【進化する整形外科ロボット 3】骨を削る角度、量を瞬時に数値化して、正確無比な手術へ誘導 ROSA Knee

ROSA kneeシステム

人工膝関節置換術の手術支援ロボット「ROSA kneeシステム」。そのロボットアームの卓越した正確性、精度が功を奏し、膝関節治療を劇的に変えている。ROSAは何に優れ、どう活用すべきなのか。岐阜県の東濃地区でいち早く導入した岐阜県立多治見病院の高津哲郎医師に話を聞いた。
人口約32万人を抱える東濃医療圏の基幹病院
 岐阜県南東部、夕立山の北麓を水源とする土岐川は東濃の丘陵地帯を流れ、愛知県内で庄内川と名を変える。黄昏時、夕陽を浴びたその清流は川面をきらきらと金色に輝かせ、多治見市の市街地で静かにさざめき、南西にある愛知県春日井市に水流を向ける。
 すぐそばを土岐川が流れる岐阜県立多治見病院。多治見市のほか川沿いの土岐市、端浪市、中山間地域の恵那市、中津川市で構成され、人口約32万人の東濃医療圏を包括的に担う基幹病院だ。県下にある6つの救命救急センターの1つ。東濃地区の救急医療の「最後の砦」として地域医療に寄与している。
2022年、県内2例目の手術支援ロボ導入
 同院の整形外科は外傷治療のほか、変形性関節症や脊柱管狭窄症、運動器の炎症、加齢性変化など、対象疾患が幅広い。昨年、県内では2例目の人工膝関節置換術の手術支援ロボット「ROSA(Robotic Surgical Assistant)Kneeシステム」を導入した。ロボットは六軸多関節ロボットアームと光学カメラユニットの2つから成る。
 「導入したROSAを使いこなすため、実際にご遺体を用いた手技向上訓練のキャダバートレーニングを経て、本番の手術に臨みました」と話すのは同院の副院長兼整形外科部長の高津哲郎医師だ。
骨を切る量を0.5mm刻みで設定可能
 「従来、手技や術中の判断などは術者の経験にゆだねられていました。ROSAは骨を削る角度や量、人工関節の装着などを、精密な数値で術者を導きます。より安全な手術を可能にしました」
 まず、術前にレントゲン撮影で得たひざのデータをコンピューターに取り込み、3D画像を作成する。その画像を基に骨を削る角度や量、人工関節のサイズや位置を指定し、ROSAに入力。手術はその入力データに従い進められる。
 「従来、人工関節の設置のため、骨を削る量を2mmや4mm単位で調整していました。ROSAの場合、0.5mm刻みで設定が可能。思い通りの位置で微調整できます。術中のアジャストも容易。柔軟に使える機械という印象です。また靭帯バランスを数値化、画面上で確認できるのも特筆すべきです」
後進を育成する機材としても優秀
 ROSAは骨切量だけでなく、靭帯などの軟部組織のバランスも表示し、人工関節が安定する位置や角度をリアルタイムで示してくれる。
 「ひざの靭帯を触ると、軟部組織のバランスが変わります。従来はその均衡を人の手で整えていました。一方、ROSAは処置した結果を何ミリ、何度と正確な数値で表します。骨を正確に切れるのもROSAの大きなメリットですが、靭帯バランスを数値化、画面上で確認できるのも特筆すべきです」
 さらに、高津医師はROSAが後進を育成する機材としても優れている点を強調する。
 「術中、骨を切るべき角度や量をリアルタイムで画面上で微調整すると、その結果が、画面上に数値で表れます。さらに、実際に骨を切った後の評価を直ちに行い、その結果も画面に表示する事が出来ます。それを見た若い先生たちは『こういう操作だと、この角度はこう変わるのか』と瞬時に理解できます。画面に表れた結果を見て学べる意義は、とても大きいと思います」
 ROSAを使うことで、患者への体の負担がいかに減り、低侵襲なのかを聞いた。「ひざ関節に限って言えば」と前置きして、意外な答えが返ってきた。「ROSAを使うか否かで、患者さんの痛みを減らし、ひざ関節の動きを改善したり、希望通りのレベルに戻したりというゴールは変わりません。低侵襲についても、以前は小切開で手術していました。しかし、いくら小さな傷口でも画期的なことはなく、創が大きい手術との術後の回復に差を感じませんでした」と低侵襲手術にこだわらないと言う。

術前計画の遂行と適切な靭帯バランスが大事
 「苦労して、小切開で手術操作しても手技を難しくするだけです。手術時間が伸び、術後の経過も大きな創と差がありません。最終的にインプラントの挿入時に、改めて皮膚切開を延長するケースも珍しくない。皮膚切開長の短さより、もっと大事なことがあるはずです」
 こうして低侵襲への過大評価を疑問視する高津医師。低侵襲よりも「もっと大事なこと」をこう説明する。
 「術前に計画した通りの正確な骨切り、適切な靭帯バランスの獲得、正確なインプラントの設置が最大目標です。ROSAは目標箇所に、正確にたどりつかせる器具として優秀なのです」
 対して、「股関節の前方アプローチ手術は筋肉を切らず、小切開。低侵襲といえますね」と高津医師。「手術の合併症に股関節の脱臼があります。後方アプローチ手術は正座や車の乗降時など、後ろに外れやすい動作が多い。前方アプローチ手術での脱臼危険肢位は股関節を伸展させて内側に入れる動作になります。そのため、前方アプローチで股関節手術をした患者さんには『イナバウアーは禁止ですよ』と言っています(笑)」
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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