超急性期脳梗塞治療を担う脳卒中センター

鹿児島市与次郎の米盛病院は救急医療に注力。「一秒を救う。一生につなぐ。」をモットーに24時間 365日体制で救急患者を受け入れる。2022年度の救急受け入れ件数は6586件※１と県内有数。全床個室の集中治療室、2台のドクターカーも備え、民間病院では数少ない救急医療用ヘリも運用している。

同院の看板の一つが脳神経外科。脳卒中センターでは、超急性期脳梗塞に対して点滴薬剤で血栓を溶かす「t-PA静注療法（静注血栓溶解療法）」、血栓をカテーテルで取り除く「血栓回収療法」、開頭手術などを軸にして治療にあたる。

「詰まった血管を再開通するまでの時間が非常に重要です。早ければ早いほどいい。治療開始までの時間を極力短くするよう、さまざまな工夫をこらしています」

と話すのは脳卒中センター長の井上泰豪医師。患者到着前に医師、看護師を中心とした多職種チームで情報を共有して治療の準備を整え、到着後の検査・診断プロセスを一本化し、１分１秒単位で作業時間を短縮した。その結果、「患者到着からｔ-ＰＡ静注療法開始まで30分以内、脳血管内治療まで60分以内」という目標を達成。地域や救急隊からの信頼も厚い。

2023年1月、脳動脈瘤に対するフローダイバーター治療を開始。動脈瘤のつけ根（ネック）を覆うように網目の細かい特殊なステントを留置し、動脈瘤に入る血流を減らし、瘤内を血栓化、閉塞させる画期的な方法で、今後、脳動脈瘤治療の主流になると見られている。

技術と豊富な経験生かし難易度の高い心疾患に対応

心疾患治療では心臓血管外科、血管外科、循環器内科の医師を中心にしたハートチームがフル稼働する。

心臓血管外科では開心術のエキスパートである後藤新之介部長を中心に虚血性心疾患、心臓弁膜症、胸部大動脈などの手術にあたる。「急性大動脈解離、大動脈瘤破裂、急性心筋梗塞など一刻を争う症例は多いですが、緊急手術を行うことで多数の患者様を救命することができています。また、狭心症に対して人工心肺を使用しない心拍動下冠動脈バイパス術を標準形式とし、負担の少ない手術を行っています」と後藤医師。
高い技術と豊富な経験を生かし、高齢者、透析患者などでも適応があれば手術している。

循環器内科も救急疾患や重症例にも対応。急性心筋梗塞に対する緊急カテーテル治療では多くの症例で病院到着から60分以内に、詰まった血管の血流再開を成功させている。

心筋梗塞を含む虚血性心疾患を対象にしたPCI（経皮的冠動脈インターベーション）の症例数は2021年度108件※2から2022年度209件※3と約２倍になった。
不整脈ではカテーテルアブレーションのほか、デバイス治療を採用。重症化した心不全や不整脈に対しては植込み型除細動器（ICD）、両心室ペースメーカー（CRT）、両室ペーシング機能付き植込み型除細動器（CRT-D）を用いたデバイス治療を行なう。

下肢閉塞性動脈疾患の治療にも注力し、徐々に治療件数が増加。透析患者の心疾患治療にも対応できる。

「ハートチームの特徴はコミュニケーションのよさ。週１回のカンファレンスはもちろん、普段も敷居を低くして、互いの患者さんのことを相談しあえるチームをつくってきました。内科・外科両方の視点で、症状とライフスタイルにあった治療方法をご提案しています」

と循環器内科の尾辻秀章医師は話す。

• 迅速に診断と治療が行えるハイブリッドER室

関節や脊椎・脊髄疾患、骨折、外傷まで広くカバー

米盛病院の顔とも言えるのが整形外科。整形外科医院として開院しただけに50 年以上にわたって地域に根ざした医療を展開。「整形外科の米盛病院」として親しまれてきた。

脊椎や関節の慢性疾患から交通外傷などの急性期疾患まで幅広くカバー。脊椎手術や、股・膝の人工関節置換術などは九州でも有数の治療実績を誇る。

「患者様の身体への負担をできるだけ少なくする治療法を心がけています。従来のような背骨を大きく切開する手術ではなく、内視鏡や顕微鏡、ナビゲーションシステムなどの医療機器を駆使することで、常に安全に手術が行えるように注意を払っています」と整形外科の永吉隆作医師は語る。近年、増加している高齢者の椎体骨折（椎体の骨がつぶれた症例）に対しては、比較的早期にBKP（経皮的椎体形成術）を行うことで、術後早期に疼痛の軽減が得られ、良好な治療成績をあげている。

文／岡林秀明

※1 2022年4月～2023年3月　※2 2021年4月～2022年3月　※3 2022年4月～2023年3月