• 千葉県

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構

QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)

がん克服を目指し、
邁進する重粒子線治療のパイオニア

重粒子線のメリットを生かしピンポイント照射

次世代のがん治療法「重粒子線治療」を、けん引するのがQST病院(千葉県千葉市)。1961年、放射線医学総合研究所内に開院。84年から10年の歳月をかけて重粒子線治療装置「HIMAC」を開発し、94年6月から治療を開始した。2022年3月現在、症例数は1万4105件を数える。

 散乱・減弱しながら進む従来の放射線治療(X線)との違いについて山田滋院長は解説する。

「重粒子線はピンポイントで病巣に、大きなエネルギーを与えることができます。質量が水素の原子核の約12倍もある炭素の原子核を用いるため、破壊力が大きい。抵抗性の強いがん細胞、例えば酸素濃度の低いがんや幹細胞にも効果的です」

 新たに開発した2つの技術が線量分布に優れた重粒子線の効果を促進させる。「高速3次元スキャニング照射装置」は従来の約100倍の速度で腫瘍の形状に合わせ、なぞるような照射を可能にした。「回転ガントリー」は患者を中央の治療台に固定することで、360度任意の角度から重粒子線を当てることができる。これらを組み合わることで、さらなる線量の集中性および副作用の低減を目指した精度の高い治療を追求している。

  • 任意の角度から重粒子線を照射できるガントリー治療室

保険収載拡大で広がる重粒子線治療

 これまで重粒子線治療で保険収載されていたのは切除不能骨軟部腫瘍、頭頸部がん、前立腺がん。22年4月には大型の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行性膵がん、局所進行性子宮頸部腺がん、大腸がん術後再発の5つが新たに加わった。粒子線治療の黎明期から臨床試験を重ねてきた努力が実った形だ。先進医療で約320万円だった自己負担金が、保険収載によって約8万円程度(個人差あり)で治療を受けられるようになった。

 QST病院では新しいがん治療戦略として「化学療法(免疫療法)×重粒子線治療」にも取り組んでいる。

 例えば保険収載となった局所進行性膵がんは予後が良好ではない悪性腫瘍のひとつ。近年、治療薬の飛躍的な発達によって腫瘍を縮小させる化学療法が治療の中心になってきた。

 そこで求められているのが化学療法と相性のいい局所療法。膵がんは低酸素細胞の割合が多く、抵抗性であり、さらに放射線感受性の高い消化管に囲まれている。そのため従来の放射線治療は周囲への影響が大きい。侵襲のある手術は一定期間、化学療法を休まなければならない。優れた線量分布に加え、がん細胞殺傷効果も高く、侵襲が極めて小さい重粒子線治療は化学療法との相性も抜群だ。

研究開発と普及QST病院のミッション

 研究開発もQST病院の大きな役割だ。放射性医薬品を用いた「核医学治療・RI内用療法」もそのひとつ。高いがん細胞殺傷効果を持つアルファ線を放出する物質「アスタチン211」や「アクチニウム225」等を用いた治療法を研究。生体内での飛距離がごく短いため、がん細胞だけに放射線を届けられる有用な技術で、他施設との共同研究・治験を進めている。

 また19年には政府から基幹高度被ばく医療支援センターに指定され、エキスパート(医師や看護師、技術者など)の育成、内部被ばくに関する線量評価でも中心を担う。

「重粒子線には多くの可能性があります。治療実績は向上していますが、まだまだ満足していません。外科的手術を超えることを目指したい。装置の小型化、人材育成などに力を入れながら、がんで悩む世界中の方に重粒子線治療を届けたい」 とQST病院のミッションについて山田院長は熱く語る。

院長 

山田 滋

やまだ・しげる●1985年三重大学卒業。医学博士、日本医学放射線学会認定放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会代議員、日本大腸肛門病学会評議員、千葉大学客員教授。

医療新聞社
編集部記者の目

2022年、重粒子線治療の保険適用は拡大した。重粒子線治療が保険収載にされるまでの過程の話を聞けたのはうれしかった。普段、自分たちが何気なく病院を受診して治療は保険によって3割負担となっているが、その前段階には研究者たちの努力がある。QST病院は自分たちの研究に加え、システマティックレビューといって文献(論文)から治療成績を導いたり、国内の重粒子線治療施設の成績を集めたりしながら検証し、重粒子線治療の普及に尽力している。

Information

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構

QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)

〒263-8555
千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1

TEL. 043-206-3306(代表)

【診療受付時間】 平日8:30~17:00
重粒子線治療や受診方法のお問い合わせ TEL.043-284-8852 

【受付時間】平日9:00~11:30/12:30~15:00 https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/