~手や足、頭が勝手に震えませんか?~
パーキンソン病、本態性振戦の診断と治療

 
独立行政法人 国立病院機構奈良医療センター 院長
日本定位・機能神経外科学会 副理事長
 
ひらばやし・ひでひろ
平林 秀裕
 

 

 「思わず身震いする」と言いますが、「人前でふるえて字が書けない」など、意に反して勝手に体が動いてしまうことを不随意運動といいます。
 
不随意運動には、規則的なものや複雑な動きを繰り返すものなどがあり、振戦、舞踏様運動、ジストニア、アテトーゼ、バリズム、ミオクローヌス、チックなどに分類されています。
 
その原因も脳疾患や甲状腺、糖尿病、肝不全、腎不全などの全身疾患、アルコールや薬物など様々です。特に多いのは、規則的な反復を特徴とする「振戦」です。振戦は、じっとしているときに生じる「安静時振戦」、ある姿勢時に出現しやすい「姿勢時振戦」、何かの動作をした時に引きおこる「運動時振戦」、運動時振戦のうち目標に向かうとき増強する「企図振戦」に分類されます。
 
特に多いのは、姿勢時振戦である本態性振戦とパーキンソン病でみられる安静時振戦です。
 
本態性振戦は、震え以外に症状がなく、主に両手がふるえる病気で、約48万人〜468万人の患者さんがいると推定されます。命には関わりませんが、「乾杯のときにグラスが揺れて困る」などQOLの低下を訴える患者さんは、60~73%に上ります。血液検査やMRI などでは所見がなく、日常生活に支障がある場合にアロチノロールなどの薬物療法が行われます。飲酒により改善されることがありますが、アルコール中毒になるので飲酒を治療手段としてはいけません。
 
パーキンソン病は、中脳黒質の神経細胞の中にαシヌクレインが凝集したレビー小体が形成されて、細胞が変性し、線条体のドパミンが枯渇して、安静時振戦、無動・寡動、筋強剛、姿勢反射障害などの運動症状や自律神経症状、感覚症状、精神症状などの多彩な非運動症状を呈する疾患で、有病率は人口10万人当たり100~180人で、難病に指定されています。安静時振戦や振戦が手を前に上げると10 秒程度止まったあと振戦が再びでてくる(re-emergent)振戦は.パーキンソン病特有の現象です。振戦をふくむ運動症状が左右非対称であることも特徴です。診断においては、パーキンソニズムを呈する他の疾患、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、薬剤性パーキンソニズム、脳血管障害性パーキンソニズムなどとのが重要です。なおパーキンソニズムとは、1)典型的な左右差のある安静時振戦(4~6Hz)がある。もしくは2)歯車様筋固縮、動作緩慢、姿勢反射障害のうち2つ以上が存在する。場合をさします。パーキンソン病では、通常の血液検査やMRIは異常を認めませんが、MIBG心筋シンチグラフィやドパミントランスポーターシンチグラフィなどが診断に有用です。L-ドパ製剤、アゴニスト、MAOB阻害薬などの薬物療法がおこなわれますが、病状に合せて薬剤を組み合わせるので専門医による治療が大切です。
 
ところで薬物が無効な不随意運動でも、定位脳手術で劇的に治せることがあります。
 
 

図1 集束超音波装置( Exablate Neuro 4000、インサイテック社)
左:患者を寝台に固定し、ヘルメット状のトランスデューサー(超音波発生装置)を装着してMRI内で手術をする
右:約1000本の超音波ビームが神経核(視床腹側中間核)に集中され、約55~60℃で凝固される。頭とトランスデューサーの間は脱気水で満たされ、頭を絶えず冷却している。


 

 

定位脳手術は、約70年の歴史がありますが、局所麻酔下に特殊な装置を用いて、100円玉くらいの孔を頭に開け、脳内の特定の神経核(ターゲット)を1㎜以内の精度で行う手術です。ターゲットは、症状により異なり、「振戦」では視床腹側中間核が選ばれます。1990年以前は、直径約1.5㎜の高周波電極針で熱凝固をしていましたが、手術中にどこまで凝固したかモニターできないため、構語障害や麻痺などのリスクが高く、熟練の技を要し、両側手術は困難でした。また凝固手術の際にターゲットを電気刺激すると振戦が停止することが知られていましたが、技術が進歩して、小型の刺激装置が開発されると、Benabidらにょり脳の中に刺激電極を留置する脳深部刺激療法が開発されました。刺激効果や副作用を観察しながら神経核への影響を任意にコントロールできるので、両側手術も可能となり、「低侵襲な治療」として、凝固手術は終焉し、刺激手術へと変遷しました。ところが最近、頭をきらないで、ふるえを治す集束超音波療(FUS)が発明されました。(図1)
 
 

DBS 脳深部刺激 主にパーキンソン病の治療
RF  高周波凝固 主に本態性振戦、ジストニアの治療
FUS 集束超音波 主に本態性振戦

日本定位・機能神経外科学会 資料
インサイテック社      資料

 
 

FUSは、約1000本の超音波ビームを特定の神経核(ターゲット)に照射して「凝固」する装置で、照射中にターゲットの温度をモニターできるので、高周波凝固療法に比して各段に安全性が向上しています。2019年6月本態性振戦に、2020年9月パーキンソン病に保険適応となり、「手術は怖いけど、とりあえず振戦をとめたい」という患者さんには、開頭も術後のディバイス調節や管理も不要なので最良の選択肢といえます。 FUSは頭蓋骨の状態により凝固できないことや保険適応が一側にしか認められていないなどの課題もありますが、脳腫瘍、アルツハイマー病などへの応用も試みられており、今後の発展が期待される治療です。
ふるえに悩む患者さんは、300万人以上いるのに、外科的治療をうけている人は年間1500人程度です。(図2) ふるえは、治せる病気です。悩んでいる人は是非専門家にご相談ください。


 
【寄稿】
 
独立行政法人 国立病院機構奈良医療センター 院長
日本定位・機能神経外科学会 副理事長
 
ひらばやし・ひでひろ
平林 秀裕
 
 


 

 
 

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