心臓の弁の異常でポンプ機能が悪化 心臓弁膜症

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長 渡邊 剛(わたなべ・ごう)

放置すると突然死や寿命を縮めるリスクが高まる疾患です。手術は主に2つあり、ひとつが弁を修復する形成術、もうひとつが弁を取り換える置換術。高リスク患者には低侵襲治療のTAVIやマイトラクリップなどを選択する場合があります。
疾患の特徴
心臓のポンプ機能の悪化で寿命を縮めるリスク
 全身に血液を送り出し循環させている心臓は、筋肉でできた4つの部屋に分かれています。それぞれにある4つの弁が、ポンプのように血液を一定の方向に送り出します。
 弁が開きにくくなる狭窄症と、閉じなくなり逆流する閉鎖不全症を、総じて心臓弁膜症といいます。心臓のポンプ機能が悪化し、全身に十分な血液が送れなくなります。
 初期の自覚症状としては息切れや胸の違和感、痛み、疲れやすさ、めまいなどが挙げられ、特に運動負荷がかかると症状が出やすくなります。進行すると動悸やむくみ、不整脈、心不全によって他の臓器機能を損ない、寿命を縮めます。脳梗塞のリスクも上昇し、放置しておくと命に関わります。また進行するほど心臓が弱くなるため、治療自体のリスクが上がり、完全な回復が困難になります。
 がんなどの他疾患と異なる点は、病状急変のおそれがあることです。弁の細菌感染で緊急手術が必要になるケースもあります。
 歩くと息が切れ、疲れやすいと感じたら、医療機関の受診をお勧めします。診断では聴診器で心雑音の有無を確認したのち、心臓超音波検査で弁と心臓の働きを詳しく調べます。さらに、レントゲンで心臓の拡大や肺のうっ血状態、心電図で不整脈を確かめます。ただ進行しても目立った症状
が出にくい場合もあるため、定期的な検診が重要です。

 
ここがポイント

主な治療法
標準治療の手術には弁置換術と弁形成術がある
 進行した心臓弁膜症に対する治療の中心は外科手術です。手術には異常のある弁を人工弁に置き換える弁置換術と、患者さん自身の弁の正常な部分を温存して修復する弁形成術があります。
 弁置換術は主に大動脈弁狭窄症に行います。人工弁は機械弁と生体弁の2種類。機械弁は半永久的に使えるものの、生涯にわたって抗凝固薬を飲み続ける必要があります。
 生体弁だと抗凝固薬の服用は3カ月程度で済みますが、10〜20年程度で弁の劣化による再手術が必要になることがあります。
 患者さんの手術時の年齢や、術後の生活スタイルを考慮して、どちらの弁を選ぶのかを決定します。
 弁形成術は主に僧帽弁、大動脈弁、三尖弁の閉鎖不全症に実施します。特に卓越した技術による僧帽弁形成は耐久性が高く、弁置換よりも心臓機能が回復すると注目されています。
 手術の進歩は近年著しく、高齢でも翌日には食事や歩行ができるまで回復し、早期の社会復帰が期待できます。
 外科手術では、胸骨を切らずに肋骨の間を4〜8cm切開するMICS(小切開低侵襲心臓手術)や外科治療用ロボット(ダビンチ)を用いて内視鏡手術を行えば、開胸リスクがなく、出血も少なく早期退院ができますが、できる施設が限られています。
 痛みを抑えて患者さんの負担を減らしたうえ、骨を切らないことで骨髄炎などの合併症を防止できます。それでも高齢で大動脈弁狭窄症の弁置換術だとリスクが高い場合、血管にカテーテルを入れて生体弁を留置する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)を行います。耐久性が懸念されますが、低侵襲で術後の回復は早く、普及しています。
 また僧帽弁形成術の実施にリスクがあるときには、カテーテルで弁を修復します(マイトラクリップ)。
 マイトラクリップ(経皮的僧帽弁接合不全修復術)とは、僧帽弁の逆流を軽減することが目的であり、開胸手術よりも低侵襲で、年齢や合併症のために手術を受けることが難しかった患者さんにも治療が可能となりました。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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