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西宮市立中央病院

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仙腸関節障害 による
痛み軽減に総合診療で取り組む

慢性腰痛の原因の一つが仙腸関節障害

 痛みは、概ね何らかの原疾患を基に発生するが、原因不明のために悩んでいる人も多い。現在では、痛みそのものが「病気」として捉えられる症例があることも分かっており、それらを含めて痛みを専門に治療するのがペインクリニックだ。薬物療法や理学療法、神経ブロック療法などを駆使して、痛みを治療している。

 関西でいち早くペインクリニックを立ち上げ、30年にわたり痛み治療に積極的に取り組んできたのが、兵庫県西宮市の西宮市立中央病院である。「痛みの総合診療」を掲げている同院には、腰下肢痛や神経痛、頭痛などさまざまな痛みを訴える患者が訪れるが、中でも慢性的な腰痛の治療に力を入れてきた。 

 「慢性腰痛は3カ月以上続く腰痛のことです。原因がはっきりと分かるのは全症例の15%程度。骨や組織、神経などの痛みが組み合わさった症例が非常に多いために、腰痛の原因を特定することは現在の医学でもとても難しいのが現状です。そこで原因の一つとして私たちが注目したのが仙腸関節障害です」と話すのは痛み治療のスペシャリスト、前田倫医師。

 仙腸関節は骨盤を構成する仙骨と左右の腸骨の間にあり、体の中で一番大きな関節だ。一方で肩や膝、股関節に比べて可動域が狭くわずか数㍉という。だが、その働きは重要で、例えば、段差のある場所から飛び降りたときの衝撃が、体全体に伝わらないように緩衝的な役割を果たしている。その関節や関節を固定している靭帯、筋肉が障害されると腰痛が発生する。それが仙腸関節障害だ。

 前田医師は「仙腸関節障害の痛みは主に臀部や鼠径部、下肢などに出ますが、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの疾患でも似たような痛みがあるので判断が難しく、X線やMRIの画像でも診断がつきにくい特徴があります」と指摘する。

 そのため診断にあたっては、患者自身に痛む場所を指で指示してもらうワンフィンガーテストのほか、仙腸関節やその周囲を意図的に動かすことで痛みの場所を特定する誘発テストを行う。合わせて、仙腸関節に局所麻酔を投与し一時的にでも痛みが取れれば、仙腸関節障害が疑われるという。

薬物、神経ブロック療法を使い分ける

 治療では、当初は薬物療法を行い、非ステロイド性の鎮痛薬を始め、アセトアミノフェンやアセトアミノフェンと軽いオピオイドの合剤であるトラマドールなどを用いる。

 「安静は慢性腰痛には効果がないことは証明されており、薬剤などで痛みをとって運動療法で患部周囲の筋肉などの動きを回復したほうが良いのです」と話す前田医師。

 一方、理学療法として、骨盤ベルトを装着し仙腸関節の細かな動きを抑えて、経過を見る治療もある。

 これらの治療と並行して、仙腸関節に局所麻酔薬を注射する神経ブロック療法を行う。さらに、強い痛みで日常生活に支障を来たす場合には、仙腸関節の微小な動きを止める固定術が行われる。

  • 放射線透視下で神経ブロックを行う装置
  • 施術室

患者の痛みにしっかりと向き合う治療

 同院ではこのような腰痛のほかにも、片頭痛や群発頭痛などの難治性の頭痛にも、前田医師を始め豊富なキャリアを持つ医師たちが対応している。前田医師が治療で心掛けているのは、問診などを通じて、患者の痛みにしっかりと向き合うことだという。新たな治療法を模索すべく、新薬の治験に参加するなど痛みの軽減に向けてのさまざまな取り組みに意欲的だ。

 「神経ブロック療法ありきではなく、痛みを総合的に判断して患者さんの体に優しい治療法を優先して行うのが当院の方針です」

 ペインクリニックで主に扱う慢性痛は、患者の感覚や精神面に加え、生活環境やストレスなども絡み合い、治療が難しいケースが多い。

 前田医師は「私たちは患者さんからの痛みを治したいという前向きな気持ちに手を添えて、これからも一人ひとりに合わせた痛みの治療を行っていきたいと考えています」と力強く語っている。

院長補佐
ペインクリニック内科・外科主任部長

麻酔科主任部長
疼痛・緩和センター長

前田 倫

(まえだ・りん)
1986年、京都府立医科大学卒業
日本頭痛学会代議員
日本ペインクリニック学会認定 ペインクリニック専門医
大阪大学医学部麻酔科学教室臨床教授
兵庫医科大学麻酔科学教室臨床教授

医療新聞社
編集部記者の目

 まだ痛み専門の治療が一般に認識されていなかったころから診療にあたってきた西宮市立中央病院。今や関西を代表する痛みの診療拠点である。前田倫医師が話す通り、痛みの感じ方は主観的で人それぞれで違うため、その原因を突き止めるのは容易ではない。それを前田医師たちは経験と実績に基づき、丹念に掘り起こしていく。前田医師が唱える「痛みの総合診療」とは、固定観念に捕らわれず、ありとあらゆる治療法を総動員して、痛みを緩和・解消していくことを指す。どんな痛みであろうと、大なり小なり生活の質(QOL)を阻害する。これからも前田医師たちは患者が少しでも楽になる方法を模索し続けることだろう。

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