医療新聞 編集部2024年2月29日11:29
投稿日: 2024年2月29日 12:00 | 更新:2024年2月29日11:29
豊富な心臓手術を手がけ低侵襲手術の第一人者でもある
南淵明宏医師は、我が国でも屈指の著名な心臓外科医だ。国立循環器病センターなどに勤務したのち、30歳のとき、オーストラリアに渡って腕を磨いた。帰国すると、首都圏の民間病院を中心にメスを振るった。これまでに執刀した心臓手術は8000例以上。勤務していた民間病院で、「成人の心臓の手術件数日本一」という記録を打ち立てたこともある。手術創が小さく、手術時間も短い「midCABG」という低侵襲手術では、第一人者と目されている。現在では、昭和大学横浜市北部病院の教授として成人の心臓手術を数多く手がけ、後進の指導にも当たっている。
今でも南淵医師のもとには、心臓手術を希望する患者が、全国から押し寄せている。心臓手術では圧倒的な実績があるうえ、メディアに頻繁に取り上げられている効果もあるのかもしれない。しかし、南淵医師がこれほど患者を引きつけるのは、大きな理由があるという。
いつまでも続く患者との関係性
理由の一つは、南淵医師と患者の結びつきの強さ。南淵医師をかかりつけ医としている、いわゆる「ロイヤルカスタマー」が非常に多いのだ。例えば、「孝心会」という患者会がある。南淵医師の心臓手術を受けた患者が会員で、会員数は一時1000名を上回った。心臓外科医としては稀なケースだろう。
「心臓外科医は、一度執刀したらそれでおしまいというケースが多いようです。心臓外科医の大半は、患者さんが退院した後、普通は地元の循環器内科医などに引き継ぐようですが、託された医師も患者さんもあまりハッピーではなさそうなケースが大多数。検査の結果が安定していても、患者さんの心中の『不安』という怪物はなかなか消えないのです」。患者同士にも当然、ネットワークがあり、評判は口コミで広まる。新しい患者が、我も、我もと南淵医師を訪れるのもうなずける。
南淵医師は、「心臓外科医だって料理人や美容師といった職人と一緒なんです」と言い切る。医療の標準化が叫ばれているが、南淵医師によれば、「手術は究極の個別化医療で、永久に変わらない」。なぜなら、「手術はすべてがオーダーメード。同じ術式でも、外科医が10人いれば、10通りのやり方があります。患者さんも十人十色。一つとして同じ手術はない」からだという。
「心臓外科医も一人ひとりがブランド・アイデンティティを持つべき」と、南淵医師は主張する。心臓外科医が指名制になるのも、自然な流れかも知れない。「どこの製造元でも、どこで買っても同じ品質の商品をコモディティ商品と呼びますが、心臓外科手術はそんな商品ではまったくあり得ないのです」
患者の不安を解消する一助としての徹底した情報開示
患者が集まるもう一つの理由は、徹底した情報開示だ。例えば、南淵医師は、自分の手術の様子をビデオに収め、術後に「記念に」と言って、そのデータを患者に贈っていたそうだ。手術をビデオで撮影する医療機関は今や珍しくないが、動画を患者にも渡すのはレアケースと言っていいだろう。「まわりからは無謀だと言われましたが、私は手術ではベストを尽くしているので、自信がありますし、患者さんの前で隠し事はしなくなかったのですね。でも、それが結果的に信用につながり、患者数はどんどん増えていったのです」
南淵医師に、名医の条件について質問すると、「手を尽くして患者さんを安心させ、全幅の信頼を得られる医師でしょう」という答えが返ってきた。
「企業はお客さんの悩みの解消、ソリューションによって事業が成り立っています。お客さんを患者さんに置き換えれば、医療機関も企業です。患者さんはとにかく不安だから医療機関を受診するわけです。心臓病なんて不安の最たるものでしょう。医療機関の最大のミッションは、そうした不安の解消にあるはず。手術はその手段に過ぎません。私は『もう一生大丈夫です。私に任せてください』『いつもやってる簡単な手術です。やられる方はたまったものではないでしょうが……』などと放言します。患者さんからは必ず笑顔が返ってきます」
確かな技術があり、実績も豊富という前提が必要ではあるだろうが、「リスクを恐れずにメスを入れる度胸があること」という条件も付け加えた。現在は将来を担う心臓外科医の育成に全力投球中だ。若手の外科離れは深刻で、心臓外科はその最たるもの。「心臓外科の志望者を増やすには憧れの存在、ロールモデルが必要です。そのためには私たち現役が頑張らないと。チャレンジングで、やりがいも大きい。医療界に新風を起こしたいですね」と意気込む。
昭和大学横浜市北部病院循環器センター心臓血管外科 教授
南淵 明宏(なぶち・あきひろ)
1983年、奈良県立医科大学医学部医学科卒業。国立循環器病センター研修医ののち、オーストラリア、シンガポールへ留学。帰国後、新東京病院心臓血管外科科長、湘南鎌倉病院 心臓血管外科部長、大和成和病院に心臓血管外科を立ち上げ、その後院長、大崎病院東京ハートセンター センター長などを経て現職。
※『名医のいる病院2019』(2018年10月発行)から転載
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