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東京北医療センター

貴方の生活と笑顔と未来のために
共に頑張りましょう!

多発性骨髄腫

 多発性骨髄腫!診断され驚かれたと思います。でも日進月歩で、科学力が導入されている領域です。共に頑張りましょう!科学は困難を克服するために存在しています。手応えある成果を得て、貴方の生活と笑顔と未来を取り戻しましょう。1976年大先輩の今村幸雄先生が、骨髄腫診療の全国組織を創設されて以来、事務局を担う等、骨髄腫に深く関わってきました。国内最多とされる造血幹細胞移植等、数多の治療を行っています。国際的に根拠ある最新治療を受けて頂こうとスタッフ一同、気合いを込めています。

 骨髄腫診療無しでは体調を保てない?血液内科専門医、緻密な骨髄腫診療を40年以上実践する者、国際会議の常連?等のスタッフが「骨髄腫診療、我が命!」のチームを編成しています。一度罹った感染に罹りにくくなる抵抗力の一つの”抗体”を造る細胞(=形質細胞)が、再感染を防止しようと懸命に分裂した際、ヒトは進化を完成していないため失敗し、”形質細胞もどき”になったことにより生じる疾患です。腰痛等の骨格系症状、貧血、腎臓合併症等沢山の症状が現れます。詳細な症状/病歴の把握、的確な検査による骨髄腫タイプの把握を元に、至適治療を進めましょう(詳細はリンク参照)。

2022年多発性骨髄腫最新情報
-正しく把握し、科学力を信じ、未来を切り開こう-



骨髄腫とはどんな病気なのかを正確に把握しよう-正しい治療のために

骨髄腫は、しばしば「血液細胞のがん」の一つとされるが、正確には「肉腫」です
-「がん」と「肉腫」の違いをしっかり把握しましょう-


 定義上、「がん」は、ヒトの体の表面(皮膚および粘膜)を被っている細胞が分裂に失敗し悪性腫瘍になった状態と定義されています。「肉腫」は、皮膚と粘膜の間の組織にある細胞が分裂に失敗し、悪性腫瘍になった常置と定義されています。成長期に被い骨肉腫は骨格を造る細胞である造骨細胞が分裂に失敗した結果生じる悪性腫瘍ですが、皮膚や粘膜から骨は、離れた位置に存在していす。骨組織を造る造骨細胞も、当然、皮膚や粘膜から離れた位置にあります。この位置の細胞が腫瘍化したために肉腫と呼ばれる造血器官である骨髄は骨の中にあり、リンパ腺も皮下組織にあることから皮膚や粘膜から離れています。この部位の細胞が悪性腫瘍になる白血病もリンパ腫も骨髄腫も、皮膚や粘膜から離れた位置にある細胞が悪性腫瘍になっていることから、「肉腫」であって、「がん」では無いといえます。

国語では、悪性腫瘍全般を「がん」と総称することがあり、この意味では骨髄腫は血液のがんとしても国語的には誤りではないかも知れませんが、医学用語では明確に「肉腫」の一つに分類されています。骨髄腫は、白血球の一種の「形質細胞」が分裂に失敗し、腫瘍細胞となったのが主病変とされていますが、形質細胞以外の様々な細胞、(何と!)血液細胞以外にも異常があります。


骨髄腫では、骨髄の中の血液細胞以外の、色々な細胞の元の細胞にも、異常があります。
-骨髄内の血液細胞の回りの細胞の元の細胞(間葉系幹細胞)にも異常がある-


 2回続けて自家造血幹細胞移植を行うと、しぶといタイプの骨髄腫でも相当効果があることを世界で初めて呈示されたアリゾナ州リトルロックのBart Barlogie先生は、治療を受けた沢山の患者様の骨髄細胞を生きたまま冷凍保存されていました。この骨髄液の中には、骨髄腫細胞も含まれていましたが、骨髄内で骨髄腫が育つのを支持していた骨髄内の環境を造っている血液細胞以外の細胞も含まれていました。

これらには、血管を造る細胞、骨組織を造る細胞、骨髄内の繊維成分のコラーゲンを造る細胞等、沢山の細胞が含まれます。これらの環境を造る細胞にも幹細胞(造血幹細胞ではありません!)があり、間葉系幹細胞(MSC=Mesenchymal Stem Cell)と呼ばれます。(何と!)このMSCの遺伝子パターンが骨髄腫の患者様の強い予後因子であることが、Bart Barlogie先生を英国から移住し引き継いだGareth Morgan先生の解析により明らかとなりました。

つまり骨髄腫は、血液細胞の白血球の一種の形質細胞の異常だけで無く、骨髄腫を骨髄内で取り囲んでいる環境細胞の幹細胞MSCにも異常があり、この異常の度合いが患者様の予後を左右していることが初めて明らかとされました。

 近未来には、骨髄腫を、骨髄腫細胞側からの分析に加えて、骨髄を取り囲む環境細胞側からの分析も行うことができ、より正確に骨髄腫を把握できる時代が迫っている可能性があります。つまり骨髄腫は、骨髄腫を取り囲む環境細胞(間質細胞stromal cell)の質を評価し、その異常(間質異常Stromo-pathy)も是正できるようになると、真の治癒に向かい歩み出すことが可能となると考えられます。


骨髄腫では、骨髄の外の腹壁脂肪内の、組織を造る元の細胞にも、異常があります。
-腹壁脂肪内にある、色々な細胞になれる元の細胞(組織幹細胞)にも異常がある-


 以前から骨髄腫細胞は、細胞の辺縁から骨髄腫細胞の細胞膜に取り囲まれ、その中に遺伝子情報が入った粒子(エクソソームexosome)を時に血中に遊離していることが確認されていました。この粒子は、血流を介し骨髄外の組織にも流れ着き、その場の細胞にも影響する可能性が指摘されています。

