「がんとの闘い」に新しい1ページが刻まれた
関西医科大学に、わが国初の光免疫医学研究所が誕生!

 

「がんとの闘い」に新しい1ページが刻まれた
関西医科大学に、わが国初の光免疫医学研究所が誕生!


 
 
 

オンリーワンかつナンバーワンを目指しスタート
「がんとの闘い」が新しい段階に入った。
 
2022年4月1日、大阪・枚方市の関西医科大学に光免疫医学研究所がオープンした。外科手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)、免疫チェックポイント阻害剤に次ぐ「第5のがん治療法」として注目されている光免疫療法の、わが国初の本格的な研究施設。同療法の開発者である小林久隆NIH(米国立衛生研究所)主任研究員を所長として迎え、勇躍スタートを切った。
 
英国の高等教育専門誌の「世界大学ランキング2022」では日本で第13位にランクインするなど関西医科大学の近年の勢いは目覚ましい。2022年3月には枚方キャンパスに高さ116メートルに迫る高層の「関医タワー」が完成、国際化推進センターと海外からのゲストのための宿泊施設を備え、国際交流の中核を担う。
 
その関西医科大学の満を持した「次の一手」が光免疫医学研究所の開設。4月20日の記者会見に出席した山下敏夫関西医科大学理事長は「研究力のさらなる向上のために、ひとつの領域でオンリーワンかつナンバーワンとなる最先端の医学研究所構想を温めてきました。その構想が最適の人材である小林久隆氏と最有望なテーマである光免疫療法と出会ったことで結実。大きな一歩を踏み出すことができました」と力を込めた。

 
 

がん細胞を破壊しながら同時に免疫機能を活性化
光免疫療法の何が革命的か。
 
光免疫療法は抗体と薬剤、光を組み合わせて、がん細胞だけを破壊するという画期的な方法。がんの3大治療は、いずれも体への負荷が大きいのに対し、光免疫療法は理論上、副作用を最低限に抑えることができる。
 
抗体は特定の抗原にくっつく性質を持っている。それを活かして、がん細胞に結合する抗体に薬剤「IR700」を組み込み、がん細胞まで運ぶ。「IR700」は近赤外光を照射すると化学反応を起こして細胞を破壊する。
 
その性質を利用して抗体と、がん細胞が結合した状態で近赤外光を照射すれば、がん細胞だけを選択的に破壊することができる。しかも「IR700」は水に溶けるので、光があたらなければ1日で尿中に溶けて、そのまま排出される。人体には、ほとんど無害なのだ。
 
近赤外光は波長が可視光と赤外線の中間に位置する光。治療には近赤外光のうち、波長が最も短く(700ナノメートル)、エネルギーが高い光を使用する。紫外線より波長の短い光はDNAを傷つけ、体に有害だが、可視光より波長の長い光は、やけどをするほど強くない限り体には無害だ。
 
「つまり『IR700』も近赤外光も正常な細胞に害を与えることがないのです。正常な細胞を傷つけないので、体が本来持っている免疫力を損なわずに治療でき、患者さんの体へのダメージが少ないという大きな特長があります」と小林所長は話す。
 
もうひとつの大きな特徴は体の免疫機能を活性化することだ。光を照射して、がん細胞が破壊されると、がん細胞の中に含まれていた、たくさんの抗原が放出され、周囲の免疫細胞が、それを取り込む。その結果、患者自身の免疫システムが、生き残ったがん細胞をさらに攻撃する。
 
「私たちの治療法は体の中にある、がん細胞を壊しながら、そこから出てくるものをターゲットにして免疫をつくらせようという両にらみの手法です。直接攻撃と免疫力アップを同時に果たす治療は、これまでありませんでしたし、この2つを実現できなければ、がんとの闘いは終わりません」(小林所長)

 
 

臨床、研究、教育機能備えた光免疫療法の基幹施設
 関西医科大学からのオファーは「日本における光免疫治療の研究環境を整えたい」と考えていた小林所長にとってもタイミングのよい申し出だった。
  
NIHの光免疫療法のラボには日本からも多くの研究者がやってきて一緒に研究を進めてきた。彼らの多くは帰国後も研究を続けているが、各地に散らばっていることもあって情報交流や研究集積が思ったように進んでいない。研究所が完成し、小林所長がトップを務めることで「日本のネットワークの軸」が生まれ、研究も大きく推進されるとの期待が高まっている。
 
研究所の開設に先立つ2021年4月には関西医科大学附属病院に光免疫療法の臨床を担う光免疫療法センター(センター長:岩井大関西医科大学教授)が設置された。光免疫療法は2020年9月、世界で初めて日本で薬事承認された。
 
今のところ治療を受けられるのは基本的に舌がん、口腔がん、咽頭がんといった頭頸部がんの患者で、これらのがんが再発した、あるいは転移した方が対象となる。
 
臨床(光免疫療法センター)と研究(光免疫医学研究所)の両施設を置くことで、臨床機能と研究機能、さらには教育機能まで備えた「光免疫療法の基幹施設」が誕生したことになる。臨床と研究の相乗効果が見込めるうえ、臨床と研究がフィードバックを繰り返すことで、光免疫療法の大きな飛躍も期待できる。
 
「今のところ実際の治療データを解析できるのは日本だけ。このアドバンテージを活かせるように、光免疫医学研究所で、しっかり仕組みをつくって取り組んでいきたい」と小林所長の目は未来を見据えている。(文/岡林秀明)

 

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