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済生会横浜市南部病院

オーダーメード治療でリンパ浮腫を美しく治す!

診断法と治療法と医療制度はここ数年で格段に改良されています

 2000年以前は、保険診療内で出来ることは極めて限られていて、リンパ浮腫と判明した途端に、「リンパ浮腫に対して病院で出来る治療は無い」と突き放したり、「癌で死ななかっただけ幸せと思って、リンパ浮腫は諦めなさい」と説得したりするのが、医師の平均的な対応でした。患者は、民間療法の噂を頼りにさまよう医療難民になる場合も少なくなかったようです。しかし、近年の診断法と治療法の進歩は目覚ましく、治療効果が増し、日々の患者負担が減っています。日本の医療制度も、まだ不十分な面も残っていますが、リンパ浮腫患者を見捨てない方向に変わっています。諦めきれない思いを抱いている患者さんは、かかりつけ医や、お近くの病院の形成外科にお問い合わせ下さい。

治療の前に、確かな診断と重症度評価が重要です

 リンパ浮腫患者の過半数は、乳癌や子宮癌など婦人科癌の術後で、問診と視触診で診断できます。しかし、癌を患っていなくてもリンパ浮腫になる場合、特に下肢では浮腫の原因疾患が他にも潜んでいる場合などもあるので、全身検索が必要です。

 治療方針を決めるために、リンパ系組織の機能がどれぐらい損なわれているか、残っているかを見極め、重症度を評価することが大切です。特に、リンパ機能をざっくり把握するリンパシンチグラフィ、流れのあるリンパ管を詳細に可視化するICG蛍光造影、流れがよどんだリンパ管を探知する高周波超音波、の3つが治療前検査として重要です。

患者さん自身による発症予防、悪化防止が重要です

 リンパ浮腫が悪化する原因の中で、最も多いのが細菌感染(蜂窩織炎)です。患肢のケガや虫刺され、水虫などが原因となる場合も少なくありません。日々のスキンケアで防御力を高め、感染徴候の早期発見を心がけましょう。

 忘れてはならない悪化の原因は、肥満です。皮下脂肪が増えることでリンパ管周囲の圧力が上昇して流れを妨げるというメカニズムが考えられます。原因は解明されておらず、個人差もありますが、リンパ浮腫を患った腕や脚は皮下脂肪が貯まりやすくなるので、普通以上に体重管理に注意を払う必要があります。治療に費やす、時間とお金、精神力を節約するためにも、自制心を鍛えましょう。

治療の基本は弾性着衣による圧迫療法で、次に手術療法です

 正常なリンパ管には自力でリンパ液を輸送するためのポンプ力が備わっています。しかし、リンパ管損傷が進む過程で、まずはポンプ力が損なわれて流れの乏しいリンパ液で満たされる管になり、進行するとリンパ管の壁が硬化し、内腔が狭窄します。一般に認知されている圧迫療法は、狭窄が少ないリンパ管のポンプ力を補ってリンパ流を起こすことが目標なので、弱い圧力で行われ、ほぼ無侵襲なので第1選択の治療法と言えますが、軽症の患者さん向けの方法です。中等~重症の患者さんでは、リンパ管の狭窄が進行し、リンパ管内圧が上昇しており、弱い圧力では流れが起きなくなっています。強い圧力をかけて、皮膚内のリンパ管に逆流したリンパ液やリンパ管外に漏れたリンパ液に強引に流れを起こす圧迫療法が必要になります。

 患者毎に個人差のある体形にフィットし、最大限に効果を得つつ、トラブルを最小限にするには、オーダーメードの弾性着衣が必要になってきます。残念なことに、その様に攻めた寸法設計に慣れたリンパ療法士は多くありません。また、日本の保険医療制度ではリンパ浮腫の圧迫療法に対する報酬は極めて低く、基幹病院の中に開設されたリンパ浮腫外来では、重症者に十分なケアが出来ない場合が多いのが実情です。当科では、質の高い診療を提供するには、自費診療で高度なサービスを提供している院外のリンパ療法士とチーム医療が必須と考えています。

 また、その様なキツい圧迫を日々長時間行うのは、身体的にも精神的にも苦痛を伴いますので、圧迫療法だけで治療するのは限界があり、手術療法の併用を検討すべきです。

手術療法の基本は、リンパ管細静脈吻合(LVA)です

 リンパ管内の流れが渋滞して内圧が高くなった状態に対して、人為的に静脈への逃げ道を作って渋滞を解消し、水分を減らすための手術で、1回の手術で1肢に2~4ヶ所行うのが通常です。1ヵ所につき皮膚切開が2㎝ほどと低侵襲なので、ほとんどの場合で局所麻酔下に実施できるのが特長です。

