手術の安定、化学療法の日進月歩で治療が進歩 膵がん

東京医科大学病院 副院長  消化器内科 主任教授・診療科長 糸井 隆夫(いとい・たかお)

膵がんは胃の裏側、体の深くにある膵臓から発生した悪性腫瘍です。自覚症状が少なく、早期発見が難しいとされています。近年では化学療法の進歩で、手術と組み合わせる集学的治療の成績が上がっています。
疾患の特徴
予後の悪い、難治がんとして悪名高い
 膵がんは自覚症状に乏しく、進行が早いため、早期の発見と治療が難しい難治がんとして知られています。早期の膵がんは、かなり精密な健康診断をしないと、見つけるのが困難です。具体的には、腫瘍マーカーを含む採血や造影剤を使用した精密なCT検査、MRI検査が必要になります。
さらに小さながんを発見するには、超音波内視鏡(EUS)が最も有用です。
 前述の検査で膵のう胞(液体の入った袋状のもの)が見つかれば、膵がんに進行しやすいIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の可能性があります。膵がんの中で多くを占める浸潤性膵管がんのうち、1割程度が膵のう胞からの発症とされています。また慢性膵炎のような膵疾患にも注意が必要です。 他にも膵がんの危険因子には、喫煙、肥満、糖尿病、家族歴などがあります。特に糖尿病を突然発症し、血糖値が急に悪化したら、膵がんが関係している可能性があります。また家族歴では二親等以内で膵がんになった親族がいると、数倍発症しやすいとされています。
 近年では超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を利用した針生検で確定診断します。膵がんの進行度は、腫瘍の大きさと広がり、リンパ節や他臓器への転移が基準の病期分類と、画像所見を中心に根治切除が可能かどうかを判断する切除可能性分類から評価します。

 
ここがポイント

主な治療法
治療は手術、化学、放射線の3本柱
膵がんの患者さんの半数は腫瘍を切除できない段階まで進行した状態で発見されます。こうした進行がんが大半のため、仮に手術を受けたとしても、術後の5年生存率は10〜30%程度でした。しかし、ここ10年の手術技術の安定や化学療法の日進月歩により、膵がん治療は大きく進歩しました。
 膵がんの治療も他のがん種と同様に、手術療法と化学療法、放射線療法が3本柱です。その中でも病変を完全に切除する手術療法は、根治に不可欠です。そのため近年では、切除ができるかどうかを目安として治療を進める「切除可能性分類」が提唱されています。
 病変を完全に切除する手術療法は化学療法の進歩により、実施できるようになりました。具体的には、ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法と、フォルフィリノックス療法という、複数の抗がん剤を一緒に使用する効果的な治療法(多剤併用療法)の登場です。これにより、膵がんの治療全
体が大きく変化しました。
 切除可能性分類において切除可能と判断されると、がんの位置・範囲に合わせた切除をします。膵頭部なら膵頭十二指腸切除術を、膵体尾部中心なら膵体尾部切除術と、まれに膵全摘術をします。切除可能境界の場合、まず化学療法を選びます。その効果を確認した後、多くは前述の手術をします。切除可能よりも進行した切除可能境界の状態でも化学療法をすることで、がんの縮小と根治切除率の向上が目指せます。また細胞レベルでの遠隔転移巣の根絶も期待できます。
 切除不能の場合、化学療法または化学放射線療法をします。まだ症例数は少ないですが、これらの化学療法で手術ができる程度まで、がんが縮小するケースもあります。
 手術後には、ごく早期でない限り、再発予防のための補助化学療法をすることが、従来の標準治療でした。それに対し、近年の臨床試験で、術前にも抗がん剤治療をする方が、予後が良いという結果になりました。そこで最近では、切除可能でも術前に化学療法をして、予後を改善する取り組みが進んでいます。また膵がんの一部に対し、鏡視下手術も保険適用になりました。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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