【進化する整形外科ロボット 2】患者本来のひざの再現へと導く術者のパートナー CORI

CORI

2023年6月現在、日本で唯一3種類の整形外科ロボットを有する埼玉協同病院。年間約500件の人工関節置換術を行う医師が2人在籍する。股関節担当・仁平高太郎医師と膝関節担当・桑沢綾乃医師にとって手術は生活の一部といって過言ではない。ロボット3種類の使い分けと、CORI(コリ)の特徴について伺った。
3種類のロボットとマニュアル変形によって術式を選択
 2人で年間約1000件もの人工関節置換術を行う埼玉協同病院には全国の医療機関から手術見学者が絶えない。整形外科の仲間からの信頼も厚く、時には医師自身の執刀依頼もある。
 術式はマニュアル、ロボット3種類(Mako、CORI、ROSA Knee)を含めて検討し、使い分ける。
 「ロボットもそれぞれ得意分野が異なるので、変形に応じて使い分けています。例えば、ひざが内側だけ変形しているならCORI、全体的に変形し拘縮もあればROSA Knee、中等度の変形で拘縮が少ないならMakoといった具合です。人間では正確性が損なわれる変形、特殊な骨の切り方が必要な場合に有効です。
 一般的な変形なら、マニュアル手術も行います。ロボット準備にかかる10~20分を短縮できるため、感染症や合併症のリスクの低減が期待できます」と仁平医師は方針を話す。 術式に関わらず、術前計画は全症例3Dテンプレートを用いてコンピューター上で作図し、その計画に沿って適した治療法を選択する。ロボット最大のメリットといわれる「0・5mm、0.5度単位」の精度について持論を展開する。
 「もちろん、正確性は大切だし、そこがロボットの特性です。設置精度が過度に逸脱していれば、股関節は脱臼リスクが高まり、ひざ関節はいつまでも痛く、曲がらないひざになってしまいます。ただ、熟練の医師なら、遜色なくできることも多い」 同院の人工関節置換術のうち、ロボットの比率はひざで3〜4割、股関節で2割程度。患者満足度アンケートではロボット、マニュアルともに好評だ。

CORIの特性を生かす単顆型人工膝関節置換術(UKA)
 「ただし、単顆型人工膝関節置換術(UKA)は明らかにロボットが優れています。UKAは全症例でロボットを使います」と桑沢医師。
 その理由は精巧なひざ関節の構造にある。3つの骨にクッションとなる半月板が組み合わさり、内側、外側、前後の4つの靭帯がバランスを保つ。
 「UKAはひざの痛んだ部分のみ人工関節に置き換えます。4つの靭帯機能を残すには患者さんの本来のひざの形に合わせて、靭帯に最もしっくりくる位置に人工関節を設置しないといけません。そのためには一人ひとりの関節の形状に合わせた角度に、人工関節を入れるのが理想です。
 UKAでは術中、軟骨部分を認識し、関節の表面形状を詳細に読み取り、術者の意向を反映しやすいCORIをメインで使っています。読み取った情報から3Dのひざモデルを形成し、屈伸時の靭帯バランスまで全可動域を認識しながら、本来のひざを再現するように人工関節を挿入します」
 絶妙なバランスで作られていたナチュラルな本来のひざを取り戻すオーダーメード手術にこそ、ロボットの0.5mm 0.5度単位の精密さが必要不可欠なのだ。
 「ロボットによるUKAの治療結果がすばらしくて、脛骨に対して人工関節を90度に入れるのが常識だった設置角度の概念を覆すほど、学会でもホットトピックになっています。当院の患者満足度も明らかに上がりました」(桑沢医師)
(CORIを用いたUKA)
患者に喜びを与える人工関節とロボット使用の注意点
 一般的にUKAのリハビリ期間は1カ月程度といわれている。
 「CORIによるUKAをしたゴルフコーチは術後2週目にラウンドレッスンに行きました。元の靭帯の緊張のまま入れるから違和感が少なく回復が早いんです。人工関節を入れると『二度と運動ができない』というイメージの方もいますが、そうではなく、人工関節は自由を与えてくれる味方です」(桑沢医師)
 「マニュアルの股関節全置換術(THA)をして、人工関節で踊るバレリーナもいます。人工関節で草サッカーをする元プロもいました。本来、激しい動きや使いすぎ(オーバーユース)は推奨されていませんが、余暇を楽しむ程度なら、ほとんどのスポーツは可能です」(仁平医師)
 ロボット手術の場合、骨や軟骨の位置情報をロボットに送るマーカーを患部に設置する必要がある。マーカーは些細な振動や接触でずれるので、慣れない医師が、ずれに気づかないまま手術してしまうケースもあるという。
 「要はマニュアル、ロボットに関わらず、日々の研鑽、慣れが重要です。お母さんの慣れた料理の方がおいしいのと同じ。これからも日々、淡々と手術を行っていきます」と仁平医師。確かな実績を持つ2人の医師は患者満足度の向上を念頭に、さらなる高みを目指す。
(CORI)
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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