 以前から腹壁の脂肪組織中には、臓器や組織等の再生が可能な能組織幹細胞が存在し、再生医療に道を拓く可能性が指摘されています。少し前に骨髄腫では、腹壁皮下組織から採取できる組織幹細胞にも質的異常が指摘され始めています。

骨髄腫は、元々は形質細胞の腫瘍とされてきましたが、骨髄組織内での非血液細胞の大元のMSCにも質的異常があることと、骨髄から離れた組織にある組織幹細胞にも質的異常があることが明らかとなりました。これらの発見からは、多くの細胞を巻き込んだ「多細胞性疾患」として骨髄腫の実像が今後明らかにされる可能性が考えられます。

まとめると、骨髄腫は、形質細胞が分裂に失敗した結果生じる腫瘍の面が大きいが、血液細胞以外の細胞にも異常が認められる悪性腫瘍の「肉腫」の一つと捉えるのが、今後の診断や治療展開にも有用となる可能性が考えられます。

骨髄腫は何故発症するのか?

・古い皮膚が垢となり脱落するように、ヒトは多くの部位で細胞分裂を続けている。
・抗体(ワイングラスの形をした蛋白質)を造り、菌から身体を守るのが形質細胞の使命。
・形質細胞は、少量の菌の侵入なら、分裂しなくても、短時間で必要量の抗体を造れる。
・形質細胞は、沢山の菌の侵入を受けると分裂し、数を増やし匹敵する量の抗体を造る。
・形質細胞が分裂する際に失敗が起こると、「形質細胞もどき」が生じる。
・「形質細胞もどき」が、主に骨髄内で増え続け、一定量に至ると骨髄腫が発症する。
・骨髄腫は、他の腫瘍と同様に人間の進化が未完成のため、細胞分裂が失敗し起こる。
・「形質細胞もどき」である骨髄腫細胞は悪気があり生じたのでは無く、侵入した菌に精一杯対応しようと気合いが入りすぎ生じてしまった。
・形質細胞が通常よりも分裂しやすくなる状態があると、骨髄腫が発症し易くなる。
・これらには、シェーグレン症候群(自分の唾液腺や涙腺を菌と見なし形質細胞が抗体を造ろうと過剰に分裂する)や膠原病及び、その他の自己免疫疾患の一部等が含まれ、先天性代謝異常症の一部(ゴーシェ病等)も後に、一部の症例で骨髄腫の発症に至る。

骨髄腫は抗体を造る白血球「形質細胞」の腫瘍→形質細胞の比率を先ず把握しよう
このことは、骨髄腫の治療が成功しているかどうかの判定に役立ちます。

形質細胞は白血球の一つですが、数が多い白血球ではありません。全身に約200個ある骨の中には、それぞれに骨髄があるため、骨髄も全身に約200個あります。形質細胞が存在しているのは、主として骨髄内です。骨髄の体積の約半分は脂肪組織(食物の脂肪とは異なり脂肪細胞からなります)等の骨髄の支持組織です。残りの半分が血液細胞(白血球、赤血球、血小板)です。

つまり骨髄は、血液細胞を造る場であることに大きな意義があります。白血球、赤血球、血小板の3種の細胞が、共通の血液細胞のタネ(=造血幹細胞)から誕生します。白血球、赤血球、血小板は、骨髄内で大元の造血幹細胞から、各々の若い段階の細胞が、生じ、若い段階(芽球と呼ぶ)は活発に分裂し数を増やし、その後、成熟します。白血球は病原体に対する抵抗力(感染症に対する処理能力)、赤血球は酸素を運ぶ能力、血小板は血管の破綻部位を止血できる能力が備わると、骨髄から血管内に流れ出します。骨髄内で白血球系細胞は赤血球系細胞の約3倍の数ですが、血小板系の細胞(若い段階を巨核球と呼び、この巨核球の細胞の辺縁が切れて最小サイズの血球の血小板が生成)は少数です。

赤血球と血小板は、一種類ですが、白血球には4種類の細胞が含まれます。白血球の約3分の2を占める細胞が、顕微鏡で、細胞内に「つぶつぶ(=顆粒)」が確認できる顆粒球です。残り3分の1はビー玉のように丸く顆粒も目立たないリンパ球です。顆粒球とリンパ球で白血球の大部分をしめますが、この2種以外に、白血球中の10分の1未満の少数の細胞が、単球と形質細胞です。単球は白血球の約5%程度ですが、約1%と、最も少ない白血球が形質細胞です。この造血のバランスの中では、形質細胞は骨髄内の、全血液細胞の約1~2%前後に過ぎません。

骨髄中の血液細胞の約1~2%しかない形質細胞ですが、1種類の形質細胞が、ヒトが一生のうちで出会う全ての菌(病原体)に対する抗体を造れるのでは無く、1種類の形質細胞は、1種類のみの抗体を造ります。つまり子供の頃にハシカに罹り、二度と罹らなくなっている大人の骨髄内の形質細胞は、全部で1~2%程度しかない形質細胞の中のごく一部の形質細胞のみが、ハシカのビールスが体内に侵入してきても、そのビールスと結合できる抗体を造る仕組みになっています。予防接種も病原体毎に違うワクチンを打つのは新たな病原体が体内に入ると、対応できる形質細胞が新たに生成することによります。形質細胞は、骨髄内の白血球系細胞のほんの片隅の1%のみですが、1%の中に、人生で出会う数だけの病原体に対する種類が備わるのが、感染に対する抵抗力の基本の一つです。

<形質細胞が造る抗体の形を理解しよう>
このことは、骨髄腫と診断された時の、蛋白質の型の把握に役立ちます

抗体は、ワイングラスの形をした蛋白質で、(何と!)血管内を流れる蛋白質の6分の1を占めています。抗体は、ワイングラスの「杯」の部分で、菌(病原体)に結合します。「杯」の部分に菌が入り込んでも、菌の動きで杯部分が破損しないように、杯部分は外から補強されています。

