• 宮城県

東北大学病院
がんセンター

東北地方のがん対策をリードして
地域の患者・医療機関を支える

都道府県がん診療連携拠点病院としての重責

 厚生労働省は国のがん施策を各地でリードする都道府県がん診療連携拠点病院を定めており、東北大学病院は2006年、いち早くその指定を受けた。文字通り、地元宮城県ばかりでなく東北地方全体を見渡したがんの診療・研究拠点として長年重要な役割を果たしている。

 「東北地方全体ではその面積に比して人口密度が低いうえに交通の便がよくないという地域的な特徴があります。そのため医療機関への受診が遅くなったり、がんの発見が遅れたりすることが問題視されてきました」と話すのは同院がんセンター長の石岡千加史医師。がん患者も高齢者の割合が高いために、ほかの疾患を併発しているケースも多く、治療が困難になることも珍しくないという。

 その解決に向け東北地方では、がん治療を広域で取り組むため各県の代表的な医療機関が参加した東北がんネットワークを構築。同院はその先頭に立ってきた。

 「地域の診療機関の負担を少なくして、一人でも多くの患者さんのがん治療に貢献するのが私たちの使命です」

がんゲノム医療の拠点としても

 同院のがん治療を支える柱の一つが、石岡医師率いる化学療法センターによる薬物治療だ。

 「本院に来られる患者さんは、進行がんであったり、標準治療をすでに終えたりした方も多く、どうしても予後が悪い傾向がありますが、他科とも協力し、集学的治療を行っています」

 がんは似たような病変や症状でも一人ひとり遺伝子レベルでは異なり、薬剤の選択・量など治療のアプローチもさまざま。そんな中で、石岡医師らが注目しているのが、分子標的薬だ。がん細胞特有の遺伝子やタンパク質をターゲットにして、従来の殺細胞性の抗がん剤とは異なる効能を発揮している。

 「分子標的薬はすでに100種を超える薬剤があり、適応のあるがんでは十分に効果が期待できるケースも増えてきました。副作用が比較的軽いので、全身状態の良くない患者さんにも使用できる利点があります」

 さらに石岡医師らが進めているのががんゲノム医療だ。がん細胞の遺伝子を多数セットにして調べるがん遺伝子パネル検査を行い、がんに変異した遺伝子を突き止め、適応する分子標的薬など薬剤の選択に生かしていくという現在進行形の医療だ。同院は全国に12施設しかないがんゲノム医療中核拠点病院でもある。

 「パネル検査によって通常のがん治療では気が付かないような治療法にたどりつくことが可能になってきました。とはいえ、まだ緒に就いた段階で、今後は具体的な治療提案を増やしていけるかが課題です」

  • がんゲノムの連携病院と遺伝子解析結果を検討する会議

新たな放射線装置を導入照射精度の向上を図る

 一方、近年がん治療で存在感を増しているのが放射線治療だ。こちらは副がんセンター長の神宮啓一医師が先頭に立っている。

 「コンピューターの発達で放射線治療は大きな発展を遂げてきました。周囲の正常な組織への影響を少なくしたピンポイントな照射が可能となり、腫瘍の制御率が上がっています」と神宮医師は話す。同院では初期のころから強度変調放射線治療(IMRT)を行い、照射の精度をあげて治療効果につなげてきた。

  • モニターを見ながら放射線の照射状況を確認する

 さらに、神宮医師が指摘するのは照射時の病変の形状の把握と位置決めの重要さだ。同院ではより正確で効果的な照射が期待できる新型の照射装置を21年に導入する。

 「MRI撮影しながらリアルタイムに近い照射が可能になることで、照射直前の病変の形状の変化にも対応できるようになり、より集中した照射の実現を目指せます」

 また、神宮医師は今後の放射線治療について、「高齢の患者さんだと合併症や体力的な面で手術ができない場合もあります。遠方の方にはなるべく少ない回数で治療を終えて差し上げたい。私たちに課せられる役割が増大していくと思います」と話す。

 ますます東北での躍進が期待される同院。石岡医師は「地域の医療機関と協力しながら、当院でしかできない高度な医療を追求して、がん治療に取り組んでいきたいと考えています」と熱意を込めた抱負を語っている。

取材/河嶋一郎

副院長・がんセンター長

石岡 千加史

いしおか・ちかし●医学博士。1984年、東北大学医学部卒業。仙台厚生病院を経て東北大学病院。2012年からがんセンター長。

副がんセンター長(放射線部長)

神宮 啓一

じんぐう・けいいち●医学博士。2002年、東北大学医学部卒業。07年から東北大学病院。

医療新聞社
編集部記者の目

 がん遺伝子を解析して薬剤の選択や創薬などに役立てるがんゲノム医療は今最も注目を集めているがん研究の分野だ。東北大学病院では東北の地から全国レベルの研究を追求し、一歩進んだ治療を目指している。併せて放射線の効果的な照射にも注力する同院。2021年10月からはMRIとリニアックを組み合わせた高精度放射線治療を開始する予定で、従来よりもピンポイントな照射が可能という。同院のがん治療の両輪である、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの薬物治療と放射線治療は、これからのがん治療を大きく変えていく可能性を秘めている。

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