投稿日: 2017年7月7日 13:03 | 更新:2017年7月7日13:24
■監修 横浜新都市脳神経外科病院
院長
森本 将史 医師
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脳卒中とは脳血管に生じる疾患の総称であり、脳動脈瘤などの出血性疾患と、脳梗塞などの閉塞性疾患に大別されます。それらに対する新たな治療法として開発されたのが、手や足から挿入したカテーテルを脳血管まで誘導して治療していく「脳血管内治療」です。この治療が登場する以前、脳卒中の治療は開頭からの外科手術が主流となっていました。一方で脳血管内治療は、カテーテルやそれに付随するデバイスの進歩に伴って治療成績が向上し、今では年々専門医も増え普及してきています。
脳動脈瘤の治療も、かつては開頭クリッピング術という外科手術がメインでした。そこに登場したのが、カテーテルを用いて瘤の中に金属製のコイルを詰めることで破裂を防ぐ、コイル塞栓術です。この治療は瘤が破裂し、くも膜下出血となった場合にも適しています。開頭クリッピング術と比較して脳組織に全く接触することなく、脳血管の中だけで治療が出来るため、患者の脳に対する負担が少なく、手術時間が短縮でき、術後の傷跡も残らない、などのメリットがあり、普及が進んでいます。
その他、最近保険適用になった「フローダイバーター留置術」にも、今後の期待が集まっています。この治療では、動脈瘤にコイルを入れることなく、瘤の根元にある
正常血管に特殊なステントを留置するだけで、動脈瘤の血栓化を促し破裂を予防します。
急性期脳梗塞に対しては、t-PA という薬剤を用いた点滴による血栓溶解治療が日本で承認され、10年以上が経過しました。しかし発症から4・5時間以内に行う必要があり、脳梗塞患者全体の数%にしか使用できていません。また太い血管が詰まった場合、血流が再開通しないことが多い点も指摘されています。
点滴治療ではなく、血管内治療で直接血栓を回収するのが血栓回収療法です。当初のデバイスによる回収成功率は4割ほどでしたが、ステントを用いたデバイスの進化で、現在では8割を超える回収率になっています。発症から治療までの時間を短縮するために、救急隊と医療機関の連携、病院内部署間の連携も重要であり、医師だけでなく、看護師をはじめ他の職種のモチベーションの高さも必要になります。
今までの脳卒中治療は、必ずしも症状を劇的に改善するものではありませんでした。例えばくも膜下出血に対するコイル塞栓術やクリッピング術は、再破裂を防ぐ予防の意味合いが強いのです。それに対し血栓回収療法は、治療が成功した瞬間に患者の症状が劇的に改善する、画期的な治療です。
血栓回収療法の治療効果に関するエビデンスはすでに確立されています。ただ、日本において脳梗塞で亡くなる方は年間約6万人にのぼりますが、血栓回収療法を受けられた人は、その約1割に過ぎないと言われています。24時間365 日体制でこの治療を施行できる施設を増やし、この治療を全国に普及させることが今後の課題です。