全身の痛みと疾患

骨格と神経が全身を作り上げる
全身に痛みやしびれを引き起こす症状として、脳の機能障害によるものと考えられる線維筋痛症や免疫異常が原因となるリウマチ性多発筋痛症、手や足のしびれを引き起こす末梢神経障害があります。線維筋痛症とリウマチ性多発筋痛症の正確な原因は明確にされていません。全身の骨と関連する疾患として、骨粗鬆症があります。骨がもろくなり、軽い打撲でも重篤な骨折を引き起こす可能性があります。この疾患は稀ではありません。また、多くの患者さんが自覚症状を感じないという問題も存在しています。


骨粗鬆症

骨粗鬆症

日本では約1300万人が罹患し増加傾向に
 骨粗鬆症は、骨の強度が低下し、骨折のリスクが増加する状態を指します。一般的に、骨密度(骨のカルシウム量)が低下し、骨内の微細な柱が細くなり、途切れることで骨組織が脆弱になります。現在、日本では高齢化に伴い、約1300万人がこの疾患にかかっており、新規骨粗鬆症患者は年間100万人ずつ増加していると考えられています。
 骨は絶えず古い部分を破壊し、新しい骨を生成することで、骨量や質を維持するメカニズムが働いています。しかし、一般的には、加齢に伴い骨生成量よりも破壊量が増加し、徐々に骨密度が低下していく傾向があります。特に閉経後の女性(女性ホルモンの減少が関与する)では、閉経後の5~10年間は骨密度の減少が比較的速いペースで進行します。
 男性の場合、飲酒、喫煙、運動不足といった生活習慣が主な要因とされることがあります。
 骨の強度には、「骨密度」と「骨質」が関与しています。骨密度は骨内のカルシウムの量を数値化したものであり、骨強度の約70%を占めていると考えられています。骨質は、骨の細かな柱が適切に配置されており、細かなひび割れや空洞が存在しないかどうかなど、複数の要素が含まれています。これらを検査することは困難であるため、通常の診断では、骨密度検査の結果を基におおよその骨強度を推定し、骨粗鬆症の診断や治療開始の基準を定めることが一般的です。
栄養バランスの良い食事と骨密度アップの薬物療法
 骨密度アップには、栄養バランスの良い食事と薬物療法の組み合わせが有効とされています。
 栄養バランスの良い食事は、骨の健康を促進するために重要です。カルシウムやビタミンDなどの栄養素は骨形成を促進し、過剰な骨吸収を抑制するために必要不可欠です。骨の形成に必要なタンパク質も十分に摂取することが重要です。
 さらに、薬物療法も考慮されます。薬物療法には、ビスホスホネートや選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)などがあります。モノクローナル抗体やホルモン療法も含まれます。
 骨密度の低下や骨粗鬆症の治療は、医師の指導のもと、個々の状態や必要性に応じて適切な栄養療法や薬物療法が選択されます。
主な治療法
 ◎薬物療法
 ◎食事療法
 ◎運動療法
治療法
骨粗鬆症/投薬中も休薬中も定期的な検査が重要
 骨粗鬆症の治療には、「骨形成促進薬」と「骨吸収抑制薬」という2種類の薬があります。従来は主に骨吸収抑制薬が使用されてきましたが、最近では早期に骨形成促進薬を積極的に使用することで、骨折のリスクを低減できるとされています。治療薬には内服や注射といった投与方法、毎日、週1回、月1回、半年1回、年1回といった投与間隔のさまざまな選択肢があり、患者さんに合わせて継続的に使用することができます。ただし、骨密度の数値が薬物治療によって改善されたとしても、骨粗鬆症と診断された方は休薬後に骨密度の減少などが起こるため、再治療が必要になる場合があります。治療薬が休薬されたからといって完治しているわけではないため、定期的な経過観察(検査)を継続して行い、必要に応じて適切な治療を受けることが重要です。
 骨密度の検査は、手首やかかとで調べる方法もありますが、正確な診断をするためには背骨と大腿骨で行います。
 以上のように、骨粗鬆症の治療は定期的に検査を行いながら、骨密度の数値に応じて時折休薬期間を設け、場合によっては10年単位の長期的な治療が行われます。その間、バランスの取れた食事を心がけ、飲酒量を抑えながら、骨折を予防するために軽度の運動も必要です。

治療法

[COLUMN]骨粗鬆症に立ち向かうために
50代になったら定期的な検査を
 骨粗鬆症における主な原因は加齢であり、特に女性は閉経後、急速に骨密度が低下します。実際、70歳以上の女性の平均骨密度は、若年成人平均骨密度(YAM)の70%以下になります。つまり、高齢者は骨粗鬆症に罹患する可能性が高く、まずはこの点を確認する必要があります。50代になったら、性別に関係なく定期的な検査をお勧めします。
バランスの取れた食事とカルシウム摂取量も重要
 骨粗鬆症に有効な栄養素は、主にカルシウムといえます。実際には、一日のカルシウム摂取量は約800mg程度が適切です。しかしながら、骨は単にカルシウムだけで構成されているわけではありません。蛋白質やビタミンなども必要不可欠であり、カルシウムを十分に摂取していても、偏った食事では効果がありません。また、カルシウムと同時にビタミンDを摂取することで、腸管でのカルシウム吸収率が向上すると言われています。更に、禁煙と飲酒の節制も心がけてください。
簡単な運動で筋力アップをし骨折リスクから身を守る
 骨粗鬆症患者は、わずかな力で体全体に骨折が生じるリスクがあります。特に、「椎体骨折(背骨の骨折)」、「大腿骨近位部骨折(ももの付け根の骨折)」、「上腕骨近位部骨折(肩周囲の骨折)」、「橈骨遠位端骨折(手首の骨折)」は、骨粗鬆症に伴って生じやすい4大骨折といわれています。高齢者は、大腿骨を骨折して寝たきりになったり、背骨の骨折によって姿勢が悪くなったりすることで、心肺機能や消化器に支障を来す可能性があります。このような場合、骨の問題だけでなく他の健康問題も生じることがあります。転倒を防ぐために、日常的に軽い運動を続けて筋力を強化することが重要です。
※『名医のいる病院2024 整形外科編』(2023年10月発行)から転載
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