【連載:在宅医療 北から南から】002 中野 一司(鹿児島)第1回

【連載:在宅医療 北から南から】002 中野 一司 先生(鹿児島)第1回

2025年問題が迫る中、高齢化が加速し、在宅医療が重要な時代となっています。本連載では、在宅医療の現状、課題、未来を伝えることをテーマに、実際の現場で活躍されている医療従事者の皆さまに、明るく、楽しく、わかりやすく語っていただき、在宅医療の認知浸透を図るとともに、在宅医療を検討したい患者様とそのご家族様に、在宅医療を知っていただくことを目的にしています。
2人目は鹿児島で1999年に訪問診療を専門とする「ナカノ在宅医療クリニック」を開業され25年にわたって在宅医療に従事されている中野 一司 先生です。
3回にわたるシリーズの1回目は背景編として、医師になったきっかけ、在宅医療に進まれた理由についてお聞きしました。
薬学部から医学部、そして在宅医療へ
—お生まれ、学生時代について教えてください
生まれも育ちも鹿児島で、大学は東京理科大の薬学部に通っていました。予備校も含めたら、6年ほど東京で生活しています。
西郷隆盛
(イメージ画像)
—そこから医学の道に進まれますが、そのきっかけは
元々学問、研究が好きなので、東京理科大卒業時に大学院に進もうと思っていたのですが、医学部受験に(合計7回)失敗した未練を断ち切るために受けた鹿児島大学医学部にたまたま合格したのがきっかけです。
そのまま医学部に進学して、医学の研究者を目指すつもりだったのでしょうか?
しっかり研究して、アメリカに行って、ノーベル賞を取ろうと思っていました(笑)。
ただ、実際に医学部に入ってみると、みんな研究をやっていて、でもちょっと私の方向性とは異なっていて、研究への熱が冷めてしまい臨床医になろうと思いました。
—そして、臨床医から在宅医療に邁進されます
でも、僕は論文を書くのが好きな研究者なんですよ、すごく学問が好きです。学問が好きだから、最初は医学部に通らなかったんですね(笑)。受験勉強に馴染まないでしょ。物事考えるとね、試験の点数取れなくなっちゃうんですよ、それがこの年になっても続いてるような感じがしますよね(笑)。
鹿児島大学病院では臨床検査部に所属していて、診療に加え、検査部システムのSEのようなこともやっていたので、在宅医療に進んで、在宅医療のICTによる地域ネットワークを作ろうかなとも思って開業しました(僕にとっては地域を研究所にしたある種の実験でした)。
もう25年以上前ですけどね。
多分、僕が思っていた構想がそのまま今回の診療報酬改定になったような感じですね(笑)
で、開業時は、元々、救急医療をやっていたこともあり、バリバリ在宅医療をやろうと思っていたんですが、在宅医療の現場に入って、治す(キュア)だけじゃなくて支える医療(ケア)の大切さに気づきました。
開設理念と目標
「ナカノ在宅医療クリニック」
開設理念と目標
村田先生の「苦しみの構造」から
—先生が提唱する「ナカノ理論」は村田先生の「苦しみの構造」が起点になっているとのことですが、まずは「苦しみの構造」について教えてください
村田理論はきわめてシンプルで、“苦しみの構造”は、その人の客観的状況と、主観的な想い・願い・価値観のズレから生じる、としています。
そして、そのズレを解消するためには対人援助をしなさいと。傾聴、相手の苦しみを聞きなさいと村田先生は言われています(“苦しみの構造”のケア概念)。

 

改訂増補 ケアの思想と対人援助
終末期医療と福祉の現場から
(村田 久行 (著))

 

苦しみの構造
—次に、ナカノ理論について教えてください
村田先生は対人援助が必要と言われていましたが、客観的な思いがベースの従来の治療「キュア概念」を優先したキュア志向の医療である“病院医療”に対して、主観的な思いがベースの生活「ケア概念」を優先したケア志向の医療である“在宅医療”という新しい医療概念を提唱したものになります。
在宅で不必要な治療「キュア」をしない、過剰な治療を控えるのが在宅医療であり、在宅医療において、何が必要な治療「キュア」で何が不必要な治療「キュア」なのかは、患者、家族と話し合い(ケア概念)のうえ、個別に対応すべき問題という考えになります。

 

問題の構造(ナカノ理論)
村田先生の「苦しみの構造」から僕が持っていた違和感が解消されて、「ケア」というキーワードで言語化できると考え、16年間ずっと温めていて完成したのが以下の書籍になります。

 

在宅医療が日本を変える
在宅医療が日本を変える
― キュアからケアへのパラダイムチェンジ ―
(中野 一司 (著) )

 

続・在宅医療が日本を変える
― キュアからケアへ そして ケアからキュアへのパラダイムシフト ―
(中野 一司 (著) )
—2回目は現在編として、開業25年を迎える「ナカノ在宅医療クリニック」の今や「鹿児島」の特色について語っていただきます。
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