【疾患センター解説】男性の4人に1人が生涯に一度は罹患。年間12万件の修復術が施行 鼠径・腹壁ヘルニアセンター

【疾患センター解説】男性の4人に1人が生涯に一度は罹患。年間12万件の修復術が施行 鼠径・腹壁ヘルニアセンター

ヘルニアとは腸などのお腹の中の内容物が、腹壁の欠損部(脆弱となった部分や間隙)を通じて、飛び出す状態をいいます。腹部のヘルニアのうち、80%は足の付け根に起きる鼠径ヘルニア、いわゆる脱腸です。それ以外にも、外科手術創部に起こる腹壁瘢痕ヘルニアなど、様々な種類があります。腹部ヘルニアは病気というより、体の構造的な問題で、自然治癒は期待できません。当院のヘルニアセンターは複数ある臓器別グループや診療科、職種をまたぎ、各スタッフが多角的な視点でヘルニアを診断、治療しています。
鼠径・腹壁ヘルニアセンターとは
術式の選択や麻酔方法など、患者の状態に応じた手術が可能
安心して周術期を過ごせるようサポート
鼠径ヘルニアは男性の4人に一人が生涯に一度は罹患するといわれています。日本では年間12万件のヘルニア修復術(2017年)が施行されており、非常に一般的な疾患です。今後社会の高齢化が進むと、病因に加齢変性的な側面もある鼠径ヘルニアの頻度は増加すると考えられます。様々な併存症をお持ちの患者さんがヘルニアに罹患するケースが増えることが予想されます。
当院は、ナショナルセンター唯一の総合病院です。これまでの専門的な医療の経験を活かし、ヘルニアのような一般的な疾患に対しても安心・信頼頂ける医療を提供するために、2018年に鼠経・腹壁ヘルニアセンターを立ち上げました。その特色は、まず臓器別グループを跨いだ専門の異なる外科医によるメンバー構成により、鼠径部ヘルニアのみならず、腹壁瘢痕ヘルニアや傍ストマヘルニアなどすべてのタイプの鼠径部・腹壁ヘルニアに対応ができることです。腹腔鏡手術などの術式や、麻酔方法の選択も、あらゆる方法が選択可能です。患者さん一人ひとりの状態に即した手術を提案できます。総合病院であるため、あらゆる診療科が設置されていて、重度の並存疾患を抱える患者さんも治療可能です。更に、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多職種からなる入院支援部門が、各患者さんのリスクの評価と安全性を担保しながら、安楽に周術期を過ごせるようにサポートしています。

鼠径ヘルニアについて

鼠径ヘルニアの発症と原因
慢性的に圧力が加わる鼠径部が加齢で脆弱化して発症
嵌頓(かんとん)は早めの治療が必要
鼠径ヘルニアを発症する原因は、先天性(生まれつき)と後天性(生まれた後に発症する)があります。先天性の場合、生まれたときからヘルニア嚢が存在し、乳児期から鼠径ヘルニアを発症してしまいます。後天性の場合、立ったり座ったりという慢性的な鼠径部への圧力に加え、加齢による腹壁の脆弱化で鼠径ヘルニアを発症します。
鼠径ヘルニアの診断は、問診と触診で特徴的な腫れや症状を確認できれば、多くの場合、診察のみで診断できます。症状が腫れだけの場合もありますが、痛みや、まれに、飛び出した腸管が戻らなくなる嵌頓を来すと、腸閉塞や腸管壊死の原因になることもあります。
自然治癒は期待できないため、治療の基本は手術になります。嵌頓は早めの処置が必要です。手術のリスクは大きくないので、症状のある方は、診断後の手術をお勧めします。

主なポイント

治療法について
鼠径部切開法と腹腔鏡下修復術
人口の膜で腹壁の隙間に蓋をする
鼠径ヘルニアの最近の手術は、お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術がよく行われます。手術の傷は小さく、1〜2日で退院できます。下腹部の手術歴がある患者さんなど、腹腔鏡手術のリスクがある方は、鼠径部を4〜5㎝切開する手術をします。
手術時間は鼠径部切開法が約30〜40分、腹腔鏡下修復術は1時間半程度で終了します。いずれの方法でも、人工の膜で腹壁の隙間に蓋をするのが基本です。丁寧でしっかりとした手術をすれば、再発などの合併症のリスクは非常にまれです。
患者さんは退院した直後から普段通りの生活が送れます。しかし、激しい運動や重い物を持つ動作は控える事をお勧めしています。
鼠径ヘルニアの手術は、がんなどの悪性疾患の手術に比べ、ほとんどの方が1回の手術で治療が完結します。そのため、手術が終わり、時間が経過すると、多くの患者さんが、鼠径ヘルニアを患い困っていたことや、手術を受けたことさえも忘れてしまっています。しかし、それこそが真に健康な医療の提供だと思います。
我々のセンターではこれからも、診察から手術まで丁寧で確実であることを心がけ、再発率、合併症ともに0%を目指します。

主な治療法

※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載
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