肩の痛みと疾患

全関節中、上下左右に最も大きく動かせる
肩関節は肩甲上腕関節といい、全関節の中で上下内外に最も大きく動かせるのが特徴です。腕の骨の上腕骨、肩甲骨から成り、大きな可動域を保つため、肩甲骨のスプーン大のくぼみに、その3倍大きい球状の骨頭が乗っかる構造です。このアンバランスを補強するため、筋肉や腱が周囲に複雑に張り巡らされています。肩関節の痛みは軽度から、激しい痛みが生じる慢性的なものまでさまざまです。症状が悪化すると、洗顔や食事、着替えなどの基本的な日常動作(ADL)を妨げる要因となります。


変形性肩関節症

加齢で軟骨が再生されず、肩関節炎を起こす
 変形性肩関節症は軟骨がすり減り、肩関節が変形した状態です。肩関節は通常、肩甲骨と骨頭、軟骨が整然と連結しています。長年使われ続けた肩関節は、連結部の骨頭と肩甲骨の軟骨が次第に摩耗します。軟骨は加齢に伴い、十分に再生されないので、肩関節炎を起こします。さらに、骨頭の軟骨が硬く骨化してとげ状になる骨棘形成が始まり、次第に肩関節が変形します。
 変形性肩関節症は原因が定かでない一次性と発症要因が明らかな二次性があります。一次性は骨格的な問題のほか、加齢変化、激しい運動、肉体労働などによる、肩関節への長年の荷重負荷が要因とされています。一次性の変形性関節症は、どの関節にも起こります。ただ、肩の場合、体重の影響は少ないが、関節のゆるさがその発生に関与しています。

肩を動かすと、ゴリゴリと関節が擦れる音
 二次性変形性肩関節症は腱板断裂、上腕骨頭壊死、関節リウマチ、上腕骨近位端骨折などが誘因となり、発症します。腱板断裂に伴う腱板断裂性関節症は高齢化社会の進行に伴い、その発生頻度も増加しています。上腕骨頭壊死による発症では、ステロイドやアルコールを大量に服用しているケースがみられます。
 症状は肩の痛みが最も一般的です。肩の可動域が狭まり、腕を上げたり、後ろに引いたりする動作が難しくなります。肩がこわばるようになり、関節の動きが制限される感覚を覚えます。関節が炎症を起こすため、肩に赤みや腫れができ、熱感を持つことがあります。また、症状が進むと、肩の筋力の低下が見られ、肩を動かすと、ゴリゴリと関節が擦れ合う音が聞こえ、振動を感じることもあります。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(人工肩関節置換術)
治療法
変形性肩関節症/リバース型人工肩関節置換術
 変形性肩関節症では肩関節の痛みや腫れ、肩が自由に動かせなくなる可動域制限を発症します。診断はX線検査で関節の隙間の狭小化や消失、骨が突き出す骨棘の形成、肩甲骨や上腕骨頭の変形などを調べます。より詳しく診るため、CTやMRIによる検査もあります。
 治療は初期の間は保存療法を選びます。薬物療法として、非ステロイド性消炎鎮痛剤を内服、消炎作用がある湿布剤の使用も考えます。夜間痛や強い痛みがあるなら、ステロイド剤やヒアルロン酸ナトリウムを関節内に注射します。
 保存療法で改善せず、日常生活の動作や活動に支障がある場合、手術的治療に進みます。
 主に人工関節置換術を選択します。摩耗した軟骨や損傷した骨を切除、金属やポリエチレン製の人工関節に置換します。肩甲骨関節窩の変化が少ない場合には、人工骨頭置換術を選択する事もあります。一方、腱板に損傷がある場合は、通常の肩関節の骨頭と受け皿を真逆に置換するリバース型人工肩関節全置換術を選びます。


肩腱板断裂

骨同士の接触面が安定せず、傷みや可動域制限を起こす
 肩関節は髪を洗う、背中に手を回す、ボールを投げるなど、他の関節に比べ、自由度が高く動けます。しかし、その構造は肩甲骨のスプーン大のくぼみに、その3倍大きい球状の上腕骨頭が乗りかかり、とても不安定です。肩の脱臼が珍しくないのは、そのためです。腱板は肩の骨の肩甲骨と腕の骨の上腕骨をつなぐ、棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋から成る板状の筋肉群です。上腕骨と肩甲骨の接触面を安定させて、腕を上げ下げしたり、回したりする際の、肩関節の安定性を保っています。
 肩腱板断裂は、その名の通り、肩腱板の一部、もしくは大半が損傷する疾患です。腕を動かす際、上腕骨頭を、肩甲骨の受け皿に対し、安定して保持できず、痛みや可動域制限が起きます。

