• 三重県

松阪市民病院
消化器センター

内視鏡の治療と血流評価の手術で
根治を目指す

消化器センターは内科、外科、内視鏡センターで構成

町の賑わいを見守り続けた、かつての松坂城に松阪市民病院は隣接する。地域医療への貢献を使命とする同院には日々、多くの患者が来院する。

 消化器センターは内科、外科、内視鏡センターの3つで構成されている。消化管や肝臓、膵臓などに生じた疾患やがんの早期の発見、治療に取り組んでいる。
「年々増加傾向にあるのが膵がんです。高齢者の人口比率が高くなるにつれ、今後も増えていくと思われます」と話すのは消化器センター長・消化器内科科長の西川健一郎医師だ。膵がんは自覚症状がなく、進行が速い。診断がついた時には局所進行、もしくは遠隔転移しているケースが大半。膵がんの早期発見は依然、大きな課題のままだ。

「膵がんの場合、CTやMRI検査では見逃すことがあります。そこで、当院は腫瘍がわずか数㍉程度でも、EUS(超音波内視鏡)で発見に努めています。EUSは内視鏡の先端に高解像度の超音波を装備。口から入れたEUSを胃壁や十二指腸壁に当てると、壁の裏側にある膵臓を至近距離で目視でき、膵臓全体を詳細に観察できるのです」(西川医師)

迅速細胞診により、診断から手術へ円滑に移行

同院は診断から治療への円滑な移行に力を入れている。

「当院の病理診断科は手術中に採取した細胞や組織を調べ、腫瘍の悪性度や転移を時間をかけずに判断する迅速細胞診に日頃から多く取り組み、知見を蓄積しています。当科では採取した膵組織が適正な量と質なのかなどを瞬時に判断してくれるEUS―TA(内視鏡的超音波誘導組織獲得)を採用し、余分な穿刺を抑え、診断の迅速化に貢献しています」(西川医師)

患者の体への負担が少ない内視鏡治療の1つにESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)がある。これは内視鏡で病変を観察しながら、専用の電気メスで腫瘍のみを切除する。
「広い範囲に及ぶ病変でも一度で剥がし取れ、がんの進行度や取り残しの有無も判断できます」と話すのは、内視鏡センター長の西脇亮医師だ。

「例えば、早期の胃がんの場合、内視鏡を胃の中に挿入し、病変の表面を電気メスで焼いて目印を付け、切除範囲を明確にします。粘膜下層に薬剤を注入し、病変を浮かせて、電気メスで切り剥がします。がんが見つかっても、臓器を取り除く必要がなく処置できるのがメリットです」(西脇医師)

高画質画像で病変を精査できる小型胆道鏡

脂肪の吸収を助ける胆汁や消化液の膵液の通り道、胆管や胆嚢、膵管などの疾患が疑われる場合、ERCP(内視鏡的逆行性胆管造影検査)で精査する。

「ERCPは胆管・膵管の出口から細い管を挿入して造影剤を注入し、胆管や胆嚢を映し出します。ERCPの際、当院では小型胆道鏡を使います。これは直径3㍉ほどのカメラで胆管や膵管の内部に直接挿入でき、高画質画像で観察できます。病変は治療が必要か、ただの炎症なのかを確認できます。小型胆道鏡に付随する形で生検鉗子なども挿入できるので、腫瘍の組織採取が可能。胆管結石の摘出もでき、結石の取り残しを抑えられます」(西脇医師)

蛍光薬剤で血流評価し、合併症を防ぐ

胃がんや大腸がん、肝臓がん、膵がん、胆道がんへの、外科的治療を担うのが消化器副センター長・外科科長の藤永和寿医師だ。

「患者さんに時間をかけて説明し、納得してもらったうえで治療しています。きちんと治療の選択肢も提示します。患者さんの年齢、基礎疾患、生活背景を踏まえ、その患者さんが自分の家族ならば、どのように治療するかを常に念頭に置き、診療方針を立てています」(藤永医師)

手術件数について、胃がんはESDなどの内科的治療の拡大で減っているのに対し、大腸がんは増えていると、藤永医師は指摘する。

「大腸がんの手術において、当院ではICG(インドシアニングリーン)という蛍光薬剤を使い、血流評価をして手術をします。腸管を切除後、そこに血流が途絶えていると、腸管同士が繋がらず、定着しません。そこで、血液中のICGが近赤外線光に反応して発光する性質を利用し、血流を確認してから吻合します」(藤永医師)

藤永医師はICGを利用することで、合併症の封じ込めを期待している。

「直腸がんの手術術後の縫合不全の予防が期待できます。これにより、重症感染症による入院期間の延長や人工肛門を作ったことによるQOLの低下も防ぐことができると思います」(藤永医師)

文/星裕一朗

消化器センター長
消化器内科科長

西川 健一郎

にしかわ・けんいちろう

内視鏡センター長

西脇 亮

にしわき・りょう

消化器副センター長
外科科長

藤永 和寿

ふじなが・かずひさ

医療新聞社
編集部記者の目

朝、正面玄関を抜けて総合受付前のロビーに入ると、職員による「おはようございます」の挨拶の声が至る所から聞こえてくる。大病院では見ることはない、スタッフと患者の間柄が近しい、市民病院の朝がそこにはあった。
「医師およびコメディカルの方々が積極的かつ協力的で、非常に診療がしやすいですね」と西川医師は職員、スタッフを絶賛する。確かに、てきぱきと職務に励むスタッフの姿が印象的だ。
「コメディカルも含めたみんなで、楽しく仕事できるような環境作りも心がけています。大病院でもなく、患者さんとの距離感も縮めた、充実した治療設備を備えた、程よい規模の病院作りを目指したいと思います。これからもっと、地元の人の頼りになる市民病院になるのが目標です」(西川医師)
 診療に取り組む医師とサポートするスタッフたち。その“両輪”の励みに市民は信頼を置いている。

Information

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消化器センター

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三重県松阪市殿町1550番地

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【病床数】328床

【休診日】土、日、祝、年末年始