治療をいち早く日本に導入し、さらに独自の焼灼術を確立。年間の症例数は1,000件前後。不整脈根治に向けて歩んだ、その軌跡を辿る。
 
■取材
横須賀共済病院 副院長
高橋 淳 医師


 

医療のすごさを自ら受けた手術で知る

小学校から中学校にかけ、風邪をひくとすぐに扁桃腺が腫れて高熱を出していた高橋淳医師。しかし中学二年生のときに受けた扁桃摘出手術以来、38度以上の熱は出した記憶がなく、まさに人生が変わった経験だったという。手術してくれた耳鼻科の医師に感謝するとともに、医療のすごさを肌で知り、将来は医療に携わる仕事がしたいと高橋医師は医学の道を志した。
 
入学した埼玉医科大学で内科か外科かを選ぶ岐路に立った高橋医師は、広く患者全般を対象とする医療に携わりたいという思いから内科を選択。そして卒業後、東京医科歯科大学の第二内科に入り、研修医として二年間、内科各科を回った結果、専門として循環器内科を選択する。「自分の専門科を選ぶ際には、自分にとって興味を持って続けられるか、突き詰めていけるかどうかが大事でした」と高橋医師は話す。またがんなどと異なり、治療が成功すれば短期間の入院で患者が元気に歩いて帰っていくという、医師としての一番の喜びをより多く体験できる分野だとも思い、大きな魅力を感じたという。
 

不整脈カテーテル治療に魅せられる

数ある循環器内科の分野から、高橋医師は不整脈を専門に選んだ。その頃、不整脈治療は薬がメインであり、他には心臓内にカテーテルを入れて電気の流れ、心内心電図を見ながらの診断や、頻拍を誘発させる検査や薬効評価が行われている程度だった。「血管系疾患なら、画像を見れば血管が細くなっていたり、詰まっていたりしていることが直ちに分かります。しかし不整脈は、電気の流れを見ながらの診断が難しい
のです。人間とは不思議なもので、分からないから理解しよう、勉強しようとなります」。これをきっかけにいろいろ教わるうち、その奥の深さに取りつかれたのだという。これが1991年頃で、日本に不整脈のカテーテル治療(カテーテルアブレーション)が入ってきた時期にあたる。当時高橋医師が勤務する土浦協同病院でも、この術式をいち早く導入していた。
 
不整脈には、脈が速くなったり乱れたりする頻拍がある。その原因は、正常脈波を出す部分以外から異常な電気信号が出て脈が速くなることや、心臓の回路を伝い、異常な電気信号が旋回することが挙げられる。カテーテルアブレーションは、この頻拍に対する治療法だ。異常な電気信号がある部分にカテーテルを到達させ、その先端から高周波電流を流し、3~5㍉四方の火傷をつくる。この火傷により異常な電気信号を出す細胞が死滅し、異常な電気が止まる。回路ができていれば、その弱いところ、余分な電気の通り道を焼くことで頻脈を起こさなくさせる。
 
異常な電気信号が発信源から出たり、回路が一個だけグルグル回ったりする症例なら、ワンポイントで焼灼し、終了となる。しかし厄介なのは、心房細動へのカテーテルアブレーションである。
 
 
──数より大事なのは、目の前の患者を
    全力で治そうとする姿勢──

 
 

心房細動へのカテーテル治療の難しさ

不整脈の中でも心房細動は、異常な電気の渦(回路)が3~4個、心臓上部の血液を受け取る心房と呼ばれる部屋にでき、さまようように動く状態である。治療中に異常な電気信号が出なければ見つけられず、出ても複数箇所であれば手に負えない。土浦協同病院で不整脈カテーテル治療を5年ほど行い、手技を確立させてきた高橋医師だが、心房細動治療ではハードルの高さを感じていた。
 
