早期の発見なら、有効な治療法がある 脳梗塞

国立循環器病研究センター 副院長 脳血管部門長 豊田 一則(とよた・かずのり)

脳の血管が詰まることで、命を脅かす疾患が脳梗塞です。症状が出たら速やかに救急車を呼びましょう。生命に異常がなくても、重い後遺症が懸念されます。早期ならば、有効な治療法があります。
疾患の特徴
30~40代でも発症するケースが増加
 脳卒中(脳血管障害)とは脳内の血管が詰まったり破れたりする病気です。
 それらの障害の中でも、脳梗塞は脳の血管が詰まって起こる疾患です。脳は血管が詰まると、血液が供給されなくなり、脳細胞が壊死します。命をとりとめても、手足の麻痺、言語障害などの後遺症が心配されます。
 脳梗塞は3種類に大別されます。
 1つ目に脳に深く入り込む細い血管が詰まるラクナ梗塞があります。2つ目のアテローム血栓性脳梗塞はコレステロールの塊が脳主幹動脈や頸動脈といった太い血管に詰まることで、起こります。3つ目が心原性脳塞栓症です。心臓内でできた血栓が脳に流れ着き、血管を詰まらせてしまいます。中高年以上に多い疾患ですが、30~40代で発症するケースが増えてきました。
 脳梗塞は早期の診断と治療が大切です。発症時に異常が現れる顔(Face)、腕(Arm)、言葉(Speech)と、発症時刻(Time)を注視するよう、それらの頭文字を組み合わせた標語「FAST」を提唱しています。症状を1つでも見つけたら速やかに救急車を呼びましょう。
 一時的に現れた症状がすぐに消失する「TIA」(一過性脳虚血発作)も注意すべきです。脳梗塞の予兆である可能性が高いからです。放置せず、専門の医療機関を受診してください。

 
ここがポイント

主な治療法
過去に脳に異常、発症なくても定期的な検査を
 脳梗塞の予防は健康的な生活が基本です。高血圧や脂質異常症、糖尿病の予防・改善を目指しましょう。バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠をとるなど、生活習慣の見直しも大切です。
 過去に脳や脳血管の異常が指摘されていた場合、症状がなくても、定期的な検査をお勧めします。
 脳梗塞の予防薬は主に2つです。動脈硬化が原因のラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞には抗血小板薬。心房細動などの心臓病が引き起こす心原性脳塞栓症には抗凝固薬が有効です。
 脳梗塞は発症後、迅速に治療できるかが大変重要です。主な治療法に静注血栓溶解療法があります。これは詰まった血栓をt-PAと呼ばれる薬剤で溶かす治療です。次に、足の付け根など体幹部の動脈からカテーテルを挿入して血栓を直接取り除4.5時間以内、血栓回収療法は6時間以内の実施を定めていました。しかし、2021年に脳卒中治療ガイドラインが改訂され、頭部MRI検査などの画像解析の結果次第で、発症時刻不明例にも血栓溶解療法が行えるようになりました。血栓回収療法は、患者さんの条件によっては発症から24時間以内まで、行えるようになりました。このほか、脳梗塞の治療として、脳のむくみを抑える抗浮腫薬や、血の固まりを防ぐ抗凝固薬などを使用することもあります。
 もちろん、いずれの治療も脳組織の損傷を抑えるために、できるだけ速く実施する必要があります。ガイドライン改訂により、さらに多くの患者さんが治療を受けられるようになったのは大きな進展です。
 脳梗塞は治療後、運動麻痺や感覚障害、嚥下障害、高次脳機能障害など、さまざまな後遺症が懸念されます。後遺症の回復・軽減には、早期のリハビリが必要です。リハビリは運動機能の回復だけでなく、心理的・社会的な回復を目指すという役割もあります。一人ひとりの状態に応じたリハビリの実践で、スムーズに日常生活に戻れることが重要です。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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