脳梗塞の早期治療のために
−兵庫県明石市の取り組みから−
大西 英之医師

 

脳梗塞は、効果的な治療が登場しただけに、発症からいかに迅速に治療できるかが重要になってきた。現状ではまだまだ効果的な治療ができるケースは決して多くない。その改善に向け、さまざまな取り組みが行われている。
 
■取材 大西脳神経外科病院
    理事長・院長

    大西 英之 医師
 
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脳梗塞治療の発展で早期受診が重要に

現在、社会的な問題となっているのが、脳の血管に血栓が詰まって起こる脳梗塞だ。放置すると生命の危機に関わるだけでなく、たとえ助かったとしても、脳神経の一部が損傷して要介護状態に陥ってしまうことが多い。ただ、血栓を溶かす薬剤を投与するt-PA静注療法や、直接血栓を取り除く血栓回収療法が登場したことで、この疾患に対する治療は大きく進歩している。どちらも、治療が実施できれば効果は高く、医療機関に搬送されれば、十分助かる可能性が出てきたと言えるだろう。
 
それによって重視されるようになってきたのが、患者が医療機関に到着するまでの時間だ。両治療は、効果を発揮し、脳へのダメージを抑えられる時間が限られている。t-PA静注療法では4.5時間、血栓回収療法では6時間以内に治療を開始する必要がある。しかも、医療機関に到着してから、必要な検査、治療の準備に一般的には1時間は要することも考慮しなければならない。現時点では、そのタイミングに間に合う人はごくわずかだという。「全国的に見ると急性期脳梗塞で病院に運ばれた方のうち、t-PA静注療法を使えるのは6%台とされています。治る、もしくは後遺症が少なくなる機会を多くの方が逃しているのです」と大西英之医師は訴える。
 

脳梗塞の知識を子どもから家族に広めるプロジェクト


現在では、脳梗塞に対する救急体制が全国で構築されており、救急隊によって脳梗塞治療が可能な医療機関に迅速に搬送されるようになっている。そうした中で現在まだまだ不十分なのが、地域住民への周知だ。脳梗塞では、初期の特徴的な症状として「手足や顔が動かなくなる」「ろれつが回らない」「言葉が出てこない」などが挙げられる。患者自身、もしくは家族がその症状に気付き、医療機関をいかに早急に受診できるかが、予後を大きく左右するのだ。ただ、症状に気付かなかったり、たとえ症状に気付いても救急車を呼ぶのをためらったりしてしまう人がまだまだ多い現状にある。
 
それだけに、救急受診の重要性を啓発することが社会的な要請であり、各自治体でもそのための取り組みが行われている。その一例として、兵庫県明石市において、消防本部、国立循環器病研究センター、大西脳神経外科病院が連携して行っているのが、子どもに脳梗塞についての講義を行うというプロジェクトだ。発想のきっかけは、東日本大震災の時、地震時の対処についてあらかじめ教育を受けていた子ども達が周りの大人と共に無事避難できた事実によるという。「子どもに教えると、帰宅してから親や祖父母にその話をすることでしょう。そのようにして家族に広げることで、地域における当たり前の知識となり、いざという時にすぐに対応できるのです」と大西医師は語る。
 
明石市での取り組みが目指しているのは、家庭への啓発だけではない。子ども達が成長し、将来的に脳梗塞の知識が市民の常識として定着することだ。こうした取り組みが全国的に広がり、各地域に知識が定着すれば、それだけ多くの人の生命・健康を守れ、結果として医療費の削減にもつながることだろう。一人でも多くの人が迅速かつ適切な脳梗塞治療を受けられるような社会づくりが望まれる。
 

子どもに脳梗塞について教え、家庭への知識の定着を目指す

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