ひざの痛みと疾患

ひざの痛みと疾患

3カ月間継続する痛みがある場合は警戒が必要
ひざ関節は、大腿骨、脛骨、腓骨、膝蓋骨によって構成された関節であり、内側・外側側副靭帯、前・後十字靭帯、膝蓋腱などの靭帯や腱によって支えられています。また、大腿骨の球状関節面と脛骨の平坦な関節面の間には、体重負荷の分散と安定性を維持するための半月板と呼ばれる軟骨が存在します。もし、ひざに痛みを感じ、それが3カ月間続く場合は、半月板損傷や靭帯損傷などの疾患が発生している可能性があります。しかしながら、高齢化社会の進行などにより、現在最も多いといわれている疾患は変形性膝関節症です。


変形性膝関節症

加齢による高齢者の罹患者が現在も増加中
 ひざの関節内部で、曲げ伸ばしのクッションとなるべき軟骨や半月板が擦り減ったり傷ついたりすることで、大腿骨と脛骨が擦れ合い、痛みや運動障害を引き起こします。これが変形性膝関節症です。日本人の場合は比較的女性に多く見られ、高齢者になるほど罹患者が増え、無症状者を含めると約2500万人が発症していると推定されています。
 最も多い原因として考えられるのは、中高年を過ぎると加齢による半月板や軟骨の変性によってそれらが損傷することにあります。元々ひざには体重の約8倍の負荷がかかっていますから、クッションを失えば、強い痛みや腫れが生じてくるわけです。
 初期段階では、ひざにこわばりが生じます。すでに関節炎が起きている状態です。また、動き出した時に、ひざに痛みを感じるようになります。
 中期になると、階段を降りる際に痛みが出てきます。そしてひざに水が溜まるようになります。また正座ができなくなります。
 末期になると脚が曲がってくることがあります。人間はひざの内側に体重の6割以上をかけて歩いていますので、内側の骨の軟骨が削れていきます。これにより、いわゆるO脚になります。また、ひざが完全には伸びなくなります。角度でいうと度以上伸びなくなったら、完全に末期状態といえます。

ひざの痛みと疾患

初・中期は保存療法を検討末期では手術が選択肢に
 初期から中期にかけては、運動療法や装具、ヒアルロン酸注射など、保存的な治療法を用いて、状態の改善を目指します。末期段階では、日常生活に大いに支障をきたしているケースが多く、人工膝関節置換術や骨切り術といった外科的治療を検討します。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(人工膝関節置換術、骨切り術)
治療法
変形性膝関節症
 初期段階の症状では、レントゲンとMRIを使用して患部を確認し、状態に応じてさまざまな保存療法を行うことで、ひざの痛みを緩和することが可能です。
 運動療法では、主に大腿四頭筋などの膝関節周囲の筋肉を強化するトレーニングを行います。膝関節は日常的に非常に大きな負担を受けるため、筋力の向上が必要です。また、関節の可動域や柔軟性を向上させるストレッチも効果的です。
 ひざの治療方法には、ひざ用のサポーターを装着する装具療法や、患部を温めたり電気刺激を与えたりする物理療法があります。さらに、適切な靴を履くことも重要です。靴の中敷きを変えるだけでも、歩行中の足の裏の接地方法が変わり、ひざの痛みが軽減されることがあります。
 ヒアルロン酸の関節内注射は、薬物療法の中で広く使用されています。ヒアルロン酸は潤滑油として働き軟骨を保護する効果があり、半月板に軽微な損傷がある場合には、ヒアルロン酸の注入によって生着を促進することが期待されています。
 肥満の方は特に注意が必要です。なぜなら、ひざは体重の負荷が非常に大きい関節であり、体重の減量も重要な要素となるからです。
 いずれにせよ、保存療法を進める際には、自己判断せずに、医師や理学療法士の適切な指導を受けながら行うことが必要です。

