投稿日: 2024年3月24日 20:00 | 更新:2024年3月26日14:09
空気との接触を制限する実験に取り組んだ
スパランツアーニの実験から約1世紀後、フランスの化学者、ルイ・パスツールは有名な「白鳥の首フラスコ実験」を行い、自然発生説にとどめをさしました。
パスツールは空気中のチリの中にも微生物がおり、培養基にチリをつけると微生物が大量に発生することを知っていました。培養基にチリをつけないような工夫が求められました。
パスツールは1860年、肉汁を加熱して、細く曲げられた長い首を持ったフラスコ(白鳥の首フラスコ)に入れ、空気との接触を制限する実験に取り組みました。
空気は加熱せず、細い口を通してフラスコの中と自由に行き来できるようにしました。ただし、長い首を持っていますから、空気中のチリは首の曲がった部分に付着し、フラスコの中へは入っていきません。つまり、空気中のチリが肉汁とは接触できないようにしたわけです。
その結果、肉汁は腐敗しませんでしたし、微生物も増殖しませんでした。しかも空気は加熱していないので、いわゆる「生命のもと」を殺してもいません。
続けてパスツールは白鳥の首フラスコの首の部分を折ったり、無菌の肉汁を首の部分に浸した後、フラスコの中へ戻したりする実験を行ったところ、いずれも微生物が発生しました。
加熱していない空気は行き来できるものの微生物は増殖しなかったという結論は完全に自然発生説を否定しました。2000年に及ぶ支配的な考え方を完全に否定する重大な結論とあってパスツールの師匠であるデユマも加わった検証委員会が発足。実験を精査し、パスツールの正しさが立証されました。
科学革新は辛抱強い戦いを強いられる
これによって紀元前4世紀にアリストテレスが唱導して以来、2200年に渡る歳月、広く信じられてきた「自然発生説」の命脈が断たれました。「ガレノスの呪縛」を断ち切るのに1500年、「アリストテレスの支配」を打ち破るのに2200年。科学革新は辛抱強い戦いを強いられます。
※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載
【関連情報】