この外側から、杯部分を補強する部分は、軽鎖(light chain)と呼びます。抗体は、軽鎖で補強された杯部分の下には、ワイングラスと同様に、茎の部分があり、この茎の部分は底面部分に繋がっています。杯部分の内側、それに続く茎の部分、及び底面の部分の3部分は一繋がりです。この部分を、軽鎖よりも大きく重い部分と言う意味で、重鎖(heavy chain)と呼びます。

形質細胞の遺伝子の存在部位を分析すると、軽鎖を造る遺伝子と、重鎖を造る遺伝子は別々の離れた位置にあり、軽鎖と重鎖は別々に遺伝子から造られた後で、後で結合して、抗体を形作ることが確認されました。健康な免疫状態にあると、常に重鎖よりは、軽鎖が過剰に造られていることが知られています。つまり、健康人の血液中には、重鎖と軽鎖が絶妙に一対ずつ結合した健康な抗体が流れていると共に、過剰に産生された結果、重鎖と結合していない遊離軽鎖(free light chain)が存在することが知られています。重鎖は、杯部分+茎部分+底面部分の3部分からなり、杯部分は軽鎖により外側から補強されているのが、抗体の形です。

この抗体の3部分は、それぞれ意味があります。杯部分は菌(病原体)の形にピッタリ合わせるように造られることから、菌に結合する部分です。底面部分は、この底面部分にピッタリくっつく装置を持っている白血球との結合部分です。顆粒球や単球の細胞表面に重鎖の底面部分にピッタリくっつく装置があるため、杯部分で抗体に結合した菌は、重鎖の底面部分を介し、顆粒球や単球の細胞内に取り込まれ、消化されてしまいます。そのため顆粒球や単球は「食細胞」とも呼ばれます。このように、感染に対する抵抗力は、抗体を造る形質細胞と、食細胞の協同作用によることが分かっています。

抗体は、重鎖の茎の部分の形の違いで5種類に分類されています。骨髄内の形質細胞が造った抗体は、骨髄内から血管内に流れ出し、やがて体液中に満たされます。眼にゴミが入った際には、瞬きが起こり、涙が流れますし、口に食べ物が入ると、唾液が分泌され始めます。赤ん坊が母親から授乳を受けると、母乳が赤ん坊の体内に入ってきます。つまり、抗体の一部は、骨髄中の形質細胞から造られた後、血液を流れて、涙腺や唾液腺や乳腺に一時的に留まり、局所の刺激に応じて、涙腺や唾液腺や乳腺から分泌されます。

このタイプの抗体は、骨髄内の形質細胞により造られた後で、腺の中に留まり、必要に応じて分泌されるため、分泌型抗体と呼ばれます。分泌型抗体と、それ以外とは、重鎖の茎の構造が異なっています。抗体の茎の部分の違いにより、重鎖はγ鎖、α鎖、Δ鎖、ε鎖、μ鎖の5種類に分けられます。重鎖の杯部分を外から補強する軽鎖にも、2種類あります。κ鎖とλ鎖の2種類です。

抗体ができると、一度罹った病原体に2度罹らない抵抗力=免疫力が備わることから、抗体の別名は、免疫力のある(Immuno-)どこか丸い部分がある血中の蛋白質(globulin)の意味から、免疫グロブリン(Immunoglobulin,略してIg)とも呼ばれています。なお、ヒトの血中の蛋白質は、沢山の種類があり、蛋白質毎に保有する電気量(電荷)が違うことから、これを活用して、血液中の蛋白質を分離し同定することが可能です。

電気が流れる板状の寒天のような柔らかい支持体に、スリット上の隙間を作り、血中の蛋白質を流し込んだ後、支持体に一定方向の電気を流すと、個々の蛋白質の電荷の違いで、異なる位置に流れます。この方法で蛋白質を分離する分析法(検査)を蛋白分画と呼びます。抗体はγ分画と呼ぶ位置に大部分が流れるため、γグロブリンとも呼びます。抗体(anti-body)は、作用からは免疫グロブリン(immuno-globulin, Igと略される)、蛋白質分析法の蛋白分画の位置からはγグロブリン(γ-globulin)と呼ばれますが中身は同じです。

血液中で一番多い抗体は、重鎖がγ鎖なので、この抗体をG型抗体(IgG)と呼びます。IgGの内、軽鎖がκ鎖の場合はIgG-κ型抗体、λ鎖の場合はIgG-λ鎖抗体と呼びます。同様に重鎖がα鎖の抗体がIgA抗体、Δ鎖の抗体をIgD抗体、ε鎖の抗体をIgE抗体、μ鎖の抗体をIgM抗体と呼びます。それぞれの軽鎖にもκ鎖とλ鎖があります。このように抗体は、重鎖が5種類、軽鎖が2種類あるため合計で10種類あります。なお、分泌型の抗体は、重鎖の茎の部分の構造から、IgA抗体に分類されています。

このように抗体は、「杯部分」は菌にビッタリ合う形ではあるものの、重鎖部分には5種類あるため、全ての重鎖が同一の電荷を持つのでは無く、蛋白分画上同じγ分画でも重鎖の違いで少しずつ異なる部位に位置します。

さらに、形質細胞が、菌毎に菌の形にピッタリ結合する「杯部分」を造るため、電荷が同一になるとは限りません。杯部分の内側は重鎖ですが、補強する軽鎖も菌の形により変化することが知られています。これは、自然感染したハシカビールスに結合する抗体と、予防接種等で獲得した百日咳菌に結合する抗体は、「杯部分」が異なることに対応しています。重鎖と軽鎖が結合したのが抗体ですが、重鎖が多様であること、および杯部分が多様であることから、蛋白分画上は同じγ分画であっても幅広いγ分画が形成されます。

