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西宮市立中央病院

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痛みの本質を見据えた総合診療で
慢性腰痛・慢性頭痛に挑む

関西の痛み治療の拠点総合診療で患者を診る

 慢性の痛みを抱える人は多く、なかでも腰痛、頭痛で悩む人は多い。痛みの原因とともに、痛み自体を病気ととらえ、治療するのがペインクリニックだ。関西でいち早く1990年にペインクリニックを開設した西宮市立中央病院は、歴史のある痛み治療の拠点である。2019年(1~12月)の外来患者は延べ7988人を数えた。

 「けがなどによる組織損傷の痛みは急性痛と呼ばれ、3カ月も経てばなくなります。一方、痛みの原因になったけがや病気が治っても、神経の障害が残っていたり、痛みの要素である人の心(情動)にも影響したりして治療が難しくなるのが慢性痛です」と話すのは30年以上、痛みの治療に携わってきた前田倫医師。

 ペインクリニックでは痛みの治療として、薬やリハビリテーションなどの保存療法に加えて、痛みを引き起こしている神経へのブロック注射や低侵襲手術を行う。

 「痛みを直接抑える神経ブロックは患者さんの満足度も高く、ペインクリニックの大きな役割の一つで、当科でも19年(1~12月)に6731例の神経ブロックを行っています。一方、症状である痛みを取るだけでなく、的確な診断をして痛みの本質を見据えることも重要です。当科では神経ブロックの対象にならない痛みの疾患にも適切な治療を行い、新薬の開発の治験に積極的に参加するなど、あらゆる視点から最新の慢性痛治療を心がけています」

 これが前田医師率いるペインクリニックの基本理念「痛みの総合診療」だ。痛みを総合的に診断・診療して、体に優しい保存療法・理学療法を優先し、症状に応じて神経ブロックや手術を選択しているのだ。現在、スタッフの医師5人が日本麻酔科学会認定麻酔科専門医、日本ペインクリニック学会認定ペインクリニック専門医、日本東洋医学会認定漢方専門医などの資格を有して治療にあたっている。

腰痛の原因として仙腸関節障害に注目

 同科を訪れる患者の内訳は、▽腰や足の痛み▽神経が障害される痛み▽頭痛、がん性疼痛などが多くを占め、あらゆる痛みを対象にしている。特徴的なのは、慢性腰痛としての仙腸関節障害への取り組みだ。仙腸関節は骨盤にある人体で一番大きな関節で、ビルの免震構造のように全身のバランスをとる重要な働きをしている。この関節に障害が生じると腰痛が発生する。

 「現在の医学では3カ月以上続く慢性の腰痛のうち、骨折など原因が判るのが15%で、残りの85%は原因が判っていません。しかし、判らないままでは医学も進歩しないので、腰痛の一因として仙腸関節に注目し治療に取り組んでいます。それが2010年に発足した日本仙腸関節研究会です」

 同院は関西で唯一の日本仙腸関節研究会幹事施設として治療を行ってきた。仙腸関節障害も他の腰痛と同じようにMRIやX線の画像での診断は難しく、患者自身が痛む部位を指し示すワンフィンガー法や、仙腸関節を動かして痛みを誘発するテストなどで診断する。治療は、痛み止めの薬物療法、骨盤ベルトなどの理学療法に、仙腸関節や周囲の靭帯への神経ブロックを併用する。

 「腰痛の原因を探るためには丁寧な診療が必要です。当科に来られる患者さんからは、ここまで時間をかけて診てもらったことがないという声をよく伺います。仙腸関節障害も問診や触診を尽くして診ないと判りません。丁寧に時間をかける診療は当科の特長です」

 また、同科で実施してきた新薬の治験についても、「私たちが参加した国際治験で、神経成長因子を阻害する新薬が慢性腰痛に効果があることが判ってきました。近い将来、仙腸関節障害だけでなく、幅広く腰痛治療に適応できるのではと考えています」と語る。

片頭痛新薬の治験に協力群発頭痛に高濃度酸素療法

 さらに同院では片頭痛や群発頭痛など難治性の慢性頭痛にも注力している。妊娠可能年齢の若い女性に多い片頭痛は、ズキンズキンと脈打つような痛みが特徴で、嘔吐したり寝込んだりして生活に支障がでる。その片頭痛のメカニズムに、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という神経伝達物質の脳内での関与が判明してきた。

 日常生活では普通に反応しているCGRPが、片頭痛時には、光、音、臭いなどの刺激に異常に反応し頭痛を引き起こす。この働きを抑えれば片頭痛は起こらなくなるという視点で新薬が開発中で、同院では複数の治験を実施している。「治験では確かな手応えを感じているのでとても期待しています」

 また、同院は群発頭痛に対する新治療である在宅酸素療法も、全国的に先駆けて実施している。片側の眼の奥に痛みを感じるのが群発頭痛で、男性に多く、片頭痛よりも強い痛みがあり全く就労できないことが多い。この群発頭痛には薬以外に酸素吸入が有用だ。

 「以前は、酸素ボンベの制約から医療機関でしかできませんでしたが、18年4月に酸素濃縮装置を使う在宅酸素療法が保険で認められました。副作用も全くなく、いつ頭痛がおきても制限なく行える非常に優れた治療法です。当科では積極的に導入し、受診当日にも開始できる体制を取っています」

痛みに悩む患者と手を携えて取り組む

 「痛みは、感覚と人の心が組み合わさった体験です。現在の医学は、けが、手術後の痛み、がんの痛みなど、感覚が主体の急性痛は、完全な除痛が期待できるところまで来ました。しかし、神経が障害される痛みや、人の心の関与の大きい慢性痛は、脳や神経の研究が進んではいるものの治療、痛みを完全に除去することは困難です」と語る前田医師。

 そのうえで「慢性痛の治療には、患者さん自身が前向きになって、痛みに対する考え方や気の持ち方、運動など理学療法(リハビリ)、生活習慣改善に自ら取り組むことが大切です。薬を出される、注射をされる、手術を受けるといった『される医療』だけでなく、自らが積極的な姿勢で臨む『する医療』が加われば、治療の難しい慢性痛にもさらなる効果が期待できます。医師と患者さんと手を携えて難しい慢性痛の治療という道のりを歩いていくのが私たちの姿勢です」

 実際、同院では医師、看護師、理学療法士らと多職種でチーム医療を心がけているという。

 前田医師たちペインクリニックの医師は、待合室で診察を待っている外来患者を、医師自ら迎えにいく。少しでも患者の痛みが軽減されることを目指し、治療に挑む気持ちがその姿勢に現れている。

院長補佐
ペインクリニック内科
外科主任部長
麻酔科主任部長
疼痛・緩和センター長

前田 倫

まえだ・りん●1986年、京都府立医科大学卒。日本麻酔科学会認定麻酔科専門医、日本ペインクリニック学会認定ペインクリニック専門医。日本頭痛学会代議員。医学博士。

医療新聞社
編集部記者の目

 「痛みのプロ」前田倫院長補佐は取材中、何度も自ら率いるペインクリニックの治療方針を「痛みの総合診療」と説明していた。患者の訴える痛みをただ取り去るだけでなく、もっと掘り下げ、それがどこからくるのかをあらゆる角度から考える姿勢を貫く。しかし、痛みの原因は多くが特定できないのが実情だ。それでも治療に対して前向きな姿勢を崩さず、新しい薬剤・診断法があれば積極的に取り入れる。それは患者に笑顔を取り戻してもらいたいいというシンプルな気持ちからなのだろう。前田医師の語る言葉は常に力強く、頼もしかった。

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