新東京病院院長 中村淳医師に訊く~医師に求められる、患者の命に向き合う覚悟

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信頼できる医療機関を探そうとする際、医療機関の実績だけでなく、どのような医師に診てもらえるかも患者にとっては重要だ。それは、病院それぞれの医師の育成に対する姿勢もかかわってくる。一例として、天皇陛下の冠動脈バイパス術を執刀した天野篤医師をはじめ、多くの優れた心臓血管外科医、循環器内科医を輩出してきた新東京病院を取り上げる。同院の院長、中村淳医師に話を聞いた。

 
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積極的な研鑽を医師に促す

心疾患治療は、この数十年で劇的な進歩を遂げた分野だといえる。例えば、心臓に血液を送る血管が詰まってしまう病気、心筋梗塞症は今から30年前は助かることの難しい疾患とされていた。それが現在では血管の急性閉塞を体外から2㍉程度の太さの細いカテーテルで閉塞解除できる心カテーテル治療が登場したことで、その患者を早めに医療機関に搬送できれば十分に救命できるようになってきた。これ以外にもたくさんの進歩がある循環器領域の治療の発展に深く関わってきたのが新東京病院だ。
 
同院は、バチスタ手術で知られる須磨久善医師もかつて在籍し、天皇陛下の冠動脈バイパス術を執刀した天野篤医師をはじめとする、多くの優れた心臓血管外科医、循環器内科医を輩出してきた実績を持つ。
 
同院の院長を務める中村淳医師は、自らも心カテーテル治療において目覚ましい実績を持つ一方で、後進の育成にも熱意を持って取り組んできた医師。現在も中村医師の教えを受けに集う若手の医師は多い。そうした医師に対して求めることの一つが英語論文を積極的に世に出すことだという。「例えば、冠動脈バイパス術で血管をつなぐのがうまくいったとします。その時に手術がうまくいって患者さんに喜んでいただいたとしても、本当に正しい処置だったのかはその時だけではわからないのです。その後の経過も診て、その治療で患者さんが本当に幸せに暮らせるようになったのか? もっといい方法があったのか?それを自身で手がけた治療で科学的に検証し、より望ましい治療などを考えて行かねばなりません。そして、わかったことを論文で発表していくのです」。
 
論文の発表は自身の研鑽のためだけではない。それを海外の医師が見て、実際に自身の患者の治療に用いることで、見たことのない人さえ助けることができる。それこそが医学のあり方だと、中村医師は訴える。
 

最新治療を若手の医師に任せる

中村医師自身、国内で心カテーテル治療が登場した当初から学んできた医師だ。若い頃は、自らの上司や先輩にあたる医師のバックアップを受け、心カテーテル治療を含めた心疾患治療及び、研究の両方に携わってきた。その時の経験が、現在の若手医師に対する姿勢につながっているという。それが表れているのが、開胸することなく大動脈弁狭窄症を治療できる術式として近年注目される「TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)」への同院の取り組みだ。
 
この術式ではカテーテルを通じて、動かなくなった大動脈弁を人工弁に置き換える。高齢、全身疾患などで手術が受けられなかった患者も救えるという画期的な治療であり、今後さらなる発展も期待されている。その治療を、中村医師は同院において若手の医師に積極的に学ばせ、治療を任せている。「私の世代に多い、心カテーテル治療を重点的に手がけてきた医師であれば、誰もが自身で行いたい治療と言えます。ただ、私達が心筋梗塞にカテーテル治療を挑もうとした時、当時の上の世代は決して邪魔をしませんでした。それと同じように、近い将来に引退する者が未来のための医療を取り上げてはならない。そう考えたのです」
 

任せる側も勇気が必要

もちろん、同院には中村医師ら、実績ある医師の名前を聞いて患者が来院することが多い。その分、若い医師が担当することに対し、患者がさまざまな思いを持つこともあり得る。それを受け止めるためにも、若手医師の行った治療について自身が責任を取る心構えでいるという。「ひとたび任せたら、上司である我々はなるべくその責任医師の治療そのものについて、どうこういううべきではありません。手術室でも、どこでもその責任医師は全責任をもって患者を救おうと必死になっています。その必死な姿を見て周りのスタッフは真剣に、その人を中心にまとまって頑張ろうと思うのです。すなわち、その瞬間カリスマとなっているのです。でも私が何か言って何かを否定すれば、彼を中心とするチームは決してまとまらないのです」と中村医師。そのように同院の医師を信じて任せることには勇気が必要になる。特に心臓の治療はカテーテル治療とは言え、決して少なくない侵襲となるだけになおさらだ。それだけに、何かあれば心中するような覚悟を自身も持って臨んでいると、中村医師は強く語る。
 
その分、同院の医師に対しても、覚悟を厳しく求めている。「医者が最初に必要なのは覚悟です。人の命に触れる資格があるか自身に問うた上で、自分の命を置いてでも患者の命に向かう覚悟があるのか。それを厳しく伝えています。たとえ何かあっても責任は取るから命がけで臨めと」。そうした覚悟があるからこそ、同院の医師は、普段の診療に加え、その後の研鑽や論文発表にも真摯に向き合っているのだろう。
 
ただ任せるだけでなく、定期的な勉強会を開催し、自身のネットワークを生かして世界各国の著名な医師のもとに留学させるなど、さまざまな形で若手医師をバックアップしている中村医師。そこまでするのも、医療の将来を見据えているからこそ。「私自身もいつまでも治療に携われるわけではありません。たとえ私が死んだ後でも、育てた医師が患者を助け、さらに後進を育ててくれるはずです。1人の医師だけが素晴らしい医療をしても、その医師がやめれば途絶えてしまいます。その魂を受け継ぐということをしなければ続いていかないのです」