再発が多い疾患 膀胱がん

東京医科歯科大学病院 副病院長 泌尿器科教授 藤井 靖久(ふじい・やすひさ)

喫煙が最大のリスク要因となる男性に多いがんです。多発的に発症し再発率の高いがんで、膀胱全摘が必要となることもあります。
疾患の特徴
血尿が出たらご用心 早急に泌尿器科を受診
 膀胱はへその下あたりに位置し、尿をためて排出する役割を担う袋状の臓器です。膀胱の内側は尿路上皮という粘膜で覆われており、膀胱がんのほとんどは、この部分から発生します。
 進行するにつれ、尿路上皮の下にある筋層や膀胱外の組織に広がっていきます。深達度によって「筋層非浸潤性がん」と「筋層浸潤性がん」に大別されます。膀胱がんは多発して生じることが多く、治療が終わっても高頻度で膀胱内に再発するのが特徴で、継続した定期検査が必要です。
 好発年齢は60~70代と高く、特に男性に多い疾患です。発がんの主な危険因子に喫煙などが挙げられます。
 膀胱がんの最も顕著な症状は血尿です。進行に伴い排尿痛や頻尿などの症状が起こる場合もありますが、診断時点でこれらの症状がある方は20%ほどしかいません。目で見える血尿に気づいたときには泌尿器科を必ず受診するようにしてください。
 診断には尿細胞診のほか、膀胱鏡が用いられます。膀胱鏡は軟らかく曲がる内視鏡で、尿道から挿入して膀胱内を直接観察し、がんの大きさや数、筋層への広がりなどを調べます。さらにCT、MRIなどの画像診断で病期を評価した上で、がんとがん底部を含んだ膀胱壁へTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除)を実施し、悪性度や筋層への進行度などを確定診断します。

 
ここがポイント

主な治療法
がんの進行度によって膀胱温存か全摘除を選択
 膀胱がんの治療は、がんが筋層に広がっているか否かで大きく異なります。
 尿路上皮あるいはその直下にがんがとどまる「筋層非浸潤がん」の場合はTURBTが標準治療になります。内視鏡で、膀胱内を確認しながら病変を電気メスで切除する術式で、膀胱を温存できるメリットがあります。
 近年、TURBTを行う際にPDD(光線力学診断)が用いられるようになり、病変が検出しやすくなりました。PDDでは、がんに取り込まれやすく光に反応する薬剤を服用し、TURBTの際に特別な光を照射することで病変を目立たせることができます。さらに、取り残しが防げるため、再発リスクの低減が期待できます。
 TURBTによる切除後は、がんの悪性度などにより膀胱内に抗がん剤またはBCG(結核予防ワクチン)を膀胱内に注入する療法で、再発を予防します。
 がんが筋層まで広がる「筋層浸潤性がん」の場合やBCG注入後の再発例は膀胱全摘除術が基本です。従来型の開腹手術に加え、低侵襲の腹腔鏡下手術やロボット支援下手術という3種類の術式で行われています。全摘除では膀胱に代わる尿の排せつ経路を作成する尿路変向が必要となるため、腸の一部を用いて導管ストーマ(排せつ口)造設または新膀胱を作り、排尿機能の代替を図ります。
 筋層浸潤性がんでも、病巣が単発かつ範囲が広範でないなどの条件を満たす場合に限り適応可能な、膀胱を温存する治療法があります。ひとつがTURBTを施術した後に化学療法と放射線治療を行う3者併用療法です。ただし筋層浸潤がんの再発が起こりやすいのが課題に挙げられます。もうひとつが3者併用療法に膀胱の部分切除を加えることで、高い確率での根治が期待される4者併用療法(TeMT)という術式です。
 転移がある進行膀胱がんの場合は薬物療法が中心です。従来、シスプラチンなどのプラチナ系抗がん剤を中心とした治療が施行されてきましたが、最近では免疫細胞の攻撃力を活性化する免疫チェックポイント阻害薬、抗体に抗がん剤を付加した抗体薬物複合体製剤などが登場し、がんの抑制を長期的に期待できるようになりました。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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