進行が比較的ゆるやかでも油断は禁物 前立腺がん

埼玉県立がんセンター 病院長 影山 幸雄(かげやま・ゆきお)

初期に自覚症状は、ほとんどなく、発見にはPSA検査が有効です。治療法には多くの選択肢があります。それぞれの効果、副作用について理解し、自身の生活に合う治療法を選ぶことが大切です。
疾患の特徴
男性のがん罹患数第1位 PSA検査が有効
 前立腺は男性のみが持つ栗の実大の臓器で、そこに発症するのが前立腺がんです。年間約9万5000人が罹患し、男性の中では肺がん、胃がん、大腸がんと並び、頻度の高いがんのひとつとなっています。「高齢化」「食生活の欧米化」などを背景に、患者さんの数は増加傾向にあります。
 前立腺がんは他のがんに比べ、ゆるやかに進行し、予後も良好なケースが多いという特徴があります。早期は自覚症状に乏しく、進行すると頻尿や排尿障害、血尿などの症状が現れます。
 前立腺がんかどうかを調べるスクリーニング検査として、PSA(前立腺特異抗原)検査が一般的に行われています。PSAは前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパク質で、がんなどの異常が生じると血中のPSA値が高くなります。PSA検査は前立腺がんの診断に有用ですが、前立腺がん以外の原因でも高くなることがあるため、「直腸内触診」「画像検査」などと組み合わせて総合的に判断します。
 がんの可能性が高いときは前立腺に針を刺して組織を採取する前立腺針生検を実施します。診断が確定した場合、続いてCT検査、骨シンチグラム検査など「病期診断」を行い、がんの進行度(広がり)を確認します。
 診断の流れ、検査の順序、方法は施設によって異なります。検査については主治医とよく相談して行いましょう。

 
ここがポイント

主な治療法
経過観察、手術、放射線など多岐にわたる治療手段
 前立腺がん治療の選択肢は、さまざまです。早期で悪性度が低い場合、定期的にPSA検査を行いながら経過観察するPSA監視療法があります。治療が必要になれば、手術や放射線治療で根治を目指します。
 手術には開腹手術のほかにも種類があります。腹腔鏡下手術は腹部に数カ所小さな穴を開け、内視鏡などを挿入して手術します。一つの穴から治療する腹腔鏡下小切開手術(ミニマム創手術)もあります。2012年に保険適用となったロボット支援下手術は操作性の高い手術支援ロボットを活用することで、より精緻な腹腔鏡下手術が可能です。
 放射線治療は放射線を体の外からあてる外部照射と、体内からあてる内部照射(小線源治療)に分けられます。外照射療法はX線が主流で、三次元原体照射(3D-CRT)や前立腺の形に合わせて線量分布を調整できる強度変調放射線治療(IMRT)などがあります。X線以外の粒子線治療(重粒子線や陽子線)も注目です。再発リスクが高い場合、ホルモン療法の併用が有用です。治療期間が比較的短い小線源治療ですが、大きな前立腺では治療困難なことがあります。その場合、先にホルモン治療を行い、前立腺を縮小させることで治療が可能になることもあります。
 入院期間は手術で10日程、放射線外照射療法は約8週間の通院治療が一般的です。近年、寡分割照射という、より短期間で終了する放射線療法も可能になりました。再発・転移例で手術や放射線治療が行えないときは薬物療法で、がんの増殖を抑制します。
 どの治療法にも合併症の懸念はあります。手術の場合、術後に尿失禁や性機能障害が起こることがありますが、多くは半年ほどで回復します(性機能の回復には神経温存が必要です)。放射線治療では頻尿や排尿・排便時の痛みなどが治療中から生じることがあり、数カ月で回復します。放射線性膀胱炎による血尿や、放射線性直腸炎による血便は長期間経過してもみられることがあります。
 合併症や年齢、治療日数、再発時のことなどを考慮しながら、自分の生活に合った治療法を選択しましょう。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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