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医療法人社団 嬉泉会

春日部嬉泉病院

患者に寄り添った人工透析治療を実践

人工透析に特化し、日々多くの腎疾患の患者の治療にあたる春日部嬉泉病院。病院全体がひとつのチームとなり、一丸となって人工透析に臨んでいる。同院の医療従事者たちから話を伺った。

多方面から腎臓病治療と予防に取り組む

 国民的アニメに出てくる埼玉県の春日部駅西口交番近くに春日部嬉泉病院はある。内科に特化した医療を中心とした急性期病院で、多職種チーム医療を実践。昭和の透析黎明期より特に腎疾患と人工透析治療・透析予防、合併症治療まで積極的に取り組んできた。

 現在は病院500名以上※1、嬉泉会全体では約1000名※2の透析患者を治療。腹膜透析にも力を入れる。透析予防の糖尿病と腎臓病の教室はコロナ禍のためオンラインで行っている。若手医師の研修にも取り組み、透析患者にとって命を繋ぐともいわれている内シャントの手術・PTAを大切に教えている。災害時には春日部市と透析患者を救うべく提携も交わしている。

 居宅介護支援事業所も併設し、丸山寿晴病院長自ら主任ケアマネージャーを務める。1992年の勤務開始時より「しっかりと食事をすることが大事」と病態栄養部と協力して患者を指導。塩分管理により透析を回避できた患者も多い。透析を導入する場合も患者のライフワークを大切にし、退院後の楽しみを考えた導入ができるよう看護チームとともにサポートする。

 「医療従事者は人間としては同格で、お互いが思いやりを持ち、ほっこりとした温かみのある医療を患者さんに提供していきたい」と丸山病院長は力を込めた。

病院全体が密に連携して看護の質を高める

 同院では情報共有を重視する。全診療科の医師と、看護師や臨床工学技士などの多職種による毎朝の医局カンファレンスをはじめ、病院全体から部署ごとまで、さまざまな規模で実施している。

 情報共有を日頃からしっかり行うことで、入院患者の夜間の様子や当日の透析の予定などを確認するほか、救急での緊急透析患者を受け入れる際に必要となる空床の数も把握している。

 「腎臓は人間の体の中でも不調が出やすい臓器です。その状態を把握することで、患者さんの全身状態を理解した看護が行えます。腎臓疾患の患者さんから看護師は多くのことを学び、成長できます」と栢原恵美看護部長は語る。

 感染拡大の影響で院外研修に参加しにくいためeラーニングを取り入れ、職員全体がスキルアップできるように計画。また次世代看護師の育成として、感染対策をしながら看護学生の実習も継続して受け入れる。

 「新型コロナウイルス感染症と対峙して、2年が過ぎようとしています。患者さんもスタッフも我慢をすることが多くなりました。だからこそスタッフが協力しあって、患者さんの不利益にならないように職員全員で助け合い患者さんを支えたい。今こそチーム医療の底力を見せるときだと思います」と栢原看護部長。

長きにわたって患者の生活に向き合う

 通院での透析は午前(9時~)と午後(13時~)に分かれている。また月・水・金曜日は夜間透析(18時~22時)にも対応する。週3回透析に通う患者たちは、ライフスタイルに合わせて通院時間を選択できる。

 透析室は2フロアに分かれている。毎朝看護師、臨床工学技士、介護士など30名程度が集まってカンファレンスを行い、情報共有を徹底している。

 「一番長い患者さんでは45年間、人工透析を継続して行っています。みなさん長く通院をされるので、スタッフも何年間も寄り添って共に歩みながら、看護を実践しています」と長瀬ひろみ透析看護師長は話す。透析中に声掛けをするなど、患者の心身の状態に目を配って看護にあたる。

 日々の透析以外の場でも患者や、その家族との交流を重視してきた。毎年秋に「きせん祭」を開催※3し、レクリエーションやバザーなどの催しでスタッフと患者や家族が共に有意義な時間を過ごしている。

  • 透析室で働く看護師と臨床工学技士たち

感染症対策も意識し入院患者の看護を実践

 入院病床は60床。入院患者にも腎臓を患う人は多く、約7割が腎疾患の保存期や人工透析が必要な患者だ。看護師と看護助手を合わせて50名で病棟看護にあたる。

 「新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちの看護に対する流儀も大きく変わりました」と嶋村仁美病棟看護師長は話す。従来の入院患者への内科的な看護に加え、感染症を意識した看護も実施。病棟看護師の中で感染症対策のチームを構成し、勉強会を行って知識をつけ、対応にあたっている。