抗体の構造が把握できると、骨髄腫の大部分で観察されるM蛋白が理解できる

骨髄腫は、骨髄内の血液細胞の1%前後と少数なものの、菌が侵入すると菌にピッタリ結合できる抗体を造る形質細胞の腫瘍の面が大で精査すると他の細胞異常も見られます。健康な形質細胞は健康な抗体を造れますが、骨髄腫細胞は「形質細胞もどき」なので、健康な抗体を造ることができず、「抗体もどき」を造ってしまいます。この「形質細胞もどき」が造る、「抗体もどき」のことをM蛋白と呼びます。

M蛋白のMは、単クローン性monoclonalのMから来ています。monoclonalは2部分からなります。monoは一種類との意味です。クローンとは一定の性質を示す細胞集団のことです。単クローン性蛋白=M蛋白とは、何らかの性質を共有する細胞集団がつくる単一の蛋白質の意味です。

実際には、健康な抗体を造る筈の形質細胞が分裂に失敗して腫瘍細胞になったため、この「形質細胞もどき」の細胞が増えて細胞集団となったものの、抗体を造る性質が保持されているために、単一の抗体ないし抗体に関連した単一の蛋白質が造られます。この単一の蛋白質のことを、M蛋白と呼んでいます。

元々IgG-λを造るはずの形質細胞が分裂に失敗して「形質細胞もどき」になると、造られるM蛋白も重鎖と軽鎖の大まかな部分は健康な抗体と変わらないことが多いため、しばしば、IgG-λ型になります。しかし健康な抗体との違いは、抗体分子の中で、菌にピッタリ結合するように造られる絶妙な「杯部分」がM蛋白の場合は、殆どの場合、「形質細胞もどき」の細胞のため精密に造ることができず、菌に結合しない役立たずの「杯部分」になってしまいます。

一種類の形質細胞が、分裂に失敗し「形質細胞もどき」になると、質のおかしい一種類の「形質細胞もどき」が増え、一種類の抗体もどきが産生され続けます。この単一の細胞集団が造る単一の抗体もどきのことをM蛋白と呼びます。

M蛋白にも健康な抗体と同様に、重鎖と軽鎖を認める際には完全分子型M蛋白と呼びます。しかし、「形質細胞もどき」の骨髄腫細胞は、腫瘍細胞のため細胞により重鎖を造る能力を失い、軽鎖だけしか産生できない場合があります。この軽鎖のみのM蛋白を発見者の名前を冠してベンスジョーンズ蛋白(Bence Jones Protein=BJP)と呼びます。

「形質細胞もどき」の骨髄腫細胞がM蛋白を産生できない症例も少数例ですが観察されます。この病型は非分泌型骨髄腫と呼びます。非分泌型であっても、重鎖と軽鎖は別の位置にある遺伝子により産生されるため、血中に遊離軽鎖(free light chain=FLC)が検出される症例も見られます。完全分子型M蛋白も、BJPもFLCも検出されない真の非分泌型骨髄腫も知られています。骨髄腫では大多数の症例でM蛋白が検出可能なことから、治療の奏功性の判定などに頻用されています。血中のM蛋白の判定法は、「蛋白分画<免疫電気泳動<免疫固定法」の順で、感度が高いことが知られています。世界基準の骨髄腫の寛解判定は、免疫固定法で陰性となることとされています。

M蛋白は、体にどんな負荷を及ぼすのか

M蛋白は、完全分子型M蛋白の場合は抗体もどきのため、健康な抗体分子にある「杯部分」を有していますが、菌にピッタリ結合する構造は持っていません。それでも、杯部分の付着性を残していることが多いのです。このため、血管内に最も多く流れている赤血球に付着し、多数の赤血球がくっついた状態なってしまい血液の粘稠度が上がってしまいます。この際の血液を塗抹標本で鏡検すると、繋がった赤血球(連銭形成)がしばしば観察されます。

この状態を高粘稠度症候群と呼びますが、しばしば、循環障害の原因となります。眼の網膜の血流障害が生じると視力障害が生じます。脳血流の循環障害に至ると、脳梗塞に矛盾しない諸症状も出現します。四肢の血管の血流障害が生じると、四肢末梢の冷感、変色、しびれ感等も生じます。

高粘稠度症候群を来している状態で造影剤を用いた画像診断を行うと、粘稠度の高い造影剤を用いる際にはさらに血液の粘稠度が上がり、症例報告では一回の造影剤投与で不可逆性の腎不全に至った症例までもが報告されています。

M蛋白は、役立たずの蛋白質で老廃物とされ腎臓から排泄されますが、その多くが尿細管を中心に腎臓内に沈着します。多彩な機序で腎障害が骨髄腫に高頻度に合併しますが、それらの一つの機序となります(cast nephropathyと呼ぶ)。

M蛋白は、菌にピッタリと結合することは困難ですが、体内の細胞や組織に付着すると臓器障害の一因となります。例えば神経筋接合部に付着すると、眼瞼下垂等重症筋無力症類似症状が出現することがあります。各種細胞や組織に一定量以上沈着すると、各種の自己免疫疾患類似症状を呈することもあります。顆粒球や単球の細胞膜に付着すると、食細胞機能障害の一因となり、血小板膜に付着すると血小板機能障害の一因となるなど血小板寿命短縮を来します。

M蛋白自体が独特の構造を持つと蛋白分子異常症proteino-pathyも発症します。M蛋白の一部は、他の骨髄腫細胞が造るM蛋白と反応し、時に結晶を形成することがあります。結晶の形が、裁縫の「まち針」に似ることもあります。この結晶が生じると、歩行時に踵の骨と足の裏の皮膚との間を流れている血管内にも、「まち針」が流れ歩行中に「まち針」が流れている血管を押してしまい血管の壁が傷みます。最終的には足の裏に血液が流れにくくなるため、足の裏の皮膚が掘れて感染も合併し、著明なADL制限が生じます。このような病態を結晶蛋白血症crystal globulinemiaと呼びます。

