リハビリテーション

リハビリテーション

運動器リハビリテーションとは
運動器リハビリテーションは骨、筋肉、関節、神経のさまざまな疾患や外傷による機能低下の回復を目指します。治療法には理学療法、作業療法、物理療法、装具療法などが含まれます。患者ごとに治療計画を立てて実施します。
ひざや腰の痛みを生じる運動器疾患は高齢者に多く見られ、ロコモティブシンドロームの原因となります。そのため、治療だけでなく予防も重要です。また、まひや切断に対しては、患部の回復だけでなく、残った健康な部位を強化して患部の機能を補い日常生活動作(ADL)の回復を図ります。


運動器疾患・外傷

骨粗鬆症と生命を脅かす大腿骨近位部骨折
 社会の高齢化とともに骨粗鬆症の患者さんが増加しています。骨粗鬆症があると発生しやすい骨折には股関節の大腿骨近位部骨折、手首の橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)、肩の上腕骨近位部骨折、尻もちをついて起こる脊椎圧迫骨折があり、併せて4大骨折と呼ばれます。これらの骨折は、居室内での転倒程度で骨折することも珍しくありません。 なかでもリハビリテーション診療上、重要な骨折が大腿骨近位部骨折です。
 骨折の治療はギプスや装具に よる保存療法と、必要があれば手術療法が用いられます。手首の橈骨遠位端骨折、肩の上腕骨近位部骨折、脊椎の圧迫骨折において、骨折部が安定している場合、その多くは保存療法が選ばれます。
 大腿骨近位部骨折の場合、時間を要する保存療法を選択すると、安静に臥床している間に筋力低下、認知症、肺炎、褥瘡(じょくそう) などを発症します。寝たきりになり生命にも危険が及びます。そのため、早期に手術をして、早期にリハビリテーション治療を始めることが、日常生活への復帰と生命予後の改善に重要です。手術後は癒着しやすく関節拘縮(関節の動きが制限される状態)を来すことが懸念されるので、可能な限り手術の翌日から、関節拘縮予防のリハビリテーション治療を開始し、その後は経過に合わせて筋力増強、平行棒から歩行器そして杖を使用する歩行練習、階段の昇降練習などを行っていきます。
 歩行練習にはロボットも活用されています。機能の低い方の脚を一定の力で補助し、左右対称な歩行を実現します。
 歩行訓練用のロボットは、変形性股関節症の手術後も役立ちます。変形性股関節症の手術患者さんでは、手術前からの拘縮で左右の歩行の均衡が崩れた跛行が身についてしまっていますので、術後その矯正にロボットが有効です。
主な治療法
 ◎運動療法
 ◎装具療法
 ◎物理療法(電気や超音波、温熱など物理的なエネルギーを利用し、疼痛の緩和、循環の改善を図ります)

ロコモティブシンドローム/サルコぺニア

筋肉が衰えるサルコペニア
 サルコペニアは、加齢による筋肉量の減少と筋力の低下です。微弱電流を利用する身体組成計は筋肉量や脂肪量が測定できるのでサルコペニアの診断に役立ちます。
 摂取したタンパク質の筋肉形成への利用は加齢とともに低下します。そのため年配の方は特にタンパク質の摂取を心がける必要があります。つまり75歳ぐらいまでは栄養の過剰摂取はメタボリックシンドロームが懸念されますが、75歳以上は逆に積極的にタンパク質を摂取してサルコペニアを防ぐ必要があります。筋肉がしっかりしていれば、リハビリテーション治療も円滑に進みます。
 筋肉の減少を防ぐためには、タンパク質を意識的に摂る食生活(栄養療法)に加えて摂ったタンパク質を身に付けるため適度の運動が重要です。タンパク質を摂るタイミングも影響します。運動直後は成長ホルモンが活発に分泌されるので、運動の直後にタンパク質、なかでも分子鎖アミノ酸、特に筋肉形成促進作用もあるロイシンを摂ることで筋肉が効果的に形成されます。

運動器疾患によるロコモティブシンドローム
 ロコモティブシンドロームとは、立つ歩くなどの移動機能が低下している状態です。骨の加齢による骨粗鬆症、関節の加齢による変形性膝関節症、腰部の加齢による脊柱管狭窄症、前述の筋肉の加齢によるサルコペニアが原因です。ロコモティブシンドロームでは要介護に至るリスクが高まるため、早期の対策が重要です。
 日本整形外科学会が推奨する有効な予防策の1つが「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」です。ハーフスクワットなどのエクササイズで脚の筋力を強化し、片脚立ちをしてバランス感覚を改善します。筋力やバランス感覚の低下によるバランスの崩れが、転倒による骨折のリスクを高めます。これらのエクササイズを無理のない適切な範囲で続けてロコモティブシンドロームを予防します。
主な治療法
 ◎運動療法
 ◎物理療法
 ◎食事療法