治療法
変形性膝関節症/骨切り術
 日本人は、もともとO脚の傾向があり、それによってひざの内側の軟骨が摩耗し、さらなる負担がかかることで変形性膝関節症が発症することがあります。このような場合、骨切り術は、健康な軟骨が残されている側に体重をかけるように矯正する手術方法です。
 骨切り術には、高位脛骨骨切り術と遠位大腿骨骨切り術の2つの主な種類があります。また、高位脛骨骨切り術には、楔状(けつじょう)開大型骨切り術や楔状閉鎖型骨切り術などのバリエーションがあります。楔状開大型骨切り術では、脛骨の内側に切れ込みを入れて拡張し、そのスペースに人工骨を挿入し、金属プレートやスクリューで固定します。楔状閉鎖型骨切り術では、脛骨の外側に楔型の切り込みを入れて変形を矯正します。手術方法を選択する際には、主治医とよく相談してください。
 骨切り術の利点は、手術後にリハビリを行い、回復した後はほとんど制限なく日常生活を送ることができることです。スポーツも無理なく行え、さらに衝撃の強いコンタクトスポーツも可能です。
 この術式を実施するためには、ひざの軟骨がある程度残っていることが必要条件です。したがって、変形の状況が初期から中期の患者が主な対象となります。
 一般的に、骨切り術後には2〜3カ月で労働、6カ月でスポーツ活動に復帰することができます。ただし、患者さんの骨の質によっては、術後1〜2カ月、杖が必要になる場合もあります。

治療法
変形性膝関節症/人工膝関節置換術
 関節の重度の損傷によって保存的な治療が難しい場合、人工膝関節置換術という手術によって関節を人工のインプラントに置き換えることができます。この手術には、全人工膝関節置換術(TKA)と人工膝関節単顆置換術(UKA)の2つの方法があります。
 前者は広範囲に軟骨が摩耗した場合、傷んだ大腿骨や脛骨の表面を削り取り、関節全体をインプラントで置き換えます。後者は関節内の内側または外側の摩耗した部分のみを取り除き、人工関節で置き換える方法です。どちらの方法も、一度の手術で痛みや動作が改善され、自然なひざの動きが回復することが期待されます。
 最近では、筋肉や皮膚に負担の少ない低侵襲手術として知られるMISが増えており、その結果、患者の早期社会復帰がより向上しています。
 術後のリハビリテーションは、通常は術後の翌日から開始されます。一般的には2〜3週間ほどで、階段の上り下りが一歩一歩できるようになれば退院が可能です。退院後は、2カ月間のリハビリが推奨されます。その後は、テニスや水泳などのスポーツも可能ですが、ラグビーのような接触スポーツは避ける必要があります。
 退院後のケアについては、現在使用されているインプラントは約35年の耐用年数があるといわれています。しかし、そのインプラントの土台となる骨が骨粗鬆症などで弱くなると、地盤沈下のリスクが生じます。そのため、定期的な検診を年に一度は受けることが必要です。

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半月板損傷

衝撃を吸収し関節を安定させる役割
 半月板損傷は、ひざ関節の大腿骨と腓骨の間に存在する左右両側のCの形をした組織である半月板が、外部からの衝撃や圧力によって傷つく状態を指します。この状態では、痛みや腫れが生じるだけでなく、ひざを曲げたり伸ばしたりする際に、違和感を覚えることがあります。進行すると、ひざに水がたまったり、急にひざの可動範囲が制限されたりする、「ロッキング」と呼ばれる状態になることがあります。この状態では、歩行が困難になるほどの激しい痛みを感じることがあります。
 半月板損傷は、スポーツや交通事故などで、ひざに強い負荷がかかることが原因として考えられます。また、半月板は加齢によって変性するため、歳以上になると軽微な外傷でも損傷が起こりやすくなります。
 さまざまな形態が存在し、変性断裂、水平断裂、縦断裂、横断裂の4つに分類されます。放置をすると、損傷の状態によっては関節軟骨への損傷が進行する可能性もあります。
一般的に手術治療の場合は関節鏡下手術が実施される
 部分的に損傷した不全損傷の疑いがある場合、半月板は X線写真では視覚化されないため、 MRI検査によって状況を確認します。
 治療法として、以下のような方法が一般的に用いられます。
 まず、テーピングなどによる固定や患部の安静化が行われ、同時に抗炎症剤や鎮痛剤の投与が実施されることがあります。また、関節内にヒアルロン酸を注射するなどの保存療法も行われます。
 しかし、保存療法による改善が見られない場合や症状が重篤な場合には、手術による治療が検討されます。損傷半月板を切除してしまうと変形性関節症が進行するため損傷箇所を糸で縫い合わせる縫合術が主流です。手術は一般的に内視鏡を用いた関節鏡下手術が施されます。
 治療を受けた後でも、再発のリスクがあるため、スポーツなどの活動時には注意が必要です。
 また、関節周囲の筋力を強化し、関節の柔軟性を向上させることで、ひざへの負担を軽減することができます。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(関節鏡下手術)