 M蛋白が低温で沈殿する性質を持つ場合は、耳たぶや四肢末梢などの体幹部の体温よりは低い部分で沈殿してしまいます。耳たぶの腫れを含む障害や四肢先端部の血流障害が生じます。このような病態をクリオグロブリン血症と呼びます。

 このようにM蛋白の特別な性質により障害が生じる際は、蛋白分子異常症(proteino-pathy)と呼ばれます。M蛋白が蛋白分解を受けやすい構造を持ち、蛋白分解を受けたM蛋白の破片が体に沈着するアミロイドーシスも、この意味からは蛋白分子異常症に含まれます(後述)。

M蛋白が理解できると、蛋白が断片化して沈殿するアミロイド症が理解できる

骨髄腫の6~7人に一人の頻度でアミロイド沈着が確認されました(筆者前任地の国立国際医療研究センター剖検例解析DATA)。アミロイドは、M蛋白そのものでは無く、蛋白質が血液中や組織内の蛋白分解酵素により部分的に分解され、血液や体液中に溶けやすいなっていた蛋白質の一部分が分解され血液や体液中での溶けやすい性質が奪われ、臓器や組織に沈着するに至った状態です。

骨髄腫で産生されるM蛋白も全部のM蛋白ではありませんが、血中や組織内の蛋白分解酵素により分解され易い構造を持つ場合はM蛋白が部分的に分解され、溶けやすくなっていた部分が無くなるとアミロイドとなり組織や臓器に沈着します。軽鎖(light chain)の一部が蛋白分解反応を受け、軽鎖の溶けやすさを担当していた部分が分解されると、体の各所に沈殿するアミロイド蛋白になります。

このタイプの軽鎖由来のアミロイド蛋白沈着症をALアミロイドーシスと呼び、骨髄腫に合併するアミロイドーシスの中では頻度が高い部類に入ります。同様に、重鎖(heavy chain)の一部が蛋白分解され、重鎖を溶かし易くしていた部分が消失するとAHアミロイドーシスと呼びます。骨髄腫で腎障害が続き、腎臓で排泄される蛋白のβ2ミクログロブリンが高値となり蛋白分解反応を受け、蛋白分子として沈殿しやすくなると透析アミロイドーシスと呼びます。

骨髄腫細胞から感染症が無くても炎症を起こす成分の一部(SAA蛋白)が多量分泌されると、蛋白分解反応を受けた際には、SAA蛋白→AA蛋白と分解され、AAアミロイドーシスが発症します(関節リウマチ等には高頻度に合併するが、骨髄腫での合併例はまれ)。骨髄腫に合併するアミロイドーシスの中には、同一個体に複数のアミロイド蛋白が沈着する症例も報告されています。

骨髄腫では、一定頻度でアミロイド沈着(=アミロイドーシス)合併を認めますが、アミロイドーシスは、M蛋白自体の沈着ではなくM蛋白等が蛋白分解反応を受けて、蛋白質内の溶解性に関与する部分が消化されてしまい断片化した結果、組織や臓器等に沈着するに至った状態のことを言います。

M蛋白とアミロイドが理解できたら、定型的な骨髄腫をしっかり把握しよう

骨髄腫は、骨髄の細胞成分中で僅か1%前後を占める形質細胞が体内に多量の菌が侵入したため、菌の数に見合うだけの抗体を造ろうと細胞分裂を行った結果失敗し、「形質細胞」もどきとなり細胞として死ににくいことから徐々に増えた状態です。

「形質細胞もどき」が生じただけで無く詳細な分析を行うと、骨髄中の血液以外の細胞(支持細胞や間質細胞とも呼ばれます)の大元の細胞である間葉系幹細胞にも質的異常があるだけでなく、造血と一見関係が無い骨髄から遠い皮下脂肪内の組織幹細胞の質にも異常があることも最近報告されました。

これらの間葉系幹細胞や組織幹細胞の異常は新たな発見で、骨髄腫の病態との関連は今後解明されていく領域なので、先ずは定型的な骨髄腫の把握から始めましょう。なお、頭に入れておくべきは、骨髄腫は症例間の差が大きいことと、骨髄腫と診断された時点で、体内には同じ性質の骨髄腫細胞がコピーされたように沢山存在するのでは無く、少しずつ性質が違ういわば兄弟姉妹のような骨髄腫細胞が混在していることです。

少しずつ性質が異なる細胞集団を亜分画とか細胞クローンと呼ぶことが一般的ですが、骨髄腫は治療を行うと治療薬が良く効く亜分画は減少する反面、治療薬を細胞内に受け入れるものの、速やかに排泄する亜分画は治療の影響を受けずに着実に増加します。また、治療によりその時点毎に優勢となっている亜分画が移行していくことも知られています。
この亜分画が移行する現象を、clonal tide(的確な和訳なし)と呼びます。つまり骨髄腫は、個体差が大きいだけで無く、同一個体でも時点毎に体内で優勢となる亜分画が異なる腫瘍であることが各種分析で明らかにされています。これらを踏まえて定型的な骨髄腫の病態を把握しましょう。

定型的な骨髄腫では、骨髄不全や血球減少が起こります

骨髄の血液細胞中の僅か1%のみの抗体産生細胞である形質細胞が細胞分裂に失敗し、「形質細胞もどき」となり増殖し続けて骨髄腫の発症に至ります。骨髄は、骨と言ういわば塀に囲まれた閉鎖腔のため、「形質細胞もどき」が増え体積を増すと健康な血液細胞の造血の場が奪われ、骨髄不全による造血障害が発症します。このため、白血球造血も赤血球系造血も血小板系造血も、原則として抑制されます。「形質細胞もどき」から、造血を抑える物質が造られることも骨髄不全の一因です。

