医学会からの提言2024
日本リウマチ学会

 

リウマチ学のその先へ…
日本リウマチ学会


 


田中 良哉 
一般社団法人日本リウマチ学会 理事長
産業医科大学医学部第1内科学講座 教授

 

「国際化」を実感。笑顔と活気の日本リウマチ学会総会・学術集会

 
――2023年4月、田中先生が会長を務められ、福岡国際会議場・福岡サンパレス・福岡国際センターで行われた第67回日本リウマチ学会総会・学術集会は大成功でしたね。
 
田中 「至誠通天~その先へ…~」と題し、久しぶりに現地対面方式で実施しました(教育研修講演のみオンデマンド配信)。「至誠通天」は吉田松陰先生の言葉で、「誠をつらぬけば天に通じる」、つまり何事も心を込めて誠実に努力すれば必ず願いは叶う、といった意味かと思います。
 
入場者数は約6500人に達し、海外からも350人、参加しました。大盛況で、ひとことでいえば笑顔と活気にあふれた総会・学術総会でした。
 
シンポジウムは24セッションあり、そのうち8セッションは国際シンポジウムで、英語で進めました。演題も約1800題ありましたが、23%が英語。2019年、英語は20%でしたから、着実に国際化が進んでいます。
 

 

 

海外のトップクラスの先生方がボランティアで小さなセッションの座長を

 
――田中先生は理事長に就任される前、日本リウマチ学会国際委員長として国際化の旗振り役を務められましたね。
 
田中 今回の特徴のひとつは海外のトップクラスの先生に小さなセッションの座長をしていただいたことです。しかも全員がボランティアです。
 
私がメールでお願いしたら、皆さん、快く引き受けてくださった。世界のトップリーダーの前で、緊張しながら若い先生方が講演したり、質問したり。いい経験になったと思います。
 
海外の先生方も大変に喜んでくださいました。先生方もコロナ後、こうしたフェース・トゥー・フェースの学術イベントは初めてで、日本で情報交換ができたことが、うれしかったようです。国際化を体現した、有意義なセッションになりました。
 
日本リウマチ学会の役員による「Meet the Expert」も大好評を博しました。日本リウマチ学会の19人の理事・監事は全員がリウマチのエキスパートです。この方々に小さな部屋で講演・質疑応答をしていただいた。すべて超満員になりました。
 
 もうひとつ、コロナの5類移行前だったので、全体懇親会ができませんでした。そこで、夕方、参加者に福岡の銘酒「田中六五」を「各人で、どうぞ」と配りました。日本酒が苦手な方もいますので、焼酎、ジュースなども用意しました。これも大好評でした(笑)。
 

 

関節リウマチは免疫の異常で生じることが分かってきた

 
――大学卒業後の簡単なご略歴を教えて下さい。
 
田中 産業医科大学卒業後、大学院へ進学。東京大学医学部第一内科から来られた鈴木秀郎教授(後に産業医科大学副学長)に「これからは臓器別の時代になるかもしれないが、むしろ全身を、しっかり勉強できる領域を選んだほうがいい」といわれ、内科(膠原(こうげん)病・リウマチ)を専攻することにしました。
 
大学院を修了し、米国のNIH(国立衛生研究所)に留学。世界中から留学生が来ており、たくさんの友人をつくりました。その時の絆が今でも生きています。帰国し、産業医科大学の助手、講師などを経て、2000年、教授となりました。
2005年、日本リウマチ学会理事に就きました。理事は1期2年で、連続3期までしかできませんから、何回かお休みしていますが、理事が長かったこともあり、経験を買われ、2023年4月に今回の総会・学術集会で任命され、理事長に就任しました。
 
――現在の関節リウマチ治療について教えて下さい。
 
田中 関節リウマチの治療は、かつてはステロイドホルモンと消炎鎮痛剤が中心でした。ある程度痛みは取れますが、リウマチという疾患の特徴は関節が壊れることです。ステロイドや消炎鎮痛剤を使っても関節が壊れるのは抑制できませんでした。
 
 その後、関節リウマチは免疫の異常で生じることが分かってきました。病気を制御するためには免疫の異常を抑制しなくてはいけませんから、免疫抑制薬が使われるようになりました。その代表がメトトレキサートです。
 
 現在、免疫抑制薬をリウマチに使った場合、抗リウマチ薬、正確には疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)と呼びます。抗リウマチ薬はメトトレキサートに代表される内服可能な抗リウマチ薬と、生物学的製剤などのバイオ抗リウマチ薬の大きく2つに分かれます。
 
これらを上手に使うことで免疫系の異常を抑制して疾患を制御することができます。大半の患者が寛解に入ることが可能になりました。寛解に入れば、関節は壊れません。機能障害も進行しない。普通に生活することができます。
 
関節リウマチはリンパ球の病気です。リンパ球は関節だけではなく、全身に流れていきますから、唾液腺、涙腺、肺など、さまざまな臓器で病気が起こります。ですから、ヨーロッパでは「関節リウマチ」の「関節」という言葉を取り、単なる「リウマチ」にすべきだと主張している方もいます。
 
