心臓に酸素や栄養を供給する血管が詰まったら?
狭心症治療、心筋梗塞予防のために

 
福岡山王病院
病院長・循環器センター長

 
【寄稿】
ヨコイ・ヒロヨシ
横井 宏佳
 
 

 
 

心臓に血液を送る血管に生じる疾患

 心臓は体全体に血液を送り出すためのポンプの働きをしており、1分間に60~80回、1日に10万回以上休むことなく動き続けています。心臓が元気に動き続けるためには心臓の筋肉(心筋)に血液(酸素と栄養)が必要です。心筋に血液を送る血管は冠動脈と呼ばれ、大動脈の根本から出て心臓を覆っています。この冠動脈に動脈硬化(プラーク)が生じ、必要な血液が心筋に届かず、心臓のポンプとしての働きができなくなる病気を冠動脈疾患と呼びます。
 
 冠動脈疾患は急性と慢性に分類されます。急性冠動脈疾患は突然プラークが破裂して血栓が生じ、冠動脈の血流が途絶して心筋細胞が死んでしまう急性心筋梗塞などがあります。慢性冠動脈疾患には、動脈硬化によって冠動脈に狭窄病変が生じ、心筋に必要な血液を供給することができなくなる狭心症などがあります。狭心症は動いた時に前胸部が痛くなり、安静にすることで軽快するといった特徴があります。
 
 

 
 

激しい胸の痛みはすぐに救急病院へ

 急性心筋梗塞を代表とする急性冠動脈疾患の症状は、冷や汗を伴う、これまで経験したことのないような激しい前胸部痛が10分以上続くといった症状があります。時には肩や背中、歯の痛み、息苦しさといった症状が生じこともあります。冠動脈が閉塞したままでは心臓が止まり、命を落とす可能性が高まるため、できるだけ早く救急病院で、閉塞部位にステント(金属製の網状チューブ)植え込みなどの治療を行って心筋に血液を再び流すことが重要です。
 
 病院にたどり着けば90分以内に治療を受けることができる可能性が高いものの、胸痛から病院に到着するまでに時間がかかると、救える命が救えないこともあります。いつもとは違う胸の痛みが続くような場合にはすぐに救急車を呼ぶことが大切です。
 
 

 
 

病変を早期発見し重症化を予防する

 狭心症を代表とする慢性冠動脈疾患は、早期に冠動脈の動脈硬化病変を見つけて、プラーク破裂による急性心筋梗塞にならないように重症化を予防することが重要です。
 
 冠動脈の動脈硬化を検出する方法として冠動脈CT検査が注目されています。また、心筋に必要な血液が届いているか(虚血)を評価するために、心臓核医学検査、運動負荷試験が行われますが、最近では冠動脈造影検査時に圧センサー付きガイドワイヤーを用いて狭窄部の虚血を評価するFFR検査の実施も増えています。
 
 また近年、冠動脈CTの画像情報からコンピューター解析を行い、患者さんの負担を低減してFFRを計測するFFRCT検査も注目されています。検出された動脈硬化による狭窄病変に虚血がなければ、プラークが破裂しないように生涯にわたって生活習慣改善(食事、運動、禁煙、睡眠)と薬物治療(悪玉コレステロールを下げるスタチン系薬剤による内服)を行います。
 
 一方、虚血があれば、カテーテルを用いて狭窄部の拡張治療(PCI)を行います。カテーテル治療としては再発の少ない薬剤溶出性ステントを用いることが多いのですが、ステントを植え込まずに薬剤溶出性バルーンで拡張する治療も行われています。また、動脈硬化が強く、狭窄部にカルシウムの沈着を認める石灰化病変では、血管が硬く、ステントやバルーンでは十分に拡張できないため、先端にダイヤモンド粒子が植え込まれたバーで切削するロータブレーターによる治療を行います。最近では施設基準が改定されロータブレーターを使用できる施設が拡大しています。

 
 

 
 

患者の希望を尊重した最適な治療を選択する

 治療が必要な場合や糖尿病を有する患者さんには、循環器医と心臓外科医などで形成するハートチームによる治療を提供する施設が増えており、チームで患者さんにとって最適な治療を決定します。
 
 冠動脈バイパス手術(CABG)も最近では左肋間からのアプローチにより、複数カ所のバイパスを可能にする低侵襲CABGが行われています。一部の施設では手術支援ロボットを用いた内視鏡下CABGも実施されています。手術支援ロボットはPCIにも導入されており、被曝量が少なく精度の高い低侵襲なカテーテル治療が提供されています。
 
 最近の研究では、狭窄部位が重要でない場合や胸部症状がない、または軽微な場合には、まず生活習慣の改善と薬剤による内科治療をしっかりと行い、症状悪化時にPCIやCABGを行うことが、患者さんにとって不利益にならないという結果が明らかになっています。患者さんに選択できる治療法を説明し、患者さんの希望を尊重して治療を行うことが推奨されています(シエアード・デシジョンメイキング=共有意思決定)。

 
 


福岡山王病院
病院長・循環器センター長

 
【寄稿】
ヨコイ・ヒロヨシ
横井 宏佳
 
 


 

 
 

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