靭帯損傷

スポーツや事故に限らず日常の動作も要因となる場合も
 ひざ関節には、前十字靭帯、後十字靭帯、外側副靭帯、内側副靭帯の4つの靭帯が存在します。これらの靭帯は、ひざの正常な運動をサポートする役割を担っています。スポーツや事故などにより、ひざに大きな力がかかると、これらの靭帯が損傷を受ける可能性があります。
 受傷後、急性期(受傷からおおよそ3週間)では、痛みや可動域制限が現れ、関節内での腫れ(関節内血腫)が目立つことがあります。急性期を過ぎると症状は軽減されますが、徐々にひざの不安定感が増してくることもあります。放置すると、半月板や軟骨に損傷が生じ、慢性的な痛みや腫れに悩まされる可能性があります。
 日常の動作中、例えば、段差を踏み外したり、踏み台から降りたりすることで、靭帯損傷を引き起こすことがあります。このような損傷は、しばしば放置されることがありますが、異変を感じた場合はできるだけ早く医療機関を受診することが重要です。
異なる靭帯の損傷に応じて優先される治療方法が異なる
 内側側副靭帯と外側側副靭帯の損傷は、初期段階では保存療法によって治癒することが期待できます。保存療法では、痛みのない範囲内でサポーターを装着し、可動域訓練を実施します。また、筋力低下を防ぐために、筋力トレーニングを行うことも重要です。
 保存療法後に不安感が残った場合は、手術治療が一般的です。手術には、靭帯を修復する方法と、患者自身の腱を移植して靭帯を再建する方法の2つがあります。現在では、再建術が一般的です。再建術は、関節鏡を用いて低侵襲に手術を行うことができます。術後は、可動域訓練、筋力強化、リハビリテーションなどを行い、機能回復を促します。後十字靭帯のみが損傷している場合は、多少の緩みが残ってもスポーツ活動に支障を来さないことが多く、保存療法を試みることが推奨されます。
 前十字靭帯損傷の予防には、ウォーミングアップを十分に行い、怪我をしにくい動きを心がけることが大切です。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(再建術)

O脚X脚

生理的な変形と病的な変形の2つに大別される
 O脚・X脚は、下肢の形態的な異常を指す言葉です。初期段階では外見上の異常が見られるだけですが、進行すると痛みや機能の制約を引き起こす可能性があります。ほとんどの場合、O脚・X脚は幼少期に発見されますが、青年期にも症状が現れることがあります。
 O脚とは、両ひざが外側に曲がっている状態で、左右の内くるぶしを揃えても、両ひざの内側が触れ合わない状態を指します。
 X脚とは、両ひざが内側に曲がっている状態で、左右のひざの内側を揃えても、左右の内くるぶしが触れ合わない状態を指します。
 原因は、生理的な変形と病的な変形の2つに大別されます。一般的に、乳幼児のひざは生理的にO脚の形状をしており、歩行が始まると徐々に外反していきます。そして、2~6歳の間には逆にX脚の傾向を示すようになります。その後、外反はやや減少し、7歳くらいになると成人の下肢形態に近い形状になります。この生理的な変化は左右対称に起こり、痛みや機能障害などは伴いません。
 O脚またはX脚の原因としては、靭帯の異常、半月板損傷、先天的または後天的な大腿骨や脛骨の形態異常、外傷後の変形などがあります。片側のみが変形する場合は、それが病的な要素によるものであると判断されます。
変形が大きく進行した場合は手術による治療が必要
 生理的なO脚・X脚と診断された場合、自然に改善する傾向があるため、治療の必要はありません。
 一方、病的な原因による場合は、保存療法または手術による治療のいずれかを選択することがあります。
 O脚やX脚が進行した場合、手術が必要となります。一般的には、下肢の形態異常を矯正するために骨切り術が行われることがあります。
 6歳以降において、顕著なO脚やX脚が見られる場合は、ひざ痛の引き金となる可能性があります。さらに、将来的には変形性膝関節症を発展させる可能性もありますので、これらの問題を改善するために矯正が推奨されています。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(骨切り術)

整形外科の名医349人 ひざ疾患編

※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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