関節リウマチの治療標的は明らかになりました。例えばサイトカインであったり、リンパ球であったり。その治療標的をピンポイントで制御する。その武器が生物学的製剤やJAK阻害薬などの分子標的薬です。だから治療がうまくいくようになった。関節が壊れる前に治療を始めれば、関節は全く壊れません。
 
 ただ、生物学的製剤やJAK阻害剤には副作用の問題があり、全身をしっかり管理しながら使用する必要があります。全身を診ることになると内科の出番です。全身を診たうえで、最先端の治療をピンポイントで行い、難病を制御していく。
 
患者の皆さんには希望を持っていただきたいし、若手医師にはリウマチ治療の醍醐味・魅力を知って、ぜひ、この分野に進んでいただきたいと考えています。
 

日本中の医科大学・医学部カリキュラムに膠原病リウマチ学の設置を

 
――現在、学会として特に力を入れてらっしゃることは何でしょうか。
 
田中 大きな課題が3つあります。1つ目は、いかに若い人を取り込むかということがあります。これは専門性も含めてです。2つ目はアカデミアとしての活動をどうするか、3つ目は国際性をいかに高めていくかということです。
 
現在、日本リウマチ学会の会員数は約9,600名。内科系5,000名、整形外科系3,800名のほか、小児科や基礎の方もいらっしゃいます。会員数は増えてはいますが、若い方を、もっと増やさなければ将来はありません。
 
 若い方は、どのようにして膠原病リウマチを選ぶか。学生時代に膠原病リウマチを学んで興味を持ち、研修医になって、さらに深く考え、専門領域として、この道を選ぶというケースが多いようです。ところが、大学によっては膠原病リウマチ学がカリキュラムに入っていません。
 
 循環器や消化器であれば、どの大学でも教えていますが、膠原病リウマチ、アレルギーは専門家が少なく、科目がないところもあります。科目がなければ、興味を持つこともないし、膠原病リウマチ医を志すこともありません。
 
ですから、学会としては日本中の医科大学・医学部に膠原病リウマチの講義を持つように働きかける必要があります。講座・診療科をつくることが非常に重要な課題で、卒前教育を何とか改善していかなければなりません。
 

どの出身診療科の医師でも申請できる「リウマチ専門医」

 
田中 ただ、そのためには、もうひとつ問題がある。それはリウマチの場合、外科医と内科医の双方が治療にあたっていることです。日本専門医機構が認定する専門医制度では「膠原病・リウマチ内科領域専門医」となっています。つまり、内科の医師のみを対象としている。
 
 当学会の会員9,600名のうち3,800名は整形外科医です。多くの患者さんは関節が痛いと最初に整形外科を受診します。日本では整形外科が、ずっとリウマチを診てきました。
 
 これをないがしろにするわけにはいきません。整形外科の人たちも満足する専門医制度が求められました。当学会では独自の専門医プログラムをつくり、リウマチ性疾患に関する十分な学識と経験を有する医師を「リウマチ専門医」と認定しています。
 
「リウマチ専門医」は、どの出身診療科(内科、整形外科、小児科など)の医師でも申請することができます。「膠原病・リウマチ内科領域専門医」と「リウマチ専門医」。当面の間、この両者を共存させたいと思っています。
 
 いずれにせよ、膠原病・リウマチ内科を教えている大学は国内に多くはありません。日本中のすべての大学で講義を置いてもらえるよう、今後も力を尽くしていきたいと考えています。
 

どのように治療すればよいか、これまで十分な指針がなかった

 
田中 2つ目の課題はアカデミアです。例えばリウマチは、どのように治療すればよいか。これまで十分な指針がありませんでした。今、厚生労働省を中心に難病の研究班を設けて、指針をつくろうとしていますが、厚生労働省はお役所であってアカデミアではありません。
 
海外、特に欧米では学会が中心になってアカデミックな事業を進めています。日本リウマチ学会も今、厚生労働省の各班と協働し、さまざまなガイドライン・治療指針・診断基準いったものをつくろうと大きくシステムを変えつつあります。
 
もちろん、委員会、理事会などで討議して、学会として、きちんとオーソライズしたうえで、日本リウマチ学会の治療ガイドラインとして出していきたいと考えています。
 

一番力を入れているのは若い人たちを中心とした国際化

 
田中 3つ目の課題は国際化です。国際化の中で私が一番力を入れているのは若い人たちを中心とした国際化です。米国リウマチ学会や欧州リウマチ学会には若い人たちのグループがあります。
 
理事長に就任して、すぐに日本でも若い人たちのグループ「J-STAR」をつくりました。 欧州や米国、アジアパシフィックの若い人たちとコミュニケーションをとりながら、情報を交換し、さまざまなプロジェクトを立ち上げてもらいたいと思っています。
 
上からのトップダウンだけではなく、若い会員からもボトムアップしながら国際化を進めていこうと方向性を打ち出しました。
 
――理事長に就任して、わずか数カ月で次々に新しい試みに挑戦される姿勢と鮮やかなリーダーシップに感銘を受けました。今後も継続的に日本リウマチ学会の動きをウオッチしてまいりたいと思います。本日は本当にありがとうございました。
 
取材・文/岡林秀明
  

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