骨髄腫では、様々な原因が重なり腎障害を起こします。腎臓は赤血球の若い段階の細胞の造血を刺激するホルモンの一種、エリスロポイエチン(=Epo)を産生しています。骨髄腫で腎臓がやられEpoの産生が低下することも貧血発症の一因です。蛋白質が蛋白分解反応で分解され組織に沈着するアミロイドーシスは、時に、消化管粘膜を脆くし消化管出血の原因となります。

骨髄腫では、血液疾患領域では、時に骨髄線維症や骨髄異形成症候群のような、骨髄不全を来しうる他の血液疾患も合併します。これらの合併も貧血進行の一因になり得ます。また、異常な腫瘍細胞が生じる際に、それらを抑制する癌免疫担当細胞の機能が落ちる症例が多いことが知られています。

骨髄腫に固形腫瘍等の悪性腫瘍が合併すると、それに伴う貧血も加味されます。M蛋白が赤血球に付着し赤血球が粘着し合うと高粘稠度症候群に至りますが、M蛋白が赤血球に付着し、赤血球寿命を短縮する場合は、自己免疫性溶血性貧血類似病態に至るため、貧血発症の一因になります。血小板膜にM蛋白が付着すると症例により血小板寿命が短縮するため、血小板減少の一因になり得ます。これらの多様な機序を介し、骨髄不全や血球減少が生じます。

定型的な骨髄腫では、腎臓の機能障害が起こります

骨髄腫では、さまざまの原因により腎障害が起こります。患者様によっては、透析に通う内に担当医が代わり、初めてM蛋白の血液検査を施行した結果、後で骨髄腫が確認できることも時に起こります。M蛋白が老廃物と認識され、腎臓から排泄される際に腎臓の目詰まりが生じることが、腎障害の原因として主原因とされてきました。

しかし、現実に剖検例を含め骨髄腫での腎障害の原因を解析すると、複数の機序が同一症例で重複することにより、腎障害が発症していることが確認されます。腎臓が障害される原因は、多要因が含まれます。ほぼ全例でこれらの内の複数の原因が重なっていることを確認しています(overlapping syndrome)。

骨髄腫で腎臓が障害される原因には以下の諸要因が含まれます。

・M蛋白が沈着し腎尿細管が障害される(cast nephropathy)
・骨から遊離したカルシウムが腎臓内に沈着する
・骨髄腫細胞が腎臓に浸潤する(特に剖検では最も頻度の高い原因)
・病原体の尿路系感染症、薬剤性腎障害、高粘稠度症候群に伴うもの、元々存在していた腎硬化症(高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙等の動脈硬化を来す既往歴がある症例など)
・幹細胞移植を行った骨髄腫症例で観察される血栓性微小血管障害、間質性腎炎、脱水、その他

骨髄腫が原因で、重篤な透析導入が必須な腎障害に至った際でも、進歩の著しい骨髄腫治療が奏功すれば、透析依存性を離脱した症例が報告されています。

定型的な骨髄腫では、骨障害と高カルシウム血症が起こります

骨髄腫で最も自覚症状が多い領域は、腰痛、背部痛、肋骨痛などの骨障害です。骨髄で骨障害が生じる原因は多彩ですが、カルシウム(=Ca)の多い食物を摂取した際に食物中のCaが消化管から吸収された後、骨組織にCaを沈着させる「造骨細胞」の働きを骨髄腫細胞から分泌される成分のいくつか(DKK-1、FRP等)が抑制することが確認されています。経口でCa製剤を投与しても無効なのは、この機序が作動し、Caが骨組織内に沈着し難いことが一因とされています。

造骨細胞の抑制と共に骨障害の主原因とされているのが、骨髄腫細胞から分泌される別の成分で、骨内のCaを骨から遊離させる破骨細胞を刺激する液性因子(破骨細胞活性化因子OAF-=osteoclast activating factor)です。Caは筋肉の収縮に必須なことから、一定量のCaは常に骨組織から取り出す必要があり、破骨細胞がその役割を担っています。骨髄腫細胞から分泌される各種の液成因子、とりわけMIP-1αが強い機能を有しています。

MIP-1α以外にも、破骨細胞の活性化因子は諸分子あることが知られています。骨髄組織内では、しばしば骨髄腫細胞と破骨細胞が近距離に存在し、骨髄腫細胞が破骨細胞を刺激し易い状況にあります。一方骨髄腫細胞から刺激を受けた破骨細胞は、骨髄腫細胞が細胞死に至りにくいように保護することも知られています。しして、骨髄腫細胞と破骨細胞は助け合っているのが確認されています。

骨髄腫では、この造骨細胞抑制作用と破骨細胞活性化作用が、骨髄腫細胞から分泌される別々の成分により刺激される結果、骨組織から持続してCaが遊離し高Ca血症や重篤な骨障害に至ることが知られています。骨障害が重篤になる原因には、骨髄腫からPTH-like substanceが分泌されるとの報告や、RANK-RANKL系を介する回路も確認されています。

これらの定型的な骨髄腫で起こる障害はCRAB症状と呼ばれます

定型的な骨髄腫では、骨髄不全による造血障害を介して貧血(Anemia)が生じること、破骨細胞の活性化と造骨細胞の抑制により、骨組織内のCaが血中に遊離し高Ca血症に至ること(hyperCalcemia)および骨病変(Bone disease)が生じること、M蛋白沈着や進行期の骨髄腫細胞の直接浸潤等、多要因で腎障害(Renal disease)が生じることが代表的な症状とされています。高Ca血症、Renal damage、Anemia, Bone diseaseの4病変の頭文字をとったCRAB症状が定型的な骨髄腫の症状とされています。

