子宮頸がんの新たな治療法開発に挑む関西医科大学がクラウドファンディングを実施

 

子宮頸がんの新たな治療法開発に挑む関西医科大学が
クラウドファンディングを実施

 
 

「光線力学療法(PDT)」の技術を応用した治療法の確立を目指す
 大阪・枚方市の関西医科大学の「産学知財戦略」に拍車がかかってきた。
 
 2022年7月5日、子宮頸がん(前がん状態)の新たな治療法開発に取り組む同大学の研究チームが公的資金獲得の準備のためにクラウドファンディングを実施することが発表された。
 
 研究チームを率いるのは産科学・婦人科学講座の北正人診療教授。北診療教授らは「光線力学療法(PDT)」の技術を応用、子宮頸がんの前段階である「子宮頸部上皮内腫瘍」を治療することで、その後の子宮頸がん発症を予防する治療の確立を目指し、研究に取り組んでいる。
 
 光線力学療法は生体アミノ酸の一種、5-アミノレブリン酸(5-ALA)を利用する方法。体外から5-ALA が投与されると、細胞質に取り込まれ、さらにミトコンドリア内へ移動、プロトポルフィリンIX(PPIX)が合成される。
 
 正常細胞の場合、PPIXからヘム(2価の鉄原子とポルフィリンから成る錯体)が合成され、体内で利用されるが、がん細胞の場合、ヘムが生成されにくく、多くが細胞内のミトコンドリアにPPIXとしてとどまる(図1)。
そこで、がん細胞に蓄積したPPIXに特定の波長の光を照射すると、蛍光を発し、活性酸素が発生。活性酸素は、がん細胞を細胞死へと誘導、がん細胞を減少させる。PDTは、この仕組みを利用した治療法だ。
 

図1


 

画期的な「膣内バルンアプリケーター」を開発
 海外では臨床に応用され、ニキビ、皮膚基底細胞がん、日光角化症などの治療法として実用化が進められている。日本でも内服による光線力学的診断に利用され、保険適用も受けた。
 
 ただ、従来のPDTは膣から内視鏡などの器具を挿入するため、挿入に痛みを伴うほか、患者は窮屈な姿勢を続けなければならない。また、膣口から子宮頸部に至る部分は狭いので鮮明な画像が得られにくく、医師も無理な姿勢を強いられる。患者と医師の双方に大きな負担がかかった。
 
 北診療教授は京都大学医学部の出身で、婦人科内視鏡の達人。前任の神戸市立医療センター中央市民病院時代にPDTに出合い、その有効性に気づいたものの、操作性の悪さを痛感。そこで膣内にバルンを入れて拡張することで、病変部を視認しながら治療ができる「膣内バルンアプリケーター」を開発した。
 
 「実際に使用したところ、患者さんの満足度が非常に高かった。皆さん、喜んでくださいました。ここで、諦めたら、この治療法が世に出ない。多くの皆さんのご支援を得て、次のステップへ進みたいと考えています」
と北診療教授は力を込める。今回のクラウドファンディングで集めた資金をもとに公的資金の獲得を目指す。公的資金を得られれば、非臨床試験を経て臨床試験を実施し、有効性・安全性を確認。2030年をメドに医薬品/医療機器としての承認申請を視野に入れている。
 

クラウドファンディングを「研究資金調達第3の柱」に
 関西医科大学が「産学知財戦略」を本格化させたのは2018年。産学知財統括室に弁理士の佐々木健一さんを招聘したのをきっかけに、技術やシーズの「商品化」「産業化」に力を入れるようになった。
 
 関西医科大学が公的資金の獲得、企業との連携に次ぐ、「研究資金調達第3の柱」として掲げたのがクラウドファンディングサービス。早くも2019年には日本最大級のクラウドファンディングサービス会社、READYFORと組んで、「膵がん腹膜転移の患者さんに希望の光を。新しい治療法への挑戦」と題するプロジェクトのクラウドファンディングを実施。珍しい試みとあって注目を集め、合計3,539万3,000円を集めることができた。
 
 2021年、第2弾となるプロジェクト「起立性調節障害の子どもたちへ」のクラウドファンディングを実施、1,024万円を集めた。第1弾、第2弾とも目標額を大きく超える資金を調達することができた。
 
 今回のプロジェクト「子宮頸がんの前がん状態を光で治療する未来へ/公的資金の獲得に向けて」は第3弾。目標金額は1,000万円で、期間中に目標金額以上の寄付が集まった場合のみ、寄付金を受け取る形式だ。

募集期間は2022年7月5日から8月31日23時まで。
URLはhttps://readyfor.jp/projects/kgan_pdtだ。

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