 乳癌術後の上肢リンパ浮腫の軽~中等症の症例には、1~2回のLVAによって圧迫療法も不要になって完治と言える結果が出る場合もあります。しかし、その他の場合は、適切な弾性着衣が作り出すポンプ力との相乗効果が必要です。

 LVAと同じように、溜まった水分を減らすために編み出された手術法はいくつか有りますが、いずれも比較的侵襲が大きく、即効性が乏しく、失敗した場合の被害が大きい、という欠点が目立ちます。LVAは、低侵襲で、トラブルが極めて少なく、しかも即効性があります。ほとんどの患者さんにとって「お試しに1度は受けてみても損は無い手術」とも言えます。

 LVAの欠点は、効果にバラツキが大きいことで、過去には何回も手術を繰り返してわずかな効果しか得られない場合も少なくなく、近年まで懐疑的な意見も根強くありました。最近は効果的なLVAを行うためのコツが色々と分かってきており、状況は改善されつつあります。麻酔をかける前に、ICG蛍光造影と高周波超音波を併用して、しっかり時間をかけてリンパ管と細静脈の両方の状況を確認することが重要です。

 当科では、連携施設での数も含めると、年間約150件、1件平均約3.0吻合のLVAを行っており、2021年11月現在までの累計で約2000吻合実施しています。

当科ではLVAの質の向上のために、OCT付顕微鏡を世界初導入しました















 当科では、2018年7月に眼科で主に網膜の観察に用いられているOCT(光干渉断層計)が、LVAの手術中にリンパ管や細静脈の内部構造を観察するのに有用であることを発見しました。そして、「LVAの効果にバラツキが大きい」という問題点の対策として、2019年4月から世界初となる臨床活用を行っています。それ以前は、リンパ管が半透明なので、ボヤっと見える内腔を想像しながら操作していましたが、OCTによってリンパ管の詳細な断面像を見ながら、より適したリンパ管を選び、せっかく残っている機能的な弁を壊さないように、障害となる構造を避けるように吻合操作を行うことができるようになり、1つのLVAの効果が向上すると期待できます。無侵襲でリアルタイムに確認できるので、手術時間が数分延長する他にはデメリットはありません。

当科の手術の特色は、LVAと脂肪吸引の併用(LVA+LS)です


 リンパ浮腫は、発症直後は水分の増加のみですが、徐々に脂肪分が増加することが知られています。なるべく元の体形、左右対称な体系を取り戻すためには、その両方を減らす対策を講じる必要があるのは当然です。しかし、様々な事情によって、日本国内では脂肪分を減らす手術である脂肪吸引(LS)は「危険であり禁忌」とされ、学会で成果を発表することさえ躊躇わざるを得ない状況でした。

 当科では、2014年からLVA+LSの開発に取り組み、2021年11月現在で約230例の約330肢に実施してきました。その結果は、過去のLS単独の手術法についての論文によって広まっている先入観を覆すものでした。詳細は、全日本病院出版会の雑誌PEPARSの164号に掲載された文献を参照ください。美容外科での脂肪吸引ではあまり考慮されないリンパ管の損傷をなるべく避けるために、麻酔の前にしっかり時間をかけてオーダーメードの術式設計することで、リンパ浮腫を悪化させずに脂肪分を減らすことが可能になっています。

治療の目標設定は、患者さんのオーダーメードです

 医学の進歩によって、重症の患者さんでも、弾性着衣を脱いだ直後には左右差がほとんど無い状態や、弾性着衣の圧迫力や装着時間を減らしてもあまり浮腫まない状態にすることが出来るようになっています。しかし、そのような状態に至るまでには、複数回の痛みを伴う手術療法や、手術後しばらくは相当キツい圧迫療法が必要で、患者さんが自宅で行わなければいけない日々のケアは容易ではありません。リンパ浮腫は、ほとんどの患者さんにとっては生命を脅かす疾患ではありません。なので、「どこまで治療するか」は患者さんの価値観によって様々です。当科では、様々な患者さんの様々な目標設定に合わせたオーダーメード治療を心掛けています。自分の理想を求めて患者さんが努力し続ける限り、我々も共に頑張ります。

形成外科 主任部長

長西 裕樹

横浜市大2001年卒
日本専門医機構認定
形成外科専門医など

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