【進化する整形外科ロボット 5】精密な操作と革新的な技術でシンプルを追求 VELYS(TM)

世界的医療・医薬品メーカーのひとつジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が整形外科ロボット領域に参入した。2023年6月時点、同社のロボット・VELYS(ヴェリス)を導入する医療機関は日本に4カ所。そのひとつ淀川キリスト教病院の関節外科・人工関節センター副センター長・鈴鹿智章医師に話を伺った
外傷外科と関節外科、双方の技術を生かし、センターを設立
 2019年、淀川キリスト教病院に関節外科・人工関節センターが設置された。それと同時に副センター長として招聘されたのが外傷と下肢関節(膝・股)治療のスペシャリスト、鈴鹿智章医師。
 「救急外傷外科出身で整形外傷・骨折治療に約8年間従事しました。交通事故等の場合、開放骨折(皮膚を突き破る骨折)なども多く、損傷の部位も重症度も千差万別で、頭をフル回転させながら治療にあたっていました。さらなる成長のため関節外科に移ると、下肢の変性疾患治療がメインになりました。治療オプションはある程度決まっているものの、慢性疾患特有の難しさもあり、学びの多い領域だと感じています」
 副センター長として最初のミッションは関節外科・人工関節センターの立ち上げ。「センター長が元上司・髙松聖仁医師というのは非常に心強かった。彼の専門は上肢で、私は下肢。人工関節手術数が多いのはやはり膝・股関節なので責任重大です。人工関節手術の実施施設が少ないエリアだったので、地域ニーズに応えるため、ゼロから挑戦しました」
 病院スタッフに人工関節とは何かを説明するところからスタートし、入院・手術の段取り、病院内外への情報共有と、センターの基盤づくりに奔走した。その後、着実に歩みを進めてきた関節外科・人工関節センターは2022年12月、整形外科ロボット・VELYS(J&J)を導入した。
人工関節ロボット支援手術を行う鈴鹿、織田医師
最新ロボ「VELYS」を導入切磋琢磨し、ともに成長を目指す
 「世界最大級の大手医療・医薬品メーカーが満を持して発売するロボットという期待もあったし、以前からJ&Jの人工関節を好んで使っていた縁もあります。『シンプルさ』を追求というコンセプトも魅力的でした」
 鈴鹿医師が得意とする最小侵襲手術(MIS)は患者の早期回復・復帰のため筋肉や神経組織を切離せずに温存する治療法。
 「手術台に設置できるVELYSは非常にコンパクトで、操作性も滑らかです。これなら術者の意思を反映し、微細な操作が必要なMISも使用可能だと感じました」
 従来、CTナビゲーションを用い時間をかけて準備していた術前計画も、VELYSは数分で準備が整う。骨に直接ポインターをあて、ロボットに読み込ませると、仮想の膝関節モデルをソフトウェア上に作成し、動作解析が始まる。患者の靭帯・軟部組織の緊張度やバランスを数値化し、予定の骨切り位置や量による予測モデルを随時モニター上に具現化するシステム。
 「仮に自分なら、骨をここで切るという位置情報・角度を入力すれば、瞬時に膝の各可動域での靭帯バランスを含めた手術の仕上がり予測を教えてくれます。VELYSと自身の見解が一致した時点でスタートすれば、途中の確認作業はほとんど必要ありません」
 従来のマニュアル法では1ステップ1チェックを繰り返していた骨切除作業がノンストップで進む。切除前と切除後の最終シミュレーション(仮想人工関節の挿入)が合致することを確認し、靭帯バランスも問題なければ、人工関節を挿入して手術は完了となる。
 「従来の骨切りでは金属のスリットを用いて行っていたため薄刃(骨用ノコギリ)しか使用できず、特に硬い骨などは刃が弾かれ、ロボットほどは正確に切れませんでした。一方、スリット不要で厚い刃を用いるVELYSは驚異的な精度での骨切りが実現可能。そして進路を外れると即時停止する安全装置までついています」
 VELYS手術を開始して数カ月で既にマニュアルと同等まで手術時間を短縮した。
 「目指すゴールは患者さんに満足いただけるオーダーメード治療です。現在、VELYS執刀が可能なのは私のみなので、今後は専門チームの増員と後進育成にも力を入れ、さらに多くの患者さんのニーズに応えていきたい」

VELYS
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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