加齢とともに生じるさまざまな 眼の病気

慶應義塾大学病院 眼科 診療科部長・教授 根岸 一乃(ねぎし・かずの)

白内障、緑内障、網膜硝子体疾患など、視力や視野に異常が現れる眼の病気。治療法も進歩し、低侵襲手術や薬剤の適応拡大などが、疾患ごとに実施されています。
疾患の特徴
視力を守るため検診での早期発見を目指す
 中高年になると、さまざまな眼疾患の発症リスクが高まります。水晶体が濁る白内障はその代表例で、まぶしく感じる、モノが二重に見える、目がかすむなどの症状が現れます。進行すると水晶体全体が濁り、視力が低下し、手術が必要となります。糖尿病患者やステロイド剤を服用している人は特に白内障のリスクが高くなります。
 他にも視力が低下し、最悪の場合失明に至るような、さまざまな疾患があります。中高年の失明原因で最も多いのは緑内障です。眼圧の上昇で視神経が障害され、気づかないうちに視野が狭くなります。かなり進行するまで自覚症状に乏しいのが特徴で、放置することで失明を招く可能性があります。健康診断や人間ドッグでの早期発見が重要です。
 眼底で薄い膜状をしている神経である網膜や、眼球内部を満たすゼリー状の硝子体に生じるさまざまな疾患を、総称して網膜硝子体疾患といいます。これらの中にも、失明が懸念される疾患があります。具体的には網膜の中で出血する糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症、モノがゆがんで見える加齢黄班変性や網膜前膜などが挙げられます。
 眼の病気は種類が多く、専門領域は広いといえます。自分の疾患の専門領域を得意とする医療機関を受診するか、かかりつけ医に紹介してもらうことが重要です。

ここがポイント

主な治療法
検査の精度が向上し治療法も発達
 眼の病気の検査では3次元画像解析装置である光干渉断層計(OCT)の登場で、診断の精度が向上しました。加齢黄斑変性や網膜前膜の診断に有効なうえ、神経線維層の厚みも把握できるため、神経線維層が薄くなる緑内障の早期発見にもつながります。
 最近ではOCTアンギオグラフィーという新しい検査機器も登場しました。造影剤を使わずに、眼底の血管を毛細血管レベルで撮影できることから、患者さんの負担を大幅に抑えられます。
 治療法は、それぞれの疾患によって異なります。白内障では濁った水晶体を砕いて吸引し、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。単焦点、多焦点、乱視矯正レンズなどがあり、ライフスタイルを考慮して選びます。
 緑内障では薬物療法で進行を止められない場合、眼圧を下げる手術を行います。眼圧上昇の原因となる眼球内の水分(房水)の流れをよくしたり、別の場所に房水の出口を作ったりします。最近ではMIGS(低侵襲緑内障手術)という小さな創口で行う術式も登場しました。
 糖尿病網膜症や網膜前膜などでは網膜や硝子体に手術をします。眼球の数カ所を小さく切開し、硝子体を切除して網膜表面に生じた異常な組織を取り除き、剥がれた網膜を修復して機能回復を目指します。
 滲出型の加齢黄斑変性は第一選択として抗VEGF薬の硝子体内への注射療法を行います。注射で改善がみられない場合、光感受性物質を腕の静脈から投与のうえ、レーザーを病変に照射する光線力学療法を行うこともあります。
 さらに網膜の一部分を、iPS細胞を用いて作成し、患者さんの眼に移植する再生医療の研究も進んでいます。
 近年では滲出型の加齢黄斑変性の治療に用いられていた抗VEGF薬が、網膜静脈閉塞や糖尿病網膜症に合併する黄斑浮腫などにも使用できるようになりました。抗VEGF薬は眼底出血の原因となる新生血管(新たにできる異常な血管)や血管からの漏出を抑える作用があり、難治性の症状に対する新たな治療法として期待されています。

治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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