【疾患の特徴と主な治療法解説】03 網膜硝子体疾患~重症例では失明のリスクも伴う

水晶体から入った光は硝子体を通って、網膜で視覚情報として脳に伝達します。密着する硝子体と網膜は相互に影響して、さまざまな疾患を引き起こします。
疾患の特徴
硝子体が網膜を引っ張り剥離させる
 外部の光は眼球の一番外側の角膜を通過し、水晶体で屈折、硝子体を通り、網膜上で像を結んで脳へと伝わり、視覚情報として処理されます。網膜の中心で視細胞が集中する場所を黄斑といいます。硝子体は、カメラのレンズに相当する角膜や水晶体と、フィルムの役割の網膜の間にあります。屈折した光を像に結ぶのに必要な距離は、この硝子体で確保されます。
 硝子体は眼球の約7割を占める透明なゼリー状の物質です。眼球内部の大半を占める硝子体は密着する網膜とも関係が深く、さまざまな疾患を起こします。
 硝子体は加齢と共にゼリー状から液状に変化します。この時、硝子体が網膜から離れると同時に、網膜が引っ張られ、網膜剥離を起こすことがあります。視野が欠け、視力が低下します。黄斑が剥がれると、失明することもあります。
 糖尿病の三大合併症のひとつに挙げられる糖尿病網膜症は硝子体に悪影響を与えます。網膜は薄い神経の膜で、無数の細い血管が密集しています。高血糖が続き、血管が詰まるなどした網膜は酸素不足を補おうと、新生血管を作ります。これを増殖糖尿病網膜症と呼びます。新生血管は硝子体に向けて伸び、血管の壁が破れ、硝子体出血を起こします。飛蚊症のほか、視力低下が現れ、さらに進行すると網膜剥離に至ることもあります。

発症部位

主な治療法
新生血管を抑制する抗VEGF薬治療
 糖尿病網膜症は初期(単純網膜症)の状態であれば、血糖のコントロールで改善を目指します。進行してくると、網膜から伸びた新生血管が硝子体出血を引き起こします。この新生血管が増殖し、成長する原因物質VEGF(血管内皮増殖因子)です。
 また、VEGFにより血管から水分が漏れて黄斑に浮腫が起こり、視力が低下します。そこで用いられるのが抗VEGF薬療法です。白目の部分から抗VEFG薬を硝子体に注射して、黄斑浮腫を抑制します。注射前に点眼麻酔をするので、痛みはほぼ感じません。
 硝子体注射とも呼ばれる抗VEGF薬療法は、その有用性から加齢黄斑変性、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、近視性脈絡膜新生血管、糖尿病黄斑症など多くの疾患治療に使用されています。

治療法の種類

新生血管の発生源をレーザーで熱凝固
 血管新生を抑制する方法として網膜光凝固療法(レーザー治療)もあり、新生血管の発生源となる網膜の組織を熱凝固します。新生血管が増えだす前(増殖前網膜症)の段階で使用するケースが多い治療法です。
 加齢や糖尿病網膜症の進行などによって起こる網膜剥離には、網膜に穴が空いて生じる裂孔原性網膜剥離と、穴の空かない非裂孔原性網膜剥離の2種類があります。穴が小さく剥離していない状態であれば、レーザー治療で進行を予防することもできます。
1mm以下の緻密な治療硝子体手術
 網膜が剥離している場合は手術が必要です。裂孔の大きさ、位置、進行度、硝子体出血の有無などを考慮し、術式は選択されます。
 裂孔原性網膜剥離に対する主な治療法として硝子体手術と強膜バックリング術があります。強膜バックリング術は硝子体が網膜を引っ張る力をゆるめます。眼球の外側に縫い付けたシリコンスポンジを網膜の外から内側へと押し付け、へこませます。外からの加圧で網膜は硝子体の方へ押し出される形となり、硝子体が網膜を牽引する力を弱めます。
 硝子体手術は手術顕微鏡を用いるマイクロサージェリ―(微小な外科治療)です。網膜をけん引して剥離を起こしている部分や、出血で濁った部分の硝子体を除去します。最初に白目部分に小さな穴をつ開けます。術中に眼球の形態を保つ目的で灌流液を入れる穴、眼内を照らす照明を入れる穴、硝子体を切除するカッターやレーザーを入れるための穴です。網膜を引っ張る硝子体を切除した後、気体を注入して、剥がれた網膜を壁に押し付けて復位します。
 以前は失明を防ぐ目的で主に行われていた硝子体手術ですが、現在では医療技術の進歩により、比較的安全性の高い治療ができるようになりました。そのために、黄斑疾患などの視機能回復にも適応を広げています。

その他の網膜硝子体疾患

※『名医のいる病院2023 眼科治療編』(2023年3月発売)から転載
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