【消化器内視鏡の名医】わが国の消化器内視鏡手術を、けん引する「大圃組」 大圃 研

【消化器内視鏡の名医】わが国の消化器内視鏡手術を、けん引する「大圃組」 大圃 研

大圃研医師率いるNTT東日本関東病院消化管内科は、わが国の消化器内視鏡手術を、けん引する存在。今号では「内視鏡の巨人」ともいうべき大圃医師から「大圃流」の特徴を何点か伺った。
オンライン受信相談で患者さんの手間を省いた
―NTT東日本関東病院は2020年8月からオンライン受信相談をスタートされました。最初は消化管内科のみでしたが、どのような意図で始められたのでしょうか。
 患者さんの手間を省きたいという気持ちですね。以前からセカンドオピニオンを求めて遠方から訪れる方が多かったんです。ただ、消化管内科の場合、わざわざ来ていただかなくても地元の医療機関で撮影した写真を見るだけで、おおよそ適応かどうかがわかります。
 がんは基本的に粘膜(表面)で発生し、徐々に根が深くなっていきます。一般的に、がんの浸潤が粘膜下浅層にとどまっている早期がんは内視鏡で対応できますが、粘膜下層を超えて筋層まで到達した進行がんは内視鏡治療では難しい。
 オンライン受診相談で「内視鏡でいけそうだ」と判断できた場合に限り、実際に来院していただくことにしました。

オンライン発信

検査の段階で施術をシミュレーション
―ずばり「大圃流」の特徴を何点か教えて下さい。
 1つ目は患者さんのスケジュールに問題がなければ「今週診察・翌週治療」を実行してきたことです。来院に際し予約制は取っていません。来院された方は何時になるかわかりませんが、何が何でも、その日に診察します。
 検査で、がんかもしれないと知ったのに1カ月も2カ月も先の予約しかとれなければ不安で仕方がない。「今この時に受診し、治療を受けたい」という患者さんの気持ちに応えたいのです。最短で初診から2週間後には治療が終わって退院というケースもあります。
 2つ目は事前の内視鏡検査です。他の部位にも病変ができていることも多いので、状態を確認します。この時点で内視鏡で切除できるのか、どのようなアプローチで切除するのか、手術に、どのような器具が必要なのかといったことを考えながら検査を進めます。
 私は「下見内視鏡」と呼んでいます。検査段階で施術のシミュレーションを行っている。患者さんの麻酔のかかりやすさなども検査時に把握します。検査段階で、あらゆる事態を想定することで、本番で落ち着いて治療に集中することができるのです。
 3つ目は手術のスピードですね。時間は絶対に大切で、強いこだわりでもあります。治療成績と合併症の割合に影響がでないのであれば術時間は短いに越したことはありません。麻酔の量もトラブルも少なくなる。なにより患者さんの負担が違います。
 術中の出血も少ないほうが望ましいのですが、そのために慎重になりすぎて時間をかけることはベストではありません。内視鏡治療に限ったことではありませんが、患者さんにとってのベストを目指すべきです。
 4つ目は食道、胃、十二指腸、大腸と消化器のすべてを対象としていることです。大学病院などでは、どうしても食道などの上部班、大腸などの下部班と分かれています。私どもは全臓器をやっていますから、着実に治療のスキルが上がっている。単純に手術件数も多くなりますし、上部・下部の両方をやることで見えてくるものもあります。
 全臓器合わせての手術件数は1週間平均20件。年間で約1000件に達します。私は、そのすべての症例に必ず立ち会っています。1チームで、すべての臓器を対象にし、それぞれの臓器で日本で五指に入る治療実績がある施設は、まずないと思います。
 難易度が圧倒的に高いのが十二指腸。到達が難しいし、壁が薄く、合併症のリスクもあります。一般的な医療機関では、なかなか対応できないので、関東はもちろん、関西や西日本の医療機関からも紹介を受けることが多い部位ですね。
同じスタイル・考え方をチーム全員で共有
―先生のチーム運営のコツを教えて下さい。
 私はチーム医療には飛びぬけた才能は必要ないと思っています。同じスタイル、同じ考え方、同じルールをチーム全員で共有して1つの軍団として取り組んでいかなければなりません。野球やサッカーのチームによくいる、一人のスーパースターは要らないのです。
 特別な一人に頼ってしまうと、その人がいなくなった時に立ち行かなくなります。特別であることより自分自身もピースの1つになることが大事です。私がいる日にエキストラな検査が入れば他の人にやってもらうのではなく、自分でやります。「あいつは打つけれど全然守備はしないよね」ではダメなのです。
―先生にしかできない技術があると思いますが、それを教えるために、どのようにされているのでしょうか。
 「言語化できること」がキーになっています。私は自施設で内視鏡の指導を受けたことがありませんESDも自分で学び、つくりあげてきました。そのため他の人の考え方も取り入れましたが、盲目的に受け取るのではなく、自分の中で消化し、理解した上で取り込んできました。
 伝えることにも全力で取り組んできました。チームにはもちろんのこと関係者、患者さんにも話し、ありとあらゆる部署の人にも繰り返し話して伝えてきました。病院中のすべての人に私たちのことを理解してもらい、円滑に業務を回すためです。周りの人から「先生と話していると、気がつくと『うん』といってしまうから、『ダメダメ、おかしい、また騙されている(笑)』と自分に言い聞かせている(笑)」といわれることもあります。分業して任せるところは任せて効率化もしてきました。それでも必ず顔は出します。
 新型コロナウイルス感染症に対しても院内に対策本部ができる前に動きました。不足する資材が予想できたので、率先して収集しました。例えばガウンは給食の割烹着でも代用が利くだろうと判断し、某通販サイトで、スタッフの分まで買い集めました。スタッフの働く環境を守るのが自分の責任ですし、患者さんが来られる以上、業務は続いていく。上の決裁を待ってはいられませんでした。
オンラインサロンをスタート 手術動画を無料で発信
―そのエネルギッシュな行動を支えている原動力はなんですか。
 患者さんが喜んでくださることが何よりもモチベーションになっています。合わせて長年一匹狼でやってきた自分を選んで師事してくれる後進たちの存在です。その人たちが自慢できるような上司でありたいし、「大圃のところへ来てよかった」と思ってもらえるようにしたいですね。
 後進の育成のためにも無料のオンラインサロンを開設しました。2020年8月に始め、手術動画中心に100本ほどアップしました。世界中から「トレーニングを受けたい」という要望をいただいているのですが、コロナ禍で、それもままならない。そこで動画で発信することにしました。動画の教科書にしたいと考え、本格的に撮影設備も買い込みました。もちろん自腹です(笑)
ロシアのトレーニングコースのメンバーと。カザフスタン、ウクライナからもやってくる。
※『名医のいる病院2022』(2021年10月発行)から転載
※【ARCHIVE】とは、好評を博した過去の書籍記事を配信するものです
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