 新型コロナウイルス感染症の感染の疑いがある患者には、透析室ではなく病室で人工透析を実施。家族との面会も、感染状況に応じて対面からオンラインに切り替えている。

 「毎日昼に医療ソーシャルワーカー(MSW)・管理栄養士・理学療法士(PT)・退院支援看護師などを交えて病棟カンファレンスを行い、入院患者さんのそれまでの人生の歩みを気にかけ、退院後の生活も見据えた看護を意識しています」と嶋村病棟看護師長。

  • 病棟を担当する看護師たち

透析装置を管理し適切な透析を提供

 本院と分院を合わせて131台ある透析装置の管理をしているのが臨床工学技士だ。22名が在籍しており、同院では透析の際の穿刺も担当している。

 「装置の不具合で透析が行えない事態を避けるために、メンテナンスを徹底しています」と矢吹寛美臨床工学科長は話す。2021年4月に透析装置を最新型に交換し、患者への負担の軽減が期待できるオンラインHDFに全装置が対応可能となった。

 透析で重要となるのは、患者の血液から老廃物を除去するために使われる透析水だ。1回で100㍑以上の量を使用する透析水が無菌状態となるように、水質管理にも気を配っている。

 透析中には装置の管理はもちろんのこと、透析後の目標体重であるドライウェイトが適切になることと、無愁訴の透析の実施を目指している。そのために、除水に伴う血管内容量の変化をクリットサインモニターで確認したり、透析中の患者の状態をしっかり見たりするように心がけている。

 若手に対する指導にも力を入れている。「透析装置の扱いや患者さんの管理に関しては、学生時代ではなく、現場で働くようになってから学ぶ部分が多くなります。だからこそ、若手の研修は重要だと考えています」と矢吹臨床工学科長。

プライベート透析を行う分院も

 春日部駅から徒歩1分の場所には、分院である附属クリニックも開設。500名以上の通院透析患者のうち、220名※4がクリニックに通っている。

 クリニックでの透析は午前(9時~)と午後(14時~)の二部構成となっている。透析室は4フロアに分かれており、それぞれ春夏秋冬をイメージした異なる内装になっている。透析室はWi-Fi環境の整った半個室であるため、プライベート透析を受けることができる。

 「各フロアを受け持つ看護師と臨床工学技士が決まっているため、担当する患者さんのことを深く知って向き合うプライマリー看護に携わることができます。患者さんに頼っていただけて、やりがいも大きいです」と語るのは有馬光子クリニック看護師長だ。

 クリニックの患者の病状についても、本院で行われるカンファレンスで情報共有を行っている。それによって本院での治療が必要となった患者に対しても迅速に対応が可能となっている。

  • クリニックの透析室

在宅での腹膜透析という選択肢

 腹膜透析にも対応している。腹膜透析とは医療機関ではなく、在宅で透析を行うもの。腹部に透析液を一定時間入れることで、腹膜を介して血液中の過剰な水分や老廃物などが透析液の中に移動し、血液が浄化される。

 腹膜透析には1日3~4回透析液バッグの交換を行うCAPD(連続携行式腹膜透析)と、夜間の睡眠中に自動で透析液交換を行うAPD(自動腹膜透析)の2つの方式があり、同院は両方に対応する。

 「患者さんからご相談があったときに、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの選択肢について説明しています」と腹膜透析の窓口も担当している白石美千代病棟看護副師長。

 積極的に研修などを行うことで、患者・スタッフ教育に努めている。

 「腹膜透析では患者さん自身がカテーテルの管理や透析を行わなければならないため、導入に不安を示されることもあります。ですが現在、当院で実施されている方は全員『腹膜透析を選んでよかった』とおっしゃっています」と白石病棟看護副師長は話す。

 多職種と連携して患者に合わせた、さまざまな透析の選択肢を提示している。

※1 2022年1月、※2 2022年1月、※3 現在は休止中、※4 2022年1月

取材・文/高橋美森

  • 練習風景(実際はマスクを着用)

理事長・病院長

丸山 寿晴

看護部長

栢原 恵美

透析看護師長

長瀬 ひろみ

病棟看護師長

嶋村 仁美

臨床工学科長

矢吹 寛美

クリニック看護師長

有馬 光子

病棟看護副師長

白石 美千代

医療新聞社
編集部記者の目

人工透析に特化して力を発揮している春日部嬉泉病院。人工透析は患者の生活に必要不可欠であるため、長年通院する患者も多く、患者と医療従事者の関わりも自然と深くなっていく。同院ではコロナ禍以前は、きせん祭を開催するなど、さまざまな形で患者との交流を大切にして歩みを進めてきた。医師、看護師、臨床工学技士、合わせて7名への取材も和やかな雰囲気で進み、病院全体の雰囲気のよさをうかがわせた。

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