骨髄腫は抗体を造る細胞であったため細胞内には色々な成分を作る装置があります

骨髄腫の細胞は、ラグビーボールに似た楕円形の細胞です。広い細胞質の主成分は、蛋白合成のための細胞内小器官である粗面小胞体rERです。

粗面小胞体eER(rough endoplasmic reticulum)は蛋白合成に特化しており、この部分で健康な形質細胞は抗体分子を産生していますが、「形質細胞もどき」の骨髄腫細胞は正常の形質細胞とは異なることから、抗体もどきに当たるM蛋白以外にも各種の蛋白質が産生されます。骨障害の項に示した造骨細胞抑制因子や破骨細胞活性化因子もこのrERで造られます。

骨髄腫細胞の広い細胞質を満たすrERでは、それ以外の多様な成分も産生されます。体の老廃物の一つのアンモニアを肝臓で分解するのを阻害する蛋白質が産生されると、アンモニアの分解が障害され高アンモニア血症が生じます。消化管腫瘍のマーカーとされるCEAが産生されたり、間質性肺炎の合併が無くてもKL-6が産生されたり、膵臓疾患や唾液腺疾患がなくてもアミラーゼが産生されたり、昇圧物質が産生されることもあります。またホルモン活性を有する物質が産生されると、男性でも女性化乳房が出現することがあります。このように、通常の形質細胞が産生しない成分を、骨髄腫細胞が「形質細胞もどき」であるために、産生することがあります。

このように腫瘍細胞が正常の細胞と異なった物質を産生することから、各種の臨床症状を呈するに至った場合、その腫瘍を「機能性腫瘍」と呼びます。骨髄腫は、造血器腫瘍の中では、多彩な症状を示す機能性腫瘍とされています。

骨髄腫の診断

骨髄腫の診断は、骨髄内で通常の形質細胞とは異なる腫瘍性の形質細胞(=クローナルな形質細胞と呼びます)が、骨髄中の血液細胞の10%以上を占めていることが確認できると診断可能です。症例により体内に腫瘤が確認され、その病理所見でクローナルな形質細胞が確認できた際にも診断可能です(ただし診断は形質細胞腫)。表に診断基準と骨髄腫の各種分類を示します。

骨髄腫と診断されても血液疾患は骨髄腫だけかを吟味することが必要です

クローナルな形質細胞の一定の比率以上の存在が確認でき、骨髄腫と診断できた際にも他に造血障害を起こしうる病害の合併を念のために考えておくことが望まれます。多発性骨髄腫に一定頻度で合併し、骨髄不全を起こしうる病態には諸病型が含まれます。その中でも、骨髄線維症と骨髄異形成症候群は評価しておくことが望まれます。骨髄腫の治療時の血球減少の遷延化や、自家造血幹細胞移植時の自家末梢血幹細胞採取および移植後の正着などに影響する可能性があるためです。

骨髄線維症は、骨髄液の吸引である骨髄穿刺では診断不能です。誠意成分が液体成分でないことから、骨髄中の非液体成分も採取できる骨髄生検を生検針を用い実施する必要があります。これらの検査法を駆使し、骨髄腫の診断時点で、評価しておくことが大切です。

骨髄腫を診断する際の必須事項

・骨髄腫の体内での総腫瘍量がある程度評価できる病期分類を施行しましょう。
・骨髄腫の中には、抗骨髄腫薬を投与しても、難治性で進行が早い病型が含まれます。
 ・骨髄腫細胞のしぶとさの指標であるリスク分類を行いましょう
・骨髄検査等で、クローナルな形質細胞を確認するのは診断の第一歩です。
・続いて、どんな骨髄腫細胞であるかを評価しましょう。

 骨髄腫細胞の形態学、骨髄腫細胞の表面物質の確認、骨髄腫細胞の染色体分析(G分染法→増殖の盛んな細胞の染色体のみが分析されるため分裂が活発で無い骨髄腫細胞の染色体分析にならない場合があり要注意、また通常の骨髄細胞を用いた骨髄腫細胞のG分染法は骨髄中の骨髄腫細胞を抗CD138抗体等で濃縮していないため陽性所見が得られにくいことも要注意)、骨髄細胞のFISH解析を用いた染色体分析(分裂が活発で無くても特定の遺伝子変異を来しうる染色体異常が分析可能。ただし試薬により分析可能な染色体が限定される)等の情報は基本情報です。

鏡検に適した骨髄細胞と松標本が得られたら骨髄腫細胞以外に骨髄異形成症候群に矛盾しない形態異常があるか否かを、顆粒球系&赤芽球系&巨核球系細胞に関し評価します。骨髄生検針で十分量の骨髄生検標本が得られたら、骨髄線維症の有無を評価しましょう。

骨髄腫の一部症例では、骨髄腫細胞が骨髄外に腫瘤を形成することがあります。CT、MRI、PET等の画像診断を駆使してこれらの髄外病変を評価しましょう。なお標準PETとされるPET撮影は、ブドウ糖の取り込みの盛んな細胞の集族部位を描出しますが、骨髄腫の髄外病変はしばしばブドウ糖の取り込みが乏しく擬陰性となることがあり要注意です。

骨髄腫細胞の集族部位を高感度で描出できるPETはアミノ酸PETですが、研究的PETに位置づけられていて保険診療の範囲では実施不可能です。骨髄腫の一部病型では、骨髄腫細胞形態が、リンパ球ないしリンパ形質細胞に近いため血管内に多数流れている症例でも、通常のリンパ球と判定されることがあるため要注意です。

骨髄腫では二次発癌にも注意しよう。

骨髄腫では腫瘍性の形質細胞以外にも多くの細胞の機能が障害されていて、体内に固形癌の細胞が出現していても、これらを細胞死に導く働きのあるリンパ球(natural killerや細胞障害性Tリンパ球CTL=cytotoxic T-lymphocyte)の機能障害があることも知られています。このため、骨髄腫以外に固形腫瘍が合併する症例が知られている。このことも考慮し、慎重に評価することが望まれます。この二次発癌は、骨髄腫の診断時に認められることもありますが、レナリドマイド等の抗骨髄腫薬投与時は、少し合併率が上がるとされています。

骨髄腫の治療を行う前に評価すべきこと

・臓器機能(薬物を分解する臓器である肝臓や腎臓が弱っていないか、点滴で血管内のボリュームが増えても大丈夫な心臓や肺の機能なのか)
・感染病巣の評価

骨髄腫は完治が困難でも、上手くやって行けるのは何故か?

