遺伝や女性ホルモンの影響も発症リスクに 乳がん

千葉県がんセンター 乳腺外科部長 中村 力也(なかむら・りきや) 医学博士

年間約9万5000人が罹患し、女性に多いがんのひとつである乳がん。再発防止を目指すためにも、さまざまな乳がんのタイプに合わせて治療法を組み合わせる、集学的治療が重要です。
疾患の特徴
女性が罹患するがんで最も数が多い
 女性のがんの中で一番患者数が多い乳がん。11人に1人の女性が罹患するといわれており、日本での患者数は年間約9万5000人を数えます。乳房の中にある乳腺に生じるがんであり、乳房のしこり、皮膚表面のひきつれ、乳頭からの血液分泌といった症状が現れます。
 乳がんの発症には、さまざまな要因が考えられ、そのひとつが女性ホルモンの過剰です。初潮年齢の低年齢化と閉経年齢の高年齢化が進んだことで生涯における生理の回数が増え、女性ホルモンの影響を受ける頻度が高くなっていると考えられます。また出産の回数が減り、妊娠時に低下するはずのホルモンが分泌され続けることも、影響しているといわれています。
 他にも肥満や運動不足、飲酒や喫煙、食生活など生活習慣の変化、乳がんや卵巣がんの家族歴、特定の遺伝子変異(遺伝性乳がん)も、指摘されるリスクです。
 罹患数は35歳以降に徐々に増え、40~50代でピークに達します。近年では60代以上でも患者が増加しています。一方で、若年性乳がんと呼ばれる20~30代前半で発症するタイプもあります。この若年性乳がんは患者全体に占める数は少ないものの、遺伝性変異が原因であったり、薬物療法の効果が得られにくいトリプルネガティブ乳がんであったりすることが多いという特徴があります。
※治療標的となる3つの受容体が欠如しているタイプの乳がん

 
ここがポイント

主な治療法
幅広い治療法を組み合わせ再発防止を目指す
 乳がんの治療では、手術を中心に、薬物療法、放射線治療、それらを組み合せた集学的治療を行います。手術は主として乳房全切除術と、がんとその周辺のみを切除して、乳房のふくらみをある程度残す温存術が行われています。
 乳房を全切除した場合、皮膚や脂肪など自身の体の一部、またはインプラントを用いた乳房再建術を行うことができます。これによって乳房切除後の整容性(治療後の見た目)を保つことができます。インプラントによる乳房再建を実施している施設は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の認定を受けており、同学会のホームページで確認することができます。
 早期の乳がんや、術前に抗がん剤でしこりを小さくした場合には温存術を行うことができます。再発リスクがある場合や温存術を行った場合には放射線治療が併用されます。遺伝性乳がんは再発リスクが高いため、乳房温存術が可能でも全切除を選択することがあります。
 乳がん治療では術後の乳房再建や薬物療法による合併症対策、緩和ケア、遺伝子カウンセリングなどが、広く連携して行われています。乳腺外科医や、乳がんについて豊富な知識と経験を持っていると日本乳癌学会に認定された乳腺専門医などを中心とした、チームによる包括的な乳がん診療が重要です。
 薬物療法では、抗がん剤やホルモン剤のほか、がん細胞の増殖や転移に関わる特定の分子の働きを抑制する分子標的薬が用いられます。最近では免疫細胞が、がん細胞を攻撃しやすくなる免疫チェックポイント阻害薬が登場し、注目を集めています。
 他に乳がんは遺伝子の性質から5つのタイプに分類できることがわかっており、タイプに合わせて薬剤を選択する個別化治療が行われています。 
 乳がんの再発率は低くなく、術後5年が経過しても再発する可能性がわずかにあります。そのため通いやすい立地であることは医療機関選びのポイントのひとつです。ただ、再発は多いものの生存率は伸びています。医師と相談して、さまざまな治療法を検討しましょう。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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