【眼科医療最前線】眼科でこそ活きる AI画像診断

【眼科医療最前線】眼科でこそ活きる AI画像診断

人工知能、AIは理解や推論、問題解決など人間の知的行動をコンピュータで人工的に再現した技術。この人間が生んだ新たな頭脳を応用・活用した眼科向け画像AI診断支援サービスが「DeepEyeVision」だ。AIが瞳孔の奥を撮影した眼底画像を遠隔で解析、診断する画期的なシステム。このシステムは自治医科大発のAIベンチャー企業が開発した。同大の准教授および、同社CEOで開発者の髙橋秀徳医師は「AIの力で失明する人を一人でも減らしたい」と将来を見据える。タッグを組んだAIと眼科診療。果たして、どんな相乗効果を見せるのか。
眼底画像を解析、疾患名とその確率を提示
システム開発の立役者となったベンチャー企業はシステム名と同じ「DeepEyeVision」。目は体の窓で、その奥、眼底をのぞけば、さまざまな体の異変が見えてくる。
まず、患者の眼底検査をした医療機関が、撮影した眼底画像をクラウドシステムにアップする。この画像を同社のAIが一次解析した後、候補と思われる疾患名をその確率とともに提示する。レントゲン画像などから病気の有無や程度を診断、同社と提携する読影医が、提示された疾患名を参考にしながら、元の眼底画像を観察して最終的な診断を下す。その結果を医療機関に回答する。AIによる解析と医師による遠隔読影を組み合せたクラウド型サービスだ。

検査の様子

医療機関から集めた約50万枚を深層学習
「AIは自治医科大学の健診センターで過去10年間に撮影され、さらには、栃木県内にある近隣の医療機関から集めた眼底画像、約50万枚を深層学習しています。このAIが写真を解析し、網膜の出血の有無、眼底の血管や神経に異常がないかなどを読み取り、病気の可能性を提示します。AIが算出した病気の可能性と、実際の医師が下した診断と一致する確率は80%を越えています。糖尿病、緑内障、網膜剥離、動脈硬化、高血圧症、脳腫瘍など約100種類の病気の疑いを判定できます。」(髙橋医師)現在、健診センターや総合病院の健診部門、眼科クリニックなどの10の医療機関がこのサービスを導入している。
「当初、AIが示した病名を、本当なのかと、信じられない時もありました。しかし、画像をよく見てみると、小さな出血を見逃していたことがありました」と髙橋医師自身もAI診断の精度に舌を巻く。
このシステムを開発した髙橋医師は2001年、東京大学医学部を卒業。長らく、東京大学眼科と自治医科大学眼科で眼底の失明性疾患の研究に従事した。2016年にDeepEyeVisionを起業。栃木県を拠点にして、自治医科大学眼科准教授として失明性疾患の診断・治療に従事しながら、健診眼底写真読影支援システム「DeepEyeVision」を開発した。

AIを活用した遠隔読影サービス

AIの能力の高さを知り、起業を決意
「2015年頃、深層学習したAIが人間の画像識別能力を超えるなど、人工知能がすごいらしいことを知りました。そこで、深層学習の研究を始め、成果を論文掲載した際、文中のURLをクリックするとサイトが開き、そこに眼底写真をアップロードすると、AIが診断するサイトを開発しました。しかし、大学の研究支援課の人から「大学は教育機関なのだから、そういう事業は大学の経費でやってはいけない。個人で事業を起こしてやりなさい」と言われ、そんなものかと納得して、DeepEyeVisionを起業しました。
眼科領域の起業家・開発者としての片鱗は子どもの頃からあったという。「もともと、メカニックとか虫に興味があり、特に昆虫撮影が好きでした。同じくらい、カメラへの造詣も深めていました。なので、医学部を受験する前は精密機器を作るメーカーに勤めたいとも思っていました。医学部入学後、たまたま眼科の先輩から『眼科は機械をいじるような、いろいろな研究できる楽しいところだよ』と誘われ、それに、カメラは目と同じ構造ですから、なんとなく面白そうだと思い、眼科の道に進むことになりました」。

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眼科医の都市部偏在をAI画像診断が改善
髙橋医師が眼科医療において、問題視する一つに眼科医の都市部への偏在がある。
「地方都市の眼科クリニックは患者さんで非常に混み合い、待ち時間も長い。僻地では、月に1回、大学病院などから眼科医が一人で赴き、診療しているところもあります。その後は、約1カ月間、その地は眼科医が不在になってしまうのです。対して、AIの活用や遠隔医療の実現など眼科医療が高度化することで、眼科医の偏在は改善されます。末期まで自覚に乏しい糖尿病網膜症や緑内障などの各種疾患を早期発見する可能性が高まるでしょう。それが国全体の医療費削減につながると期待しているのです」
髙橋医師が画像AI診断支援システムを開発した最大の理由が、眼科医の負担軽減だという。そこには、日本の眼科医療が帯びる特殊性がある。
「眼科も医学の向上が急速に進み、医師の専門性が高くなり、細分化しているのが実情です。その結果、一人の眼科医が目の表面から奥まで、全てを診断・治療するのがほぼ不可能なのです。つまり、眼底を専門にする眼科医は、角膜など目の表面に精通していません。その逆も然りです。さらには、専門性の高い医療機関には、そこでしか治療できない患者さんが密集します。そのため、待ち時間が数時間にも及ぶことも珍しくありません」

診断にかかる時間が約3分の1に短縮
こうした眼科医の間にある専門性の隔たりを解消し、診療の負担を軽減するためにはAIの力が必要だと、髙橋医師は力を込める。
「AIが眼底画像の異常部位を指摘して、診断名を提案すれば、眼科医は今よりも短時間で的確に病変が見つけられます。それにより生まれた余剰時間を、より多くの患者さんの診療に充てられます。実際に、このシステムを導入した健診センターは医師の診断にかかる時間が約3分の1に短縮され、病気の見落としが減りました。また、読影医による診断結果のばらつきが極めて少ない平準化を可能にするでしょう」
今後は診断の精度をより高め、健康診断や一般のクリニックでも使えるようにしたいという。

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※『名医のいる病院2023 眼科治療編』(2023年3月発売)から転載
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