骨髄腫は、同一固体内にも少しずつ性質の異なる亜分画が存在する混在状態です。治療が一定程度奏功する亜分画は治療により体内の腫瘍量は減りますが、一部の亜分画は治療薬を受け入れても短時間で排泄するためにやがて体内で増えてきます。亜分画の変動は骨髄腫治療の際に頻繁に生じます。このことが完治困難な理由の一つです。

骨髄腫は形質細胞の腫瘍の面が大です。このことの意義を考えてみましょう。形質細胞は、46億年と言われる地球の歴史の中で、約600万年前にヒトやサルに似た生命が誕生し、約20万年前に現代人の祖先とされるクロマニヨン人が誕生したことを考えると、ほんの最近の出来事とも考えられます。この20万年間、現代人は絶滅すること無く、また絶滅危惧種になることもなく、何と最近では宇宙ステーションでも暮らすヒトも現れています。

どうしてヒトは絶滅種ないし絶滅危惧種にならなかったのでしょうか。今回のコロナ禍で明らかなように、地球は沢山の病原性のある微生物に溢れています。しかし、クロマニヨン人が生き延びてこられたのは、たとえ一度は微生物の侵入を許しても二度目の侵入に対して血液中に十分量の抗体を造り微生物を乗り越えてきたからです。

つまり血液中の蛋白質の約6分の1もの大量の抗体を産生できていることが、人類が絶滅危惧種や絶滅種にならなかった最大の要因です。大昔はワクチンも無かったなので、如何に抗体産生の仕組みが人類の繁栄の礎となってきたかが明らかです。この抗体を造る細胞が形質細胞です。人類の繁栄のためには、骨髄内のたとえ1%のみの僅かの細胞であっても、形質細胞がしっかりと抗体を造ることができることが、人類繁栄の礎だったと考えられます。

この意味からは、形質細胞は簡単に壊れる細胞であってはならない細胞です。このために、形質細胞は簡単に細胞死に陥らないように、沢山のバイパスを持っています。また、骨髄腫細胞と破骨細胞がお互いに助け合い、骨髄腫細胞は回りに血管細胞を呼び寄せて、回りの細胞と共に細胞死を免れる回路を持っています。このようなバイパスのことをクロストークと呼ぶことがありますが、人類の繁栄を支え続けている形質細胞は、細胞の中に細胞自身を守るクロルトーク回路を沢山持っています。また、骨髄内の回りの細胞と強調し細胞を死ななくする点から、細胞間のクロストークを発揮する細胞の面も持ち合わせています。

骨髄腫細胞の最新の研究者らは、骨髄腫の細胞の辺縁から骨髄腫の細胞膜に囲まれ、骨髄腫関連の遺伝子の一部をもった小粒子(エクソソーム)が遊離し、血中を流れ、造血と関連の無い、遠隔の部位まで流れること確認されるに至りました。もともと形質細胞は、人類の繁栄を支えてきた抗体を造る細胞で、細胞死を免れるため沢山のバイパスを発達させ、形質細胞自体が細胞死に至りにくいことに加え、沢山の細胞ともクロストークを介し共存する機構を発達させてきた可能性があります。健康な形質細胞が持っている細胞死を免れる機構を骨髄腫細胞も受け継いでいる可能性が否定できません。これらを考えると、骨髄腫は近未来の完治が困難な腫瘍である可能性が否定できません。

しかし、人口の高齢化と共に相当な高齢まで天寿を全うする方が増えています。老衰で亡くなられた健康老人を解剖させて頂くと、相当高率(場合により7割)で死因に関係しなかった米粒の半分程度の小さな局在癌は頻繁に検出されています。このことは、悪性腫瘍があることが直ちに命を脅かす訳ではないことを雄弁に物語っています。

人類が進化を完成していないために、細胞分裂が異常を生じるのはやむを得ませんが、骨髄腫診療の現状での到達点は、定期的な評価を怠らずclonal tideを早期に検出し、如何に長く局在癌のレベルに留めるかを工夫することである可能性が高い判断されます。

困難を克服するために科学は存在しています。細胞内および細胞間のクロストークを介し細胞死を免れようとする骨髄腫であろうと、亜分画変動を詳細に早期に検出し、如何にして局在癌のレベルに維持するかが、2022年の最善の骨髄腫に対する治療であると考えられます。

実際に、科学と治療法の進歩で以前の寛解レベルよりは遙かに激減したレベル(微少残存病変MRDレベル)にまで、骨髄腫が制御できている方が増え続けています。完治は理想かも知れませんが、クロストークのことを考えると、工夫して局在癌のレベルに骨髄腫を制御し、良好なQOLやADLを保つことが現実的な目標である可能性が考えられます。

国際骨髄腫先端治療研究センター(IMC-ART)
センター長


三輪 哲義(医学博士)

日本血液学会認定
血液内科専門医

1976年3月 東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部第3内科、自治医科大学医学部血液学教室講師、国立国際医療研究センター高度先進医療部長、2011年日本骨髄腫学会総会長などを歴任し現職、日本骨髄腫患者の会での講演多数

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