野球やテニスなど肩を酷使すると、危険性が高い
 腱板断裂は部分的に損傷した不全断裂、完全に断裂した完全断裂に分かれます。断裂の原因で分けると、重い物を持ち上げるなど、瞬間的に強い力(外傷)が加わって断裂した外傷性断裂、日常生活で肩に慢性的に負荷があり、徐々に断裂する変性断裂があります。野球やテニスなどの肩を使うスポーツは腱板断裂を起こす可能性が高く、洗濯や物干し、布団の上げ下ろしなどの家事も原因になります。
 変性断裂は、腕を胸から顔の高さに上げた時に痛み、ひっかかるような感覚を覚えます。ごりごりと音がすることがあります。痛い方の腕を反対側の手で支えて持ち上げられるが、自力では無理な場合があります。外傷性断裂は転倒したり、重い物を持ち上げたりした時に断裂音がして、激痛が走ります。
 腱板断裂が進むと、安静にしていても、痛みが強くなります。鎮痛剤を服用しても我慢できなくなり、睡眠障害が生じ、茶碗さえ持てなくなります。
主な治療法
 ◎保存療法
 ◎手術(腱板修復手術、 リバース型人工肩関節置換術)
治療法
肩腱板断裂/腱板修復手術
 腱板断裂が疑われる場合、問診、身体所見、画像検査などで診断します。特に、身体所見は腕を上げる筋力、腕を内外に回す筋力を診察します。症状の似た五十肩は筋力が低下しないので、それとの区別のため、身体所見が重要になります。腱板断裂の進行はレントゲンでも分かりますが、初期の場合、超音波やMRIで直接腱板を観察して診断します。治療は病状により、保存治療と手術治療に分かれます。保存治療はリハビリとステロイド注射で改善を図ります。完全に断裂している場合、関節鏡視下肩腱板修復手術を行い、腱板をつなぎ合わせます。手術は直径4㍉の関節鏡を関節内に入れて、内部を観察しながら処置します。まず、アンカーと呼ばれる小さなスクリューを骨に打ち込みます。このスクリューの頭部から伸びる修復用の糸を腱に通して、腱の断端を骨に圧着。この状態を続けることで、腱板と骨が次第に元通りに連結します。
 治療は病状により、保存治療と手術治療に分かれます。保存治療はリハビリとステロイド注射で改善を図ります。完全に断裂している場合、関節鏡視下肩腱板修復手術を行い、腱板をつなぎ合わせます。手術は直径4mmの関節鏡を関節内に入れて、内部を観察しながら処置します。
 まず、アンカーと呼ばれる小さなスクリューを骨に打ち込みます。このスクリューの頭部から伸びる修復用の糸を腱に通して、腱の断端を骨に圧着。この状態を続けることで、腱板と骨が次第に元通りに連結します。


肩関節周囲炎(五十肩)

関節を覆う関節包に起きた炎症が広がり発症
 従来、肩が痛み、動きが悪くなる肩関節疾患を五十肩と呼びました。後に、これらの疾患群の中に腱板断裂や肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん)など、原因が明らかな疾患が含まれると判明。現在は、肩関節周囲炎など、原因不明の疾患群を五十肩と呼びます。
 肩関節周囲炎は突然起こります。肩から上腕への疼痛があり、関節の動きが悪くなります。肩関節は関節包という薄い膜に覆われています。ある日、この関節包に起きた炎症が、筋肉と骨をつなぐ腱や骨同士つなぎとめる靭帯、筋肉など周囲に広がり、激しい痛みを引き起こします。その痛みが治まりかけた頃、今度は肩の動きが悪化します。これは炎症により、関節の動きを円滑にする滑液を生成する滑液包や関節包が硬く小さくなったためです。
定期的に炎症が再発するので注意が必要
 発症から約2週間が急性期です。肩周辺の広い範囲に疼痛を感じ、その痛みが上腕にも放散します。この間、衣服の着脱、入浴時に体や髪を洗う動作、腕を上に上げる際に強い痛みを感じます。肩関節が痛むのと同時に、関節の動きに不具合が生じます。
 急性期後の約6カ月間は慢性期です。この時期、安静時痛は消えますが、上腕を上げる途中で痛みを感じます。さらに、肩関節の動きが悪くなる拘縮が起きます。
 慢性期後の約1年間が回復期です。運動制限が改善し、運動時痛が消失します。肩関節周囲炎は、放置しても自然治癒することがあります。しかし、多くは定期的に炎症が再発し、寛解を繰り返します。また、発症した逆側に、新たな関節痛の発症もあるので、注意が必要です。
治療法
肩関節周囲炎
 肩関節周囲炎は治療することで、肩関節の痛みが和らぎ、可動域が改善します。保存療法は三角巾やアームスリングを使い、安静にします。関節の動きが悪ければ、理学療法が有効です。特に、患部の血行が改善して痛みが和らぐ温熱療法は効果的です。薬物療法は消炎鎮痛薬として、非ステロイド性消炎鎮痛薬が多く用いられています。患部に鎮痛剤を直接注射するトリガーポイントブロックがあります。どうしても痛みが緩和しなければ、局所麻酔薬を注射する神経ブロックを行います。肩の動きが極端に悪い凍結肩の場合、関節鏡による手術を選びます。関節授動術は全身麻酔下で肩関節を強めにストレッチして関節の動きを改善します。鏡視下関節包切離は硬く収縮した関節包を電気メスで切開して広げ、肩の動きを滑らかにします。
 どうしても痛みが緩和しなければ、局所麻酔薬を注射する神経ブロックを行います。肩の動きが極端に悪い凍結肩の場合、関節鏡による手術を選びます。関節授動術は全身麻酔下で肩関節を強めにストレッチして関節の動きを改善します。鏡視下関節包切離は硬く収縮した関節包を電気メスで切開して広げ、肩の動きを滑らかにします。
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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