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松阪市民病院 呼吸器センター
Matsusaka Municipal Hospital Respiratory Center

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最先端の肺がん治療と地域への貢献を目指す

「世界一」の呼吸器センターが目標

 三重県内でも屈指の肺がん治療実績を誇る松阪市民病院。その診療を担う呼吸器センターの設立には、一人の医師の熱い思いが込められていた。

 「『世界で一番、地域から信頼される呼吸器センター』を目指してきました」と語るのは、呼吸器センター長の畑地治医師。肺がんや肺炎、喘息などの呼吸器疾患のスペシャリストで、同院には2003年に赴任した。

 「赴任した当時、呼吸器疾患の患者さんは数えるほどしかいませんでした。しかし、現在では幅広い患者ニーズに応えられる診療体制が整備できたと考えています」

 畑地医師を中心として、呼吸器センターは12年4月に設置された。当初、呼吸器内科医3名、呼吸器外科医1名だった常勤医師も、現在はそれぞれ8名、2名※1まで増加。21年からは、さらに2名の呼吸器内科医も加わる予定だ。

 成長の背景には、何があるのだろうか。畑地医師は、呼吸器センターの強みの一つとして、「最先端医療の提供による地域貢献」を挙げる。

 「患者さんにより良い医療を提供できるよう、知識と技術を日々アップデートしています。特に、近年は肺がんへの単孔式胸腔鏡手術と遺伝子検査に力を入れ、さらなる治療の充実を目指しています」

※1 2020年12月現在

低侵襲な「単孔式」と区域切除に注力

 肺がんの手術は、開胸手術と胸腔鏡手術に大別される。胸を大きく切開する前者と比べ、複数の小切開から胸腔鏡(内視鏡の一種)と手術器具を入れて行う後者には、体への負担が軽いメリットがある。なかでも、単孔式胸腔鏡手術は、小切開が一つで済むというものだ。

 「切開を小さく、そして少なくすることで、術後の痛みの抑制や、早期の回復が期待できます。当センターでは、単孔式胸腔鏡手術を基本として、適宜、通常の胸腔鏡手術や開胸手術も実施しています」と呼吸器外科の樽川智人医師は説明する。

 低侵襲な単孔式胸腔鏡手術だが、実施には高度な技術も求められる。そのため、同センターでは胸腔鏡手術のエキスパートとして、三重大学医学部附属病院の高尾仁二医師を招聘。定期的にサポートを受け、導入から約1年半で100例※2近い実績を重ねた。

 「一般的に、手術の質は術者の経験に比例します。松阪市民病院では、樽川医師が単孔式胸腔鏡手術を一手に引き受けているので、質の高い治療が期待できます」と高尾医師は語る。

 加えて、肺がん手術の低侵襲化に向けては、区域切除への注力も見逃せない。がんがある区域のみを切除する方法で、呼吸機能を温存できるメリットがある。

 「適応を見極めたうえで、積極的に区域切除を実施しています。単孔式胸腔鏡手術と区域切除を組み合わせれば、侵襲を最小限に抑えることも望めます」(樽川医師)

遺伝子検査で効果的な薬剤を探索

 進行した肺がんでは、手術が難しい場合もある。その際、治療の中心となるのが薬物療法だ。同院では、19年8月から抗がん剤の選択に資する遺伝子検査を導入し、治療のさらなる質向上に取り組んでいるという。

 「遺伝子レベルでがんの特徴を分析し、効果的な抗がん剤を探索・投与する『プレシジョン・メディシン』(精密医療)に力を入れています」と呼吸器内科の西井洋一医師は解説する。

 同院では、クライオバイオプシー(凍結生研)などを用いた気管支鏡検査を通じて、がん組織の遺伝子を調べている。特定の遺伝子変異が見つかれば、それに応じた抗がん剤を投与できる仕組みだ。

 検査結果を出すためには、適切な切除や処置など、高度な技術も求められる。しかし、同院では原則として薬物療法を受ける全ての患者に遺伝子検査を実施し、年間約100例※3もの実績を重ねている。

 「気管支鏡検査というと、苦しいイメージもあるかもしれませんが、当院ではのど・肺にしっかり麻酔をかけて実施しています。また、迅速な検査の提供も心がけており、2週間以上お待たせすることは、基本的にありません」(西井医師)

 こうした提供体制を整備するため、西井医師は呼吸器内科の医師全員が検査を実施できるよう、自らサポート・トレーニングに努めているという。

 「呼吸器内科では、病理室とも毎月カンファレンスを行い、日々研鑽を積んでいます」(西井医師)

研究活動で診療を社会に還元

 畑地医師を中心として、「最先端医療の提供による地域貢献」を目指し、邁進する呼吸器センター。臨床はもちろん、研究にも力を入れており、日々の診療を社会に還元することも重視している。

 「大学病院にも負けないよう、研究設備を整え、学会発表や英語の論文投稿に積極的に取り組んでいます」と強調する畑地医師。スタッフの教育も重視しており、希望する若手医師には、留学の道も用意しているという。

 「当センターでは、肺がん以外にも、肺炎や喘息など幅広い呼吸器疾患を診ています。呼吸器でお困りの方は、ぜひ松阪市民病院までご相談ください」畑地医師はそう結んだ。

※2 2019年7月~2020年12月  ※3 2020年1月~12月

取材/杉本富士孝

統括副院長
呼吸器センター長

畑地 治

はたじ・おさむ●1991年、自治医科大学卒業。医学博士。日本内科学会認定 総合内科専門医、日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医、三重大学臨床教授など。

呼吸器外科 科長 

樽川 智人

たるかわ・ともひと●1999年、愛知医科大学卒業。日本呼吸器外科学会認定 呼吸器外科専門医、日本外科学会認定 外科専門医。

三重大学医学部附属病院
呼吸器外科 科長・教授

高尾 仁二

たかお・もとし●1984年、三重大学卒業。医学博士。日本肺癌学会理事、日本呼吸器外科学会認定 呼吸器外科専門医、日本外科学会認定 外科専門医など。

呼吸器内科 部長
呼吸器内視鏡室 室長

西井 洋一

にしい・よういち●2000年、愛知医科大学卒業。医学博士。日本内科学会認定 総合内科専門医、日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医など。

医療新聞社
編集部記者の目

 「患者さんにとって、一番大切なことは『治る』ことです」と語る畑地治医師のもと、最先端の治療提供に努めている呼吸器センター。検査や治療のクオリティーも高く、一例として、高度な技術が求められる遺伝子検査においても、その優秀な成績が評価され、検査のモデル病院として認められている。「余力があれば、東京などにサテライトクリニックも作りたいですね」と笑う畑地医師。その日が来るのは、そう遠くないかもしれない。

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