そこにフランス・ボルドー大学のミシェル・ハイサゲール氏が挑み始めたというニュースが飛び込んだ。光明を感じた高橋医師は同氏の門を叩き、研鑽を積み96~98年に帰国する。やがて異常電気信号が出る箇所の解析が進み、心臓左上心房に開口し、肺から綺麗な血液が帰る肺静脈周囲の筋肉や、細い血管から出る電気信号で発作性の心房細動が起こる例が全体の70~75%に及ぶことが、ボルドー大学の研究で分かった。
 
肺静脈周囲にある4本の血管の周りを1本ずつ焼き、火傷の囲いを作れば、血管にからみつく筋肉から出てくる異常電気信号が心臓に広がることはない――個別肺静脈隔離焼灼と呼ばれるこの術式をハイサゲール氏が考案し、高橋医師も当初はその術式を採用していた。しかし肺静脈周囲の筋肉もあることから、血管周囲を4本焼くだけでは不十分だった。また1本ずつ焼くことから、肺静脈狭窄などの合併症も出始めた。こうしたことから2003年、高橋医師は左右の肺静脈4本のうち上下2本ずつまとめて広めに焼くことで血管への影響を少なくし、さらに治療成績が向上する拡大肺静脈隔離焼灼術を考案し、国際学会で発表した。
 
一方、発作性心房細動における、残り25~30%の患者では、異常電気信号は右心や、焼灼部分以外の箇所など、さまざまな部分から出ており、囲えないところはピンポイントで焼くしかない。フランスでそうしたテクニックを学んでいた高橋医師は、その経験を生かし、治療成績を上げた。「発作性心房細動による脳梗塞リスクの軽減や、症状を抑える意味において、カテーテルアブレーションは非常に威力を発揮します。ただ慢性化の症例に対しては発展途上で、どこまで治せるのかは誰もまだ分からないのが現状です」。こう話す高橋医師は、慢性心房細動に対する外科的治療法である、メイズ手術に準じたカテーテル術の確立に尽力している。「線を引くようにして筋肉の敏感性を弱める治療で、難しいが高い効果があると信じています」
 

技術の差はどこから生まれるのか

「不整脈カテーテルアブレーションで最も厄介なのは、相手が戦いを挑んでくることです」と高橋医師は話す。治療前に心房細動かどうか、発作性かどうかは分かるものの、異常電気信号が出るのが肺静脈からか、他の箇所かなどは分からない。
 
同院は、他施設で治療効果が良好ではなかった患者が多くを占める。しかし、その約8割は何とか症状を抑えられているのだという。治療を可能にする技術について、高橋医師は次のように話す。「たしかに数をこなせばうまくなる。だけど、より大事なのは、目の前の患者さんを全力で治そうとする姿勢なのです。真剣な人間と、言われたとおりにこなしているだけの人間とでは、知識や技術の習得度が違う。どの分野の医師も、これは一緒だと思います」
 

平面の血管造影と心電図という少ない情報から焼灼部位を見極める

平面の血管造影と心電図という少ない情報から焼灼部位を見極める

後進の指導とともに自らも更なる進化を追求する

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治療全体の進歩も見据え、高橋医師は次のように話す。「医療にはどうしても合併症のリスクがつきものです。不幸にも合併症が出てしまったときに何が問題だったのかしっかりと検証し、その中でこういうところに注意した方がよいとか、そういう知識や経験を後進に伝えることもまた重要だと思っています」
 
一方で、安全が担保されてこそ医療がある、と高橋医師は考えている。「安全が担保されればもっと思い切ってアグレッシブな治療ができる可能性がある。安全が担保できない医療に進歩はないのです」
 
今後の方向性について、高橋医師は心房細動治療の限界を見据えた治療法及び治療方針の見極めと、患者への適切な選択肢の提供をあげる。「自分がいままで培ってきた知識や経験などは、ここからさらに向上させることができると思っています。何とか心房細動を根治したいという強い思いが常に自分の中にあります」と話す高橋医師は、今後のより良い医療へつなげるために、後進の指導と自らのさらなる進化を日々、追求し続けている。