脊髄損傷

全身にまひを起こす中枢神経のケガ
 脊髄損傷は脳からの情報を脊椎(背骨)の中を通って全身に伝達する神経組織である脊髄が怪我している状態です。原因の多くが交通事故や高所からの転落などの外傷です。
 脊椎は上から頸椎、胸椎、腰椎と連なっていて、対応する部位の脊髄は頸髄、胸髄、腰髄といいます。損傷が起きた部位に より障害の範囲が異なります。頸髄ならば四肢まひ、胸髄および腰髄ならば両下肢まひになります。まひの程度にも差があり、少しは動かせる「不全まひ」と、全く動かせない「完全まひ」があります。高齢者に目立つのが軽い転倒による中心性頸髄損傷です。その多くが不全まひで、下肢より上肢にひどいまひが起きます。

 脊髄損傷の急性期は、合併症の予防のため頻繁な体位変換、および拘縮予防の関節可動域訓練などのリハビリテーション治療をします。全身の状態が安定した後は患者さんの病態に応じて行います。
 完全まひの場合、「動かない部位の代わりに、使える部位を鍛える」ようにします。例えば、下肢が完全まひの場合、上肢を鍛えて車椅子に移乗し車椅子を漕いで移動ができるようにします。一方、不全まひの場合は可能な限りまひの回復を目指して、歩行練習などの理学療法を積極的に進めます。そのほか、作業療法として、食事などの日常動作が1人でできるように、必要があれば手や脚に装具をつけて練習するADL練習も重要です。
 脊髄損傷による四肢のまひは完治が困難です。しかし、運動器リハビリテーションを適切に実践し続ければ、ADL機能を改善し、 QOLの改善も目指せます。電気刺激により、まひ肢を動かす取り組みも見られます。また、亜急性期脊髄損傷へのipS細胞移植による再生医療の研究が進歩すれば、まひからの回復も期待されてきます。
主な治療法
 ◎運動療法
 ◎物理療法
 ◎装具療法
 ◎作業療法

関節リウマチ

女性に多く寛解を目指す
 関節リウマチは免疫機能の異常により、さまざまな関節に炎症が起きます。進行すると関節が変形し、動作が障害されます。発症は女性に多く、発症のピークは30代から40代です。体質や女性ホルモンの変化、外部刺激などが原因と考えられていますが、正確な原因は完全に解明されていません。
 近年、生物学的製剤やJAK阻害薬の登場により、疾患の進行を抑えられるようになってきました。完治が難しい疾患ですが、寛解(症状が進行していない状態)を目指すのは可能になってきました。これまでの関節の疼痛や腫脹を抑える対症療法から、炎症を抑え変形を予防し機能の維持回復を目指すように治療方針が変わってきました。そのため早期の発見と適切な治療開始が重要です。適切な薬物療法を行いながら、運動器リハビリテーションを実施して ADLの回復とQOLの向上を目指します。

関節リウマチのリハビリテーション治療
 関節リウマチは特に手指で発生しやすく、腫れやスワンネックやボタンホールと呼ばれる変形を引き起こします。痛みが激しい場合、薬物療法と併用して、患部を温める物理療法の温熱療法、そして関節の保護と変形の予防を目的とした装具療法で痛みを緩和させ変形を予防します。
 蓋や缶を開けるためオープナーを使うなど、関節の負担を軽減するための生活指導も行います。安静のみでは手指の機能が低下するので、炎症の状態に応じた作業療法が重要で、手芸や図画工作、コンピュータ操作などの練習を行います。
 下肢(ひざや股関節など)では、関節リウマチが進行した場合に人工関節置換術をします。手術後には、関節可動域練習、筋力増強、起立・歩行練習などのリハビリテーション治療を実施します。
主な治療法
 ◎運動療法
 ◎物理療法
 ◎装具療法
 ◎作業療法
治療法
リハビリテーション治療で運動機能を改善させる/運動療法
 運動器リハビリテーションの主な目標は、筋力と関節の可動域を向上し、ADL機能を回復することで、患者さんに自立した日常生活を送ってもらうことです。実際のリハビリテーション治療はリハビリテーション治療の専門家である理学療法士と作業療法士が担当します。医師と連携して患者の状態、疾患、手術に応じて改善を目指します。運動器リハビリテーションは1単位20分で、急性期の病院では制度上1日6単位が限界ですが、回復期リハビリテーション病院では1日最大9単位まで実施が認められています。最長150日提供されます。理学療法士は筋力トレーニング、可動域訓練、ウォーキング、階段の昇降などの運動療法を提供します。脊髄損傷などのADLが低下する疾患では、作業療法士が指導する食事や入浴などのADL練習が重要になります。
 痛み緩和を目的に温熱療法、水治療法、電気療法などの物理療法も提供します。コルセットやサポーターといった装具療法や、四肢切断に対しては義肢の作成や義肢の使い方のトレーニングも行います。最近では、リハビリテーション支援ロボットの導入もされつつあります。

※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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