１年３６５日いつでも患者のケアに向かう

　大阪府八尾市において在宅緩和ケアと在宅看取りで、地域医療に大きく貢献しているのが、２０１０年開院のしろばとクリニックだ。がん、老衰、臓器不全など終末期で医療依存度が高い高齢者を中心に在宅医療を行っている。

「勤務医のころ、ある肺がんの患者さんを診ていたのですが、通院が困難になって自宅へ伺っていました。そして余命を聞かれて正直に私の見立てを答えたところ、残された時間で家族一人ひとりにメッセージを残されたそうです。そのことで、亡くなった後に遺族からお礼の言葉をもらいました。これが看取りに取り組もうと思ったきっかけです」と栗岡宏彰院長は語る。

　栗岡院長が患者に接するときにいつも心掛けていることが３つある。１つ目は開院当初から、１年３６５日昼夜を問わず連絡がくれば、どんな些細な事であっても患者宅を訪問してきたことだ。こういう姿勢を見せることで、患者や、その家族から信頼を寄せられるようになり、地域における存在感も高まっていった。

　２つ目は訪問診療では患者のケアプランを策定する上で初回が特に大事で、患者が抱えている悩みや問題について詳細な聞き取りを行っていることだ。

苦痛の緩和だけでなく患者の心に寄り添う

　３つ目は、そのときの患者の精神状態を感じ取り、相手のテンションに合わせることだ。これによって、患者の気持ちがほぐれてスムーズにコミュニケーションがとれるようになる。

　病院に入院すれば優れた治療が施されるが、行動に制限を受ける。在宅医療は介護が必要だが、行動は基本的に自由である。患者宅は病院とは違って、いわば患者の世界であるから、その空気を壊さないよう細心の注意を払いながら、患者の心に寄り添って苦痛を和らげることが大事なこととなる。

　同院では、患者から余命を聞かれれば、正直に見解を伝えている。

「余命を聞いた患者さんには、自分の最期の姿というものを、出来るだけ早い段階でイメージしてほしいですね。自分がどのように逝きたいかを考える。ギリギリまで延命措置を行う方法もありますが、治療を中止して緩和ケアのみにして自宅で最期を迎えるというのも選択肢の一つです。いずれにしても、自分の最期がイメージできれば、それまでに何をすべきか、何をしておきたいのかが見えてくると思います」と栗岡院長は穏やかに語る。

　このような細やかな対応により、同院では年間１２０人※もの看取り実績を上げている。

• しろばとクリニックの在宅医療を支えるスタッフ

よりよい在宅医療のために地域の連携が必要

　今後さらなる在宅医療の向上には、地域連携の強化が必要不可欠であり、栗岡院長はすでにそのための取り組みも行っている。

「在宅診療の患者さんの生活を支えているのは、ケアマネジャーやホームヘルパーといった介護関係者です。こういった方々と常に情報共有しておくことが、安定した医療の提供につながります。そこで、介護者や訪問看護師などの医療従事者が集まる交流会を開催し、情報交換や横のつながりの構築を促しています。また医療従事者はもちろん介護者の知識・技術向上も重要なファクターです。そのため勉強会や講演会などを随時開催し、全体のレベルアップを図っています」と力を込める。

　超高齢化社会に向かう日本において、緩和ケアと看取りを含めた在宅医療は今後さらに重要視されることは間違いない。そのような状況下でしろばとクリニックの取り組みは、在宅医療の好事例として注目を集めている。