脈拍のリズムに異常が生じる 不整脈

東京医科大学病院 循環器内科 准教授 不整脈センター センター長 里見 和浩(さとみ・かずひろ)

心臓の脈拍が異常に速くなったり、遅くなったりする状態を指す不整脈。脳梗塞や心停止などの生命に関わる事態を予防するためには、適切な診断・治療が必要です。
疾患の特徴
脈拍の速度異常が他の疾患を招く
 不整脈とは心臓の筋肉を動かすために流れる電気信号が正しく伝わらなくなることで、脈拍のリズムが乱れてしまう状態です。大きくわけると、脈が異常に速くなる頻脈、遅くなる徐脈の2つがあり、その中でもさまざまな種類があります。
 頻脈を引き起こす疾患には、心房細動、心室頻拍、心室細動などがあり、多くを占めるのは心房細動です。心房細動は心房内で不規則な電気の流れが生じ、心筋が震えた状態になる疾患です。動悸や息切れ、めまいなどを伴うこともありますが、患者さんの4割程度は無症状。しかし心機能の低下で心不全を招くだけでなく、心房内に血流が滞留して生じた血栓が脳血管に流出して脳梗塞を招くこともあるため、予防が重要です。
 心室頻拍や心室細動では心室の収縮が極めて速くなります。特に心室細動は1分間に300回以上もの拍動が起き、突然死の危険性もあります。そのため発症時にはAED(自動体外除細動器)による電
気ショックで正常な脈拍に戻し、緊急搬送が必要です。
 一方、徐脈を引き起こす疾患には洞不全症候群や房室ブロックがあります。心臓からの血液量が減少し、めまいや息切れ、眼前暗黒感を起こすほか、失神を招くことも。特に房室ブロックでは、心房で作られた電気信号が心室に伝わらなくなり、心停止や心室細動に至る場合もあります。

 
ここがポイント

主な治療法
根治を目指してカテーテル治療も選択肢に
 不整脈の治療法は種類によって異なります。頻脈の中でも多くの割合を占める心房細動では、主に薬物療法や心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)が行われています。患者さんの年齢や症状の有無、進行度などから総合的に判断し、治療法を選択します。
 薬物療法では、心拍数を調整する抗不整脈薬やβ遮断薬、血栓を予防する抗凝固薬を主に用います。一方心筋焼灼術はカテーテルで、肺静脈の周囲などの心房内で異常な電気信号をブロックするように焼灼します。現在では治療のナビゲーションをCT画像に基づいて行う三次元マッピング技術や、カテーテルの先端と接する心筋にかかる圧力を数値化し、最適な出力・焼灼時間をリアルタイムに計算するシステムによって、非常に精密な治療が可能です。
 その結果、カテーテル治療の成功率は大幅に上がりました。心タンポナーデという、心臓に穴が空く合併症のリスクも抑えられます。そのため現在では発作性(発作が7日以内に収まる)心房細動への第一選択となり、持続性(7日以上〜1年未満続く)にも積極的に用いられます。
 他にも一度に広範囲を焼灼・冷却し治療するバルーンカテーテルもあります。さらに心房細動による脳梗塞を防ぐため、心房内で血栓が生じやすい左心耳を閉鎖するカテーテル治療も登場しました。
 心臓のリズムを整えるため体内に医療機器を植えこむデバイス治療も広く実施されています。徐脈へのペースメーカー、頻脈へのICD(植込み型除細動器)、心不全へのCRT-D(両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器)が代表的です。
 ICDは心臓の動きを監視し、心室頻拍・細動などの命に関わる不整脈が生じた場合、本体から心臓内に伸びるリード線からの電気信号や除細動によって、心拍を整えます。心臓内に機器だけを留置するリードレスペースメーカーや、リード線を皮下に留置するS-ICDなど、リード線に生じる不具合を抑えられる機種や、不整脈の有無を離れた場所にいる医療従事者が確認できる遠隔モニタリングも広まっています。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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