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特集記事: 2009年7月31日 [ Q&Aでわかる「いい歯医者」 2009年7月31日 掲載 ]

床矯正治療をはじめよう
床矯正研究会主幹 鈴木 設也

【特別寄稿】

床矯正研究会主幹

鈴木 設矢 (すずき せつや)

***

歯並びが悪いと、正しい機能を発揮できず、表情などにも影響してくる。そうした中、乳歯からの矯正治療が可能な床矯正について、床矯正研究会主幹の鈴木設矢先生に特別寄稿をいただいた。

表情筋の活性化につながる歯並び

矯正治療とは不正な状態を正常な状態に正す治療です。歯並びが悪いと形態を気にされますが、形態が悪いと正しくかむ機能を発揮できません。かむ機能の減少は、消化酵素を含む唾液分泌を減少させ消化器官の負担をかけることになります。また、かむことはかむ筋肉だけでなく口の周囲や顔全体の筋肉を使うため、噛まないことは表情筋を不活性化させることにつながります。

たとえば、前歯でかむときには唇を使います。前歯を使わなければ唇を動かす口輪筋が不活性化します。口角下制筋により不活性の口輪筋が下方に牽引され口裂は下垂します。口輪筋が緊張しないと口輪筋に付随する表情筋も不活性になり眼瞼も下垂します。つまり、かむことは表情を豊かにして「いい顔をつくる」ことなのです。(下写真・図参照)


顔の表情をつくりだすさまざまな筋肉

顎の発育が始まる前に矯正治療の開始を

不正咬合で一番気になるのは、歯が重なったり曲がったりしている叢生ではないでしょうか。叢生は、歯の大きさと顎の大きさのアンバランスから起こります。顎が歯の大きさに見合った大きさに発育できなかったことで、歯の大きさと顎の大きさとの間にアンバランスが生じます。このアンバランスを解消することが矯正治療です。

咬めないと顔が変わります。

歯が並ばない顎は萎縮した状態ですから、顎を正常な顎に育成するのが理想的な治療法と考えます。叢生の発症率は40%ですから、60%の人は歯が正しく並ぶ顎に発育したことになります。40%の患者さんの顎が、なぜ正しく発育できなかったかを考えるべきです。保護者がつくる家庭内環境により顎の育成がうまくいかなかった結果と考えます。食事・食餌・間食・生活環境の簡便化などが問題になります。40%のグループから脱却するためには、お母さんの家庭内環境の改善が重要なポイントです。

食べることは栄養の摂取だけではなく、顎の骨の発育刺激であることを認識してください。「骨は外力に適した形になる」ウォルフの法則という生理学の基本があります。かむ外力が子どもたちにとっては骨の育成に欠かせない生活習慣です。この生活習慣が矯正治療の第一歩です。

顎は身長が伸びるときに発育します(下図)。生まれてから6歳までが幼児期から子どもへの成長期間です。第2次成長期として10歳から男子は17歳頃、女子は14歳頃まで発育します。

とりわけ反対咬合は顎骨の発育に関与して顔貌を大きく変える不正咬合です。かみ合わせによる下顎の過成長は止められません。顎の発育が開始する以前に治療を開始すべきです。

男女別成長曲線

徐々に症状が進む不正咬合

叢生の70%は前歯部に発症します。前歯部の叢生を放置することで前歯部に準じて後から萌出する犬歯や小臼歯までも不正咬合を生じて、不正咬合の病態を複雑にします。すべての疾患と同様に初期治療が大切です。犬歯は10歳後半から11歳時に萌出しますから、不正咬合を重篤にさせないこの時期までに前歯部の矯正治療を完了すべきです。犬歯の萌出後では矯正治療は当然複雑になります。

コンピューターグラフィックによる想定合成写真

母子健康手帳には6歳までの管理事項が記載されています。下顎前歯は6歳までには萌出していますから、保護者が口腔に関心のあるこの時期に下顎前歯部の叢生を容易に見つけることができます。

また顔貌に大きく関与する反対咬合も、6歳以前の乳歯の時期から容易に発見できます。

【乱ぐい歯・叢生】【出っ歯・前突】【受け口・反対咬合】

歯と顎の大きさを同調させる治療法

叢生は歯と顎のアンバランスから発症するため、歯と顎の大きさを同調させる必要があります。ただし発育期の子どもで比較的症例が軽度の場合では、保護者による顎の育成が基本となります。

入れ歯のことを「義歯床」と歯科ではいい表します。入れ歯に類した床にスクリューを付与して動かすことで歯が並ぶ必要量だけを広げます。1カ月に約1mmの歯の移動が可能です。この治療法は1930年代後半にドイツの矯正医シュワルツが考案した治療法です。

歯が並ぶスペースの確保後に床矯正装置やワイヤーを使用して歯軸を整えます。代表的な拡大装置としては、右図のようなものがあります。顎を拡大すると顔が大きくなるのでは、と心配される患者さんもいますが、萎縮した顎を正しい顎の大きさに復元させるのですから顔が大きくなることはありません。顎は歯を支えている歯槽骨と顎本体の基底骨に分類され、歯の移動で拡大される顎は基底骨ではなく歯槽骨です。ただし発育完了前の子どものケースでは当然基底骨の発育も助長されます。顎の発育が終了した成人で歯の幅径が大きいケースでは顎の成長は起こらず、歯が並んでも調和が取れずに歯が大きく見えることがありますから、このようなケースの場合は歯の大きさを修正します。

代表的な拡大床装置

抜歯治療とその適応

日本人の上顎中切歯(一番前の歯)の幅径の平均値は男性で8.6mm、女性で8.2mmです。一般的には9.5mm以上の幅径のある中切歯は並ばないといわれていますが、10mm以上の幅径の中切歯であっても歯に見合った顎の成長があれば叢生は発症しません。そのため、歯が大きいから歯が並ばないということにはなりません。

上顎中切歯が、10.1mmと平均より大きくても、きちんと歯が並んだ

抜歯治療を行う場合には、基本的に左右上下の小臼歯を抜歯します。小臼歯の幅径は7mmありますから片顎2本の小臼歯の抜歯により14mmのスペースが得られます。成長が終了した成人のケースにおいて抜歯で得られるスペースと歯の重なりのスペースが一致する場合は抜歯矯正の適応症と考えます。しかし、歯と歯の重なりが14mmより少ない叢生のケースでは、結果的にオーバースペースとなり歯列を短縮することが必要となります。歯列を短縮することで舌の動きを規制することが生じ、口腔機能に支障が生じることが危惧されます。

鈴木 設矢

床矯正研究会主幹

1974年日本歯科大学歯学部卒業。78年同大学大学院歯科保存学修了。その後、鈴木歯科医院を開業。81~86年同大学保存学教室講師(非常勤)を兼任。97年から同大学歯周病学教室講師(非常勤)を兼任。2000年